最強婿養子伝説 第壱拾弐話 ──by司書──
だったら何故、譲と朔の仲はいつまでも、これほどまでにまどろっこしいのだろうかと、
素朴な疑問を望美が抱いた時、勝手口から口笛が聞こえた。「よう、朔、久しぶりだな。しかし、譲と朔は相変わらずラブラブだな?」
聞き慣れた戸口を見ると、懐かしい笑顔があった。
「将臣殿」
「将臣君、どうしたのよ、一体?」
「飯、食いに来たんだよ、飯を」
言いながら将臣は、遙か南の島から持参した糖蜜だの干した果実を収めた壺を、朔に手渡す。
京では貴重な品々を丁重に受け取りながら礼を言う朔に、
将臣は「違うだろ、朔?」
と笑いかける。すると朔は僅かに目を見開き、「そうでした」と、答えた。
「ありがとうございます、お兄ちゃん」
ご丁寧に“お兄ちゃん”という言葉に合わせて小首を傾げる朔。
その胸元では小振りの壺が、白い両手で包まれている。「ちょっと、何よ、それ」
「あら、望美。あなた方の世界では、兄君を“お兄ちゃん”と呼ぶのでしょう?
その時には首を少し傾けるのがお作法だと、将臣殿……じゃなくて、お兄ちゃんに教えてもらったのだけど」
呆れ果てた望美が朔の肩越しに将臣を見ると、鼻の下が伸びきったマヌケ面がある。
そう言えば、コイツは“ときメモ”よりも“シスプリ”だったっけか、などと
実はギャルゲー好きな将臣の過去というか、未来を思い返したりしている場合ではなかった。
「えーとさ、朔。譲君と九郎さんが誤解がどうこうって、何の話?」
「日暮れ前に、神泉苑に行ったの……
もしかしたら、譲殿が……迎えに来てくれてたのかも知れないのだけど……」
「だけど?」
「偶然に会ったヒノエ殿と戻って来たから、行き違いになったかもしれないの。
いいえ、もしかしたらヒノエ殿と邸に戻る姿を……」
「ちょっと待ってよ、ヒノエ君て……九郎さんじゃなくて?
そういう経緯で九郎さんが朔を押し倒すのは無理がない?
てゆーか、流れがつながんなくない? というより、全然つながってないじゃない」
「や、それ以前に、九郎に女が押し倒せるって考える方が根本的な間違いだろう。
できると思うか、あいつに? 九郎だぜ? 九郎」
「そうよ、望美。九郎さんは蹴躓いただけよ。
私、九郎さんが避けられなかっただけなのだけど……」将臣と朔の言葉に、望美の顔から一気に血の気が引いた。
「将臣君、大変! 朔を押し倒したって譲君が勘違いして、九郎さんをグーで殴ったみたい。
で、今、池の近くで弁慶さんと二人で、九郎さんをシメてるかも!!」
バレたらバレた時のことと、自分の蹴りはなかったことにした望美が将臣を見る。
その言葉に頷き、将臣は厨から走り出る。そして、その後を望美と朔が追った。
第壱拾壱話 第壱拾参話
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