(ニセモノ社会:5)売られる博士号(朝日新聞)
2008年01月06日
文部科学省が昨年末、奇妙な調査結果を発表した。
実態の伴わない博士号や修士号を発行する機関があり、そこから得た「ニセ学位」をもとに04〜06年度に採用されたり昇進したりした教員が、全国4大学に4人いたという。
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社会的に通用しない学位を発行するビジネスを「学位商法」と名付けて研究してきた静岡県立大の小島茂教授によると、発行機関は少なくとも数十カ所ある。一つの例はイオンド大学だという。
その日本校のホームページには「文科省の所管する大学ではない」とある。総合学部や国際関係学部のほか、未知現象研究学部や催眠学部を置く。
日本校を訪ねると、本部は、東京都杉並区の環状7号線沿いの雑居ビル内にあった。4階が事務所で、5階に応接室があった。
「小島教授から誹謗(ひぼう)中傷を浴びせられ、迷惑しているんだ」。高橋斎代表は激しい口調で切り出した。
高橋代表らによると、日本校は99年に株式会社として設立し、籍を置く学生約100人の大半は働きながら学ぶ社会人だという。「キャリアアップを目指す社会人に門戸を開くのが狙いだ」
学生が社会で培った経験を査定評価し、単位に置き換える。名誉学士号や名誉修士号、名誉博士号を与えているという。
「学位商法」との非難に対し、高橋代表は「非認定校と知ったうえで学位を受けて何が悪いのか。いろんな大学の形があっていい」と話した。
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「非認定校」。この言葉には解説が必要だ。
日本では、学位は基本的に文科省の認可した大学が発行する。米国では原則として、州当局から認証された民間団体が、学位を保証する。日米ともに、公式の認証を受けていない大学は「非認定校」として扱われ、学位に疑わしい点があるとされる。
小島教授によると、非認定校は米国には300近くある。州が認証していない団体による「認定」をホンモノと信用させ、学位を売りさばくことが社会問題化した。「ディプロマ・ミル」「ディグリー・ミル」などと呼ばれる。「学位工場」といった意味だ。
日本の教育界では数年前から問題視されるようになった。
たとえば九州産業大では昨年、博士号などを与える立場にある商学部の教授(64)が、非認定校のひとつで学位を取得していた疑いが浮上し、内部調査をした。
大学の説明によると、この教授は、農協流通研究所主任研究員だった89年、雑誌広告で通信教育制の「クレイトン大学」を知った。3年間週1回程度、都内の日本人教官のもとへ通い、日本語で経営学の論文を書いた。授業料は年60万円。学位を得るまでに資料代を含め240万円かかった。
農協流通研の同僚の多くが博士号を持ち、大学などの教員に転職していた。この教授は「将来に備え自分も博士号を取っておいた方がよいと思った」と説明している。
しかし、九州産業大が米国大使館などに確かめたところ、クレイトン大学は米国で非認定校として扱われていた。
考古学が専門の早大客員教授(64)の場合、同大の助教授だった95年、「パシフィック・ウエスタン大学」の博士号を取得した。長く非認定校と気づかなかったという。「当時は英語の論文力を試したかった。学費を30万円ほど納め、論文審査を受けた。インチキとか学位を金で買ったとか疑いもしなかった」
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米国では、学位論文やリポート類に他人の書いたものを盗用する「ニセ論文」も横行している。
盗用の有無を自動探知する事業を始めたジョン・ベリー氏によると、盗用かどうかの問い合わせは、日本を含む約90カ国から1日平均12万5千件寄せられる。全文の25%以上に「他人の文章」を含むものをニセ論文とすると、その数は約3割に上るという。「学位を勝手にプリントアウトしているようなものだよ」とベリー氏は話す。
学位は、中世ヨーロッパの大学における教授職の資格が起源とされる。
「日本では90年代、大学院の充実を図ろうとしたことから、学位の氾濫(はんらん)が始まった。学位を持っていることが当然になり、学位を出す側の教員が博士号や修士号を持っていないと、周囲は認めてくれなくなった」
札幌学院大の佐々木冠准教授は、学位商法の横行をそう分析する。佐々木氏は昨年、この問題をゼミで取り上げた。安易に学位が取れることがどういうことか学生たちに考えてほしかった。
「カタカナ名だと外国のちゃんとした大学と思われがちで、人物を見ない傾向がある」「ニセ学位は、何でもお金で買える風潮を反映している」。学生からはそんな反応が返ってきた。(松永佳伸、田中久稔) |