彼らの隠れ家 6
幼稚園と小学校、そして中学生の教師代表の5人は土曜日になると必ず顔を合わせ、1ヵ月後に控えた運動会の準備を進めた。生徒達の出場種目の練習は、体育や担任の教師に任せきりにできるので面倒はない。山田と山瀬をはじめとする合同運動会準備委員会の面々の仕事は、それ以外の、実に面倒くさくて煩雑きわまりない雑用を担当することとなる。小学校高学年と中学生の中から選び出す、運動会当日の各種当番の決定や振り分け、プログラムの調整や決定を集まって行い、その結果をそれぞれの職場で同僚や先輩職員達に伝達し、問題の有無を確認してから、再度、どこかに集まって最終的な形を整えていく。
既に決まっている予行演習と、その前に行う、運動会の会場となる小学校の校庭を借りての練習の日程を調整したり、中学校や幼稚園から当日に使う様々な道具の酒類や数量、保管場所などを打ち合わせ、修理や、多少でも手入れをしなければならないものを書き出して、生徒や他の教員の手を借りながら、空いた時間で作業進めるように手配する。
典型的な専業主婦の母と、世話好きを絵に描いたような姉と、幼い頃から姉の真似ばかりしていた妹に囲まれて育った山瀬は、実はこういった作業が苦手だった。というよりも、人の世話をあれこれ焼くことに慣れていないのだ。実際、田中、藤原、北川の3人をリードしながら、合同運動会に初めて参加する山瀬をサポートしながら合同運動会準備委員会を仕切っているのは山田であり、彼はそれぞれの性格に合わせて過不足なく仕事を振り分けるのだが、その見事な手腕に山瀬は素直に感心している。だが、ここ数日は何かが妙に感じられた。
何が、どういう風にといったように具体的な確証はない。けれど山田の態度が小学校に行くとぎこちなくなるのが腑に落ちず、山瀬は山田に女性軍と何かあったのかと問うたりもした。しかし山田は何もないと慌てて答えるばかりで、その慌てぶりが平静だとは思えないのだという山瀬の指摘もはぐらかしてしまうため、埒が明かない。しかし中学校にいる時の山田は普段と変わりがないことから山瀬は、実は運動会準備委員会の三人の女性の一人が、山田の意中の人ではないかと思い至った。
人当たりの良い山田だったが以前、女性と接するのは苦手だと言っていたことを思い出した山瀬は、ならば自分がお節介を焼いた方がいいのではないか。それが公私ともに世話になっている山田に対するお返し位にはなるだろう。けれど山田の恋が成就するのであれば、自ら道化役を買って出るのも悪くない。そう考えた山瀬は、三人の中で最も話しやすそうな藤原紀子をこっそりと誘った。
◇◇◇
いかにも女性受けしそうな店構えのビストロで、注文した料理が運ばれるのを待つ時間さえ惜しんで、山瀬は山田の様子がおかしいこと、運動会の打ち合わせになると落ち着かなくなることを藤原に話した。
「こう言うたらアレですけど、山田先生の落ち着きがないんは、今に始まったこととちゃうと思うんですけど……」
と、苦笑する藤原に山瀬は言った。
「でも……」
「まぁ、山瀬先生が言わはるように、私らに会う時にだけヘンな感じになるとしてですね。それ、何が原因やと思わはるんですか?」
「僕の憶測に過ぎないんですけど、山田先生は……その……準備委員会の誰かが好きなんじゃないかと……」
「へ」
山瀬の言葉に藤原は惚けた声と、普段の知的な表情からは想像もできない間の抜けた顔で応えた。
「それでですね。藤原先生の意見を伺いたいんです」
「意見……言うたかて、私は……」
藤原は困惑した顔でワインを空けた。それから気を取り直したように、山瀬に問いかける。
「なんで、山田先生が、田中先生か北川先生のどっちかが好きやと、思わはったんですか?」
「何となく、田中先生達を気にしているように見えたんです。根拠は……これといってないんですけど、でも……」
山瀬の言葉を聞きながら、藤原は何かを考えているようだった。
ひとしきり思いを巡らせてから、藤原はゆっくりと話し始めた。
「私もよう知らんねんけど、それとなく訊いてみましょか。まぁ、十中八九、山瀬先生の思い違いやと思いますけど」
「どうして、そう思うんですか?」
「そら、山田先生がエエ人やから」
「いい人だと、どうして思い違いになるんですか?」
