最強婿養子伝説 第七話 ──byニシオギ──
(一体何だってこんな事になってるんだ……?)
端から見れば相思相愛としか見えぬのに、どうも最近様子がおかしい二人。
他者が口を出すと拗れると思ったからこそ、
邸の者にも後をつける事を許さず、自らも様子を見に行かなかった。
一時もすれば、二人連れ立って戻るだろうと思っていたのだ。
しかし蓋を開けてみれば朔はヒノエを伴い、譲は何故か九郎と一緒だ。「なあヒノエくん…。朔は一体何処に居たんだ?」
「神泉苑…朔ちゃんが行きそうな場所ではあると思うけどね。譲だって真っ先に思いつくだろうさ」
「だよなぁ……じゃあ何故譲くんは九郎と一緒なんだ?」
「さぁてね……ただ、あんな瞳をした奥方を放っておく何て、誰に盗られても文句は言えないな。だろ?」
「問われてもねぇ……物騒な事言ってくれちゃって。全く……」はぁと景時が溜息をつくと同時に、構うな構うなという声が聞こえ、がらりと戸が開けられる。
「おお!邪魔するぞ景時!何だヒノエも来ていたのか。賑やかで良いな!!」
賑やかなのはお前一人だ。
「全く勝手に入って行かないでくださいよ。家の者も困ります」
「いつもの事じゃないか。固い事を言うな」
譲の小言を受けつつ、どかりと座敷に座り込むと、
「ああ、そんな所に居ずに、朔殿も一緒に呑もう」
と朔に笑顔を向ける。
「いえ、私は……」
ふいの客も多いこの邸では、もてなしも融通が利く。一人二人増えた所でどうと言う事は無い。
この邸の主人らの人柄を良く現していた。
手際良く九郎の膳を運んできた朔は、譲と合った視線をつい逸らしてしまう。「『 秋の夜の 月かも君は 雲隠り しましく見ねば ここだ恋しき』 ってね。
元々はオレ達が語り合う為に設けられた宴だろう?月の姫君」
「なっ……!」
睨め付ける譲を涼しい顔で流し、促す様に杯を差し出す。
「月を隠す雲はその背の君か、それともお前は雲にすらなれぬか」
「ヒノエっ!」
「お、おいヒノエくん。冗談が過ぎるぞ」
「んっ?何だ何だ。良く分からんが、とにかくあれだ。立場上皆が遠慮をする宴も多いからな。
気が置けずに酒が呑める折角の宴だ、楽しくやらんか?」ヒノエの歌はつまりは
”貴方は秋の夜の月なのでしょうか。束の間でも雲に隠れて見えぬ月が気になる様に
ほんの暫く会えなかっただけでこんなにも恋しい”と言った所なのだが
屈託無く笑う九郎に皆が大人しく席に着いた。「いや、しかし朔殿。譲の稽古はなかなかに厳しいな。久々に稽古らしい稽古をしたという感じだ」
「そっ、そうですか?余り想像がつきませんが」
「そうか?何でも向こうの世界では、ぶちょうというのをしていたらしい
つまりは大将のようなものか?それならば下の者を纏めるには厳しさも求められるからな」
「いや……そんな大げさなものじゃありませんよ」
譲は苦笑する。自分も良い憂さ晴らしになったのだが、このお人好しは筋金入りだ。
「うむ、思えば異世界から来たというのに、戦場では最初から肝が据わっていたな」
それは望美を守りたい一心からだった。あの頃は。
「何にせよだ。いきなり頼んだのに有り難いぞ、譲。しかし今思えば何か用事の途中だったのではないか?」
鈍いくせに、いきなり確信を突く男である。
「………それは」「あ……あの、お酒が少なくなってきましたね。私、ちょっと厨へ」
沈黙に耐えきれず、朔が立ち上がった。
第六話 第八話
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