最強婿養子伝説 第四話 ──by司書──
睡蓮の花々が清らかに咲く水面を眺めながら、
朔は自分を抑えきれない不甲斐なさを深く悔いていた。
譲の優しさを素直に受け取れない心の狭さに溜め息が零れる。「黒龍……私……どうしたらいい?」
梶原邸から駆けつけた譲が声をかけようとした時、朔が呟く声が聞こえた。
微かな、吐息に近いその声は確かに“黒龍”と、かつての恋人を呼んだ。
その事実がひどく、譲の胸に応えた。ぶっちゃけ、朔の責任感と勢いと熱意に流される形で、梶原家の婿養子に収まったような譲である。
当初は我ながらぎこちない夫婦ぶりだったとさえ思う。
けれど、少しずつ共に日常を暮らしているうちに心が寄り添ってきているような気がしていたのだ。
だがそれは、所詮は自分の独りよがりだったのだと、朔の呟きに悟った。
一度は消滅し、新たに生じた龍神には敵わない。
その事実がひどく熱く、そして苦々しく胸を灼いた。譲は無言のまま神泉苑を後にした。
虚しい気持ちのまま、ただ歩みを進めていると見慣れた顔を見つけた。「九郎さん」
赤みがかった髪を揺らしながら振り返る笑顔の底抜けの明るさが、どうにもムカツク譲である。
「譲か。いいところで会った」
「どうしたんですか、こんな所で」
「お前を訪ねようと思っていたんだ。実は、折り入って頼みがある。
弓を教えてくれ。那須与一はどうも遠慮があるらしくてな、俺に対してあまり厳しくは言わないんだ。
その点、お前なら遠慮なくしごいてくれそうだろう」
「なんだ、そんなことですか」譲は人の好い微笑みを浮かべ、おやすいご用だと請け負った。
丁度いい、特訓だと称してこのお人好しで憂さ晴らしをさせてもらうと、
思ったのかそうでないのかは、譲の胸下三寸にのみ秘されるばかりであった。
第参話 第五話
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