「そんなん、決まってますやん。ただのエエ人は同僚とか友達にはええけど、恋人には向いてへんでしょ? 女性にもてるんは、むしろ川辺さんみたいなタイプやと思いますけど」
「川辺さんもいい人でしょう?」
「エエ人やけど、“エエ”の種類がちゃいますやん。山瀬先生、わからはりません?」
にっこりと藤原が微笑んだが、山瀬にはその微笑みの意味も、言葉の真意もわからず、ただ途方に暮れた。
「山田先生も川辺先生もいい人ですよ。二人とも個性的だし……仕事だってできるでしょう。山田先生もですけど、川辺さんも生徒達の間では人気者ですし……」
「女子供を一括りにはしはらん方がええんちゃいます? 山瀬先生は」
藤原は意味深な微笑みを浮かべたが、山田の想い人についても、それから山田と川辺の評価の違いについても、それ以上語ることはなかった。
中途半端な話しか聞き出せないことに不満を感じはしたが、山瀬は藤原を深く追求するのをやめた。男よりも遙かに情報操作や、その管理に長けている女性を相手に真っ向勝負を挑むのは分が悪すぎる。それよりも頃合いを見計らって当事者であるかもしれない二人のどちらかにアプローチした方が得策だとも思えた。それにいざとなれば山田本人に話せば済むことでもあるし、先に川辺の協力を取り付けることも可能だ。そう判断した山瀬は藤原を誘った立場をわきまえて、眼鏡のよく似合う彼女の良き話し相手に徹した。
山瀬にとって極秘のつもりだった藤原紀子との会見は、極秘にはならなかった。というのも、それ以来、田中、北川、藤原の三人の女性の様子が明らかに違っている──というよりも、明らかに山瀬自身が何らかの話題を提供しているように思われるのだ。藤原と食事をした数日後、それとなく藤原に状況を聞いてみようとしたのだが、意味深な笑顔を返された揚げ句、のらりくらりと逃げられてしまった。その時に受けた印象では、状況はおそらく悪いものではないのだろう。しかし自分が話のネタになっているかもしれないことを全く知らないというのは、はっきり言って気分が悪い。物笑いのタネになるような真似をした覚えはないし、自分から積極的に誰かにはたらきかけたりもしてない筈だと、山瀬は大阪に来てからの半年間を振り返ってみた。
押し切られるように山田の親友になり、その後、図書館での勘違いが発端の出会いが川辺との交流につながりはした。長いとは言えない半生の中で完全に予想外の出来事はそれくらいだろう。職場では一般常識の範囲内の言動しかした覚えはなく、以前の職場よりも遙かに規模の小さな学校ということもあり、責任ある役割を任されることも少なくないため、自分なりに精一杯仕事に取り組んでもいるし、幸運なことに致命的な失敗もない筈だ。確かについ、うっかりというようなミスを犯したことがないわけでない。けれど、それもその場限りの笑い話で済むようなことで、従って自分に笑いのネタを提供する可能性は皆無である。百歩譲って、山田や川辺絡みであれば何らかの話題を提供することがあるかもしれない。しかし今回ばかりは山田や川辺は無関係とみえるし、もしも山田や川辺が首を突っ込んでいたとしたら、話の風呂敷は無限大に広げられたものになるであろうことも予想できる。またその場合、十中八九、中学校の生徒達はもちろん、教職員達もこぞって騒ぎに参加するだろうし、どうにかすると保護者や学校の近隣の人々にも知れ渡る筈だ。特に山田と川辺は我先に山瀬をからかうに決まっている。
となると、何とも落ち着かないこの空気は合同運動会準備委員会だけに流れていて、その真相を知らないのは山瀬だけで、それなのに山瀬は当事者である──しかも意味深な藤原の笑顔が意味するものの核心に限りなく近い場所にいると推測できた。彼らの間に何らかの協定が結ばれている、或いは箝口令が敷かれているとするならば、やはり最も懐柔しやすいのは山田だという判断を下した山瀬は、山田に気取られぬよう細心の注意を払いながら、彼との距離を詰めていった。
◇◇◇
ある土曜日、山瀬は北川と一緒に小学校の敷地の外れの、コールタールの臭いが郷愁をかき立てる、古い物置小屋にいた。中学生が中心になる応援団が使う団旗を取りに来ているのだが、どの辺りにしまい込まれているのか、山瀬には皆目見当がつかない。北川に大体の予想を問うてみたりするのだが、こちらに赴任して2年になるとは言え、合同運動会準備委員会は初体験だという北川は全くあてにならず、埃まみれになる作業を女性にさせるわけにもいかなくて、山瀬は一人で小一時間、あちこちに首を突っ込んでは中を掻き回してるのだ。それでも団旗が出てこず、かといって途中で放り出すわけにもいかなくて、山瀬は北川に声をかける。
「確かに、ここにあるんですよね?」
「ええ……と、そう、田中先生が……」
「田中先生は幼稚園の方でしょう? 確かなんですか?」
「え……」
「こういうのは小学校の先生方の管理下にあるんじゃないですか? 小学校の物置にあるんですから、藤原先生に確かめた方がいいように思うんですけど」
「そうなんですけど……」
煮え切らない北川の態度が山瀬の神経を僅かに逆撫でたが、努めて平静を装って山瀬は言った。
「山田先生を呼んできてくれませんか? 去年も準備をしてたらしいから、きっと僕や北川先生より頼りになりますよ」
「あの……」
北川がもの言いたげな表情を浮かべた。
「何ですか?」
おとなしく、口数の少ない北川は困ったような表情になり、それを見た山瀬は脱力するのを止められない。それでも可能な限り感情を抑え込み、山瀬は言葉の続きを促そうと北川を見た。
その途端、北川は黒目がちの瞳からボロボロと涙を零し、その姿に山瀬は言葉を失う。
「私……」
微かな声の片鱗が聞こえたような気がしたが、北川が泣いてしまっていること、そして振り絞るようにして出されたためか、その声は掠れていて、山瀬には北川の言葉は認識できない。
「すみませんが、もう一度。はっきりと大きな声で言ってくれませんか?」
と、山瀬は言った。その後、狭い物置の中だから、声が籠もってしまうのだろうとフォローも忘れずに加えた。しかし北川は両手で顔を覆って、何かを振り切るように物置から走り逃げていった。
「泣きたいのは、こっちだよ」
山瀬はそう呟いて、深々と溜息をつく。
この後、北川は絶対に藤原と田中に泣きつくのだ。田中は押しの強さを発揮して、藤原は理路整然とした口調で山瀬を責めるのだろう。北川は頼りになる同僚の背中に隠れて泣くだけで、山田も女性を泣かせたと言って山瀬を追求する。今後の大まかな筋書きを思い浮かべると、心底情けなくなった。
姉妹のお陰で異性への対応はそれなりの心得があったつもりだった山瀬だが、北川のようにおとなしい女性に接するのは初めてだった。およそ自己主張というものがなく、周囲の話題に相槌を打ちながらひっそりと微笑んでいる。その姿を絵画的だと感じた山瀬であったが、それは他の誰かがいる時に限られた。仕事とは言え、二人きりになると正直なところ、彼女の扱いに困るのだ。山瀬の姉達はこちらが一言言えば、その十倍を優に超える反論だとか反応があったし、学生時代の女友達にも極端に内気な者はなかった。だから突然、何が何だかわからない状況で泣き出された揚げ句、一人で放り出されてしまうと途方に暮れてしまうのだ。
山瀬は落ち着いて、物置小屋に来てからの自分を振り返ってみた。特に失言や失態も思いつかない。多少、気が咎めてしまうのは、初対面の時からずっと、北川に苦手意識を持っていることくらいだ。教壇に立てば多少人が変わるのかもしれないし、案外、あの柔らかな雰囲気が生徒達から慕われる要因になっているのかもしれないが、それでも山瀬から見れば教職に就いているのが不思議でしかない、むしろ昔風の花嫁修業でもしている方が向いていると思える。あまりにおとなしそうだから、田中や藤原には状況に応じて出せる軽口も、北川にだけは憚られた。それがいつの間にか、北川をぞんざいに扱うといったような形になったのかもしれない。だとしたら自分にも確かに非はあるだろうと、山瀬は思った。けれど、いきなり泣き出すくらいなら、その前に一言二言、憎まれ口でも叩いてほしい。それができない性格ならば、泣く前にどこかに行ってくれれば、理不尽さの方が優る困惑などしなかったものをと、山瀬は今はここにいない、楚々と微笑み、楚々と涙を零す、彼の理解の範疇を超える同僚を思った。
「山瀬センセー、沈没してはりません?」
物置小屋の片隅に置かれている平均台に腰掛けていると、陽気な声がかけられた。
「沈没してますよ、どっぷりと」
投げやりに山瀬が答えると、声の主は相変わらずの人の良い笑顔で冷たい缶を差し出す。渡されたウーロン茶のプルタブを引きながら、自嘲気味に山瀬は言う。
「北川先生、どうしました?」
「藤原先生と田中先生が慰めてます」
「慰めてほしいのはこっちですよ」
やはり、そうかと山瀬は内心で舌打ちをした。
「北川先生、センセーに何か言わはりました?」
「何をですか?」
「何……って……その、えーと、色々と」
「北川先生は何も言いませんよ、少なくとも僕の前では。こちらから尋ねてやっと答が返ってくるくらいで」
そう答えると、山田は驚きで目を見張った。
「何かあるんでしょう。僕絡みで、僕の知らないところで」
小学生用の小さな平均台に腰掛けている大きな身体が、僅かに萎縮する。
「そろそろ真相を話してくれませんか。藤原先生や田中先生、それに山田先生までが一緒になって僕に隠していることを」
「別に……隠してるんとは……」
先刻まで浮かんでいた笑顔が消えた顔を、山田は不自然に山瀬から逸らす。
「いい加減にしてくれないと、僕にだって考えがあります」
冷静に、そして突き放すような声音を意識して山瀬が言った。
「考えって……」
山瀬の予想通り、山田は動揺した。
「山田先生が話してくれないなら、僕から北川先生に直接訊きます。僕と組むのは泣きたくなるくらい嫌なのかって」
「そ……そんなん、あきませんて! そんなんと、ちゃうんです!!」
いきなり山田は立ち上がり、山瀬に向き合った。
「じゃ、何なんですか?」
山瀬は山田の目を見詰めて言った。狼狽した山田はあちこちに視線を泳がせてから、大きな溜息を一つついた。
「山瀬センセーには、隠し事はでけへんな……」
そう呟いた山田は事情が複雑なのと、小学校では憚られる話題であるという理由から、今日の作業が終わってから全てを話すと言った。山瀬が念を押すと、逃げも隠れもしないと山田は笑い、それからまるで全ての人の目から隠すように保管されていた団旗を事も無げに取り出した。
「団旗……ですよね、それ」
「このこともコミで、全部言いますから。もちょっとだけ待ってください」
それだけ言うと、山田は物置小屋から出ていった。
取り残された山瀬はヤケになってウーロン茶を飲み干した。
北川が低調だということから、その日の作業はいつもより早く切り上げられた。解散まで、北川は一度も山瀬を見ようとしなかった。山田や藤原、田中らは特に何も言わなかったが、種類は先程とは異なるものの、やはり妙な気遣いが感じられ、山瀬は意味もなく無言の糾弾を受けているような気分になる。
何がなんだかわからない状況でいきなり北川に泣き出された訳だが、どう考えても自分に非はない。だが、いくら自分に責任はないのだと言い聞かせても、目の前で女性が泣いたという事実には、覚えのない罪悪感を覚えてしまうし、また自身に責のないことで思い悩む自分が不甲斐なく思えるし、それと同時に理不尽さも感じる。救いとなるのは今日は作業が終わってからの飲み会がないこと。全員が、すぐに帰途に就く分だけ早く、山田から北川が泣き出した理由をはじめとする、ここ数日山瀬を悩ませていた全ての理由を聞き出せることだ。
バイクの後ろに山瀬を乗せた山田は最寄りの駅前に向かった。いつもの場所にバイクを停めてから、二人は商店街を歩く。昼間の一件もあり、普段よりも口数は少なく、いつもの打ち解けた雰囲気もない。気詰まりにならない程度にぎこちない会話を続けるのも限界で、いつの間にか二人は黙り込んで歩いている。
いつもの居酒屋を通り過ぎて山田が入ったのは、どこにでもある居酒屋チェーンだった。店内の隅のテーブルを選んだ山田は神妙な顔で瓶ビールを頼み、山瀬は食べるものをいくつか注文する。テーブルの上に皿やグラスが並べられてから、山田は重い口を開いた。
「センセーがどうとか……それから誰にも悪気があったワケとちゃうんです」
「それは僕にもわかってるつもりです」
山瀬の顔色を窺いながら山田が言い、普段よりも一回り小さく見える山田に山瀬が答える。
「ホンマは……俺がこんなん言うんは筋違いやし、本人かて嫌やと思うんやけど……」
そう言うと、山田はグラスを一気に空けた。
山瀬がビールを注いでやると、山田は恐縮して頭を下げて言った。
「北川先生は、山瀬センセーが好きなんです。直接聞き出したんは田中先生で、俺は田中先生から、北川先生がセンセーに告白できるような雰囲気とか、きっかけとか作ってほしいて頼まれて……」
「藤原先生は?」
「藤原先生には後から、田中先生から言わはったみたいです」
「それ、いつ頃ですか?」
「2週間くらい前かなぁ……女の人らのことは、俺もあんまり知らへんのではっきりしたことは言われへんのやけど、多分、それくらいやと思います」
ということは、山瀬が藤原を食事に誘った時点で、彼女は何も知らなかった。藤原はあの日、山瀬が話した事柄を確かめようとしたが女性陣に引き込まれてしまい、事情を聞くうちに山瀬に情報を提供するよりも、田中と北川の側につくことを選んだ。職場で毎日顔を合わせている同僚をより大切に思う藤原を責めることはできないし、人道的にもその判断に問題はないとも思う。
しかし、である。
当事者である自分がつまはじきにされるのは状況的には仕方ないとしても、山田が一言二言、山瀬が置かれている状況を多少は踏まえられるヒントのようなものを与えてくれてもよかったのではないか、山瀬には何も言わずに三人の女性達の言いなりになって策を弄するのは似合わないのではないかだとか、女性同士で結託しているのに何故、男同士で隠し事をされなければならないのか、それでよくも“親友”などと言えたものだとか、そんなつまらないことが、そして今回の山田の言動の全てが腹に据えかねしまう。それと同時に、学生時代にも何度かあった似たような、その時には何もなかったように受け流してしまえたことに、バカみたいにこだわってしまう自分自身が、ひどく腹立たしい。
子供じみた言葉を口にするのを恐れ、山瀬は無言でビールを飲み、黙々と料理に箸を伸ばす。 空になったグラスにビールを注ごうとした山瀬の手が、静かに山田に制された。
「俺が注ぎます」
「いえ、いいですよ」
山瀬が答えると、山田は寂しげな微笑みを浮かべる。
「一人暮らし同士、誰かと飲んだり食うたりする時くらい、差しつ差されつっちゅーんもええんちゃいますか? ていうか、俺はその方が、誰かと一緒やて感じがして好きなんです。せやから、山瀬センセーが俺に愛想尽かしてはらへんのやったら、酌、さしてくださいよ」
山田は山瀬の返事を待たずに、空のグラスを黄金色の酒で満たす。それを眺めながら、山瀬は自分の子供じみた振る舞いを恥じた。
「すいません……気がつかなくて……」
山瀬が詫びると、山田は破顔して首を横に振る。
「男の酌なんか気色悪い言うて、嫌がられるのも多いし、気にせんとってください」
そう言ってから、山田は話の続きを始めた。
「北川先生の替わりに、俺が山瀬先生に伝言しましょか、て言うたんです。けど北川先生は自分で言いたいて。男の人とあんまり喋ったことないし、自分から話しかけるのは相手が誰でも苦手やけど、それでも頑張りたいて言わはるさかい、俺と田中先生とでそれとなく手伝おういう話になって。俺はそんなんムッチャ苦手やねんけど、けど、あのおとなしい北川先生がそこまで言わはるんやったらと……」
「それで準備委員会の時、妙に落ち着かなかったんですか」
山田が決まり悪そうに頷き、山瀬は深々と溜息をつく。
「センセーに隠し事してると思うたら、やっぱり、こう……アレで……」
「今日、僕と北川先生が物置小屋に行ったのも、応援団の団旗が隠すように置いてあったのも、先生達が相談したことなんですね?」
「え……まぁ……」
「はっきり言って、こういうやり方は不愉快です」
努めて冷静に、山瀬は言った。
「北川先生が内気な人だから、自分から告白めいたことはできないというのは、僕にもわかります。それから山田先生や田中先生が、それから藤原先生達がおとなしい北川先生の力になろうと考えたのも、わからないではありません。で、結果的に僕だけが蚊帳の外にいることになったのも、仕方ないかもしれない。でも僕は不愉快です」
「スイマセン。謝って済むこととちゃうかもしれへんけど……」
「そうですね」
山田の言葉尻をすぐさま肯定すると、テーブルを挟んだ向こうで縮こまっている巨体が、更に小さくなった。
「何かあるなら、特に僕が関係している何かがあるなら、それとなくでも山田先生は話してくれると信じてた僕がバカでした。今日のことはなかったことにしますから、北川先生には山田先生からそう伝えてください。それから僕は、大切なことを自分から伝えられない女性を好きになれそうにもありませんと、そう言ってもらえると助かります」
そう言うと山瀬はテーブルに食事代のおおよそを置き、席を立った。慌てた山田が何か言いながら山瀬を引き止めたが、今夜の精神状態では山田に八つ当たりしかできないと自覚している山瀬は、『今日は帰ります』とだけ言って店を出た。
◇◇◇
胸焼けにも似た感覚はアパートに戻る道すがら続き、広くはない部屋の灯りを点けて部屋着に着替え、風呂を使ってからも収まることはない。その理由が北川が泣き出した一件にあるのは明白である。
たかがこんなことで腹を立てたままでいるのは好きではないし、気分も悪い。さっさと気持ちを切り替えるのが得策だと、山瀬の理性は何度か警鐘を鳴らした。山瀬自身もマイナスの感情をいつまでも引きずるのを良しとしない方なのだが、気持ちを落ち着けようとするほどに知らないうちに疎外されていた──それが第三者から見れば微笑ましい理由であったとしてもだ──半月ほどの日々が思い出されてしまう。今となっては山田や田中、そして北川の不自然な言動の意味もわかるのだが、何も知らない自分にとってはただただ妙なものでしかなかった。
何もかもが腑に落ちないままに動いていた自分がただ愚かしく、それを悪意はなかったにしても眺めていただけ山田が恨めしい。それが親友に対する態度なのか、自分を親友呼ばわりするのであれば、相応の気遣いを見せてくれてもいいのではないかと、山瀬にしては珍しく、布団に潜り込んで睡魔に意識をさらわれるまで、ひたすらに彼は薄情な自称親友を恨んだ。
昼近くまで眠ったというのに頭も気分もすっきりしないまま、山瀬はぼんやりと読みかけの本を開いた。目で字面を追ってはいるのだが、その内容は全く頭に入ってこない。気分転換のつもりで始めた読書も、うっかりすると同じ行を繰り返して読んでいたりするのに気づくと、山瀬は本をテーブルの上に開いたまま、一つ溜め息をつく。
◆
八つ当たりしてしまわないようにと、山田が引き留めるのも聞かずに店を出た。けれど感情のままに振る舞ってしまったこと自体が、山田に対する八つ当たりでしかない。いくら腹を立てていたとは言え感情に負け、子供じみた振る舞いをしたことがひどく悔やまれる。その上、明日の朝には山田のしょげ返った顔が、自分の行いがいかに山田を傷つけたかを見せつけるのだ。意気消沈した山田の姿を見るに忍びないが故に、山瀬は明日から始まる一週間を呪わずにいられない。
もちろん、そんな事態を招いた張本人は山瀬ではなく、山田や田中、北川、藤原達なのだということは山瀬も承知している。そして自分が彼らに腹を立てるのは当然で、第三者が見てもおそらく、山瀬を擁護するだろう。
しかし――である。
どうにも感情をコントロールできないのだ。そして持て余してしまった色々なものをぶつけられる相手がいなければ、煩わしいことを全て忘れてしまえる程に没頭できるものもなく、山瀬は手持ち無沙汰な休日など早く終わってしまえばいいと思う一方で、山瀬は山田と顔を合わせなければならない月曜日を迎えたくなどないとも考えていた。
矛盾する思考が妥協点を見出すことはなく、山瀬は非生産的で無駄な時間をダラダラとただ消費している。そんな自分にほとほと嫌気がさし出した時、リズムを取って玄関のドアがノックされた。
「川辺さん……」
「ドア開ける前から俺やてわかってくれてたやて、ムッチャ嬉しいなぁ。これは、もう、愛やな、愛」
戯けた調子の笑顔に呆れた風を装いながら、山瀬は突然の来客を迎え入れる。
「俺とセンセー、運命の赤い糸でつながってる気ぃせーへん?」
言いながら川辺は山瀬に手土産のビールと焼き鳥を手渡した。
「そういう台詞は、彼女にでもどうぞ」
まだ温もりの残る焼き鳥を皿に乗せながら山瀬が笑い、全く取り合ってもらえないのを大袈裟に嘆く川辺が、小さなテーブルの前に腰を下ろす。
「勘弁してや、センセー。俺かて誰彼なしに口説いてまわってるワケちゃうねんで」
「自分から口説かなくてももてるんでしょう、川辺さんは。そう聞きましたよ」
「よう言うてくれるわ。誰やねん、そんなん言うのんは」
「小学校の藤原先生です。川辺さんは女性にもてるタイプだと、太鼓判を押してました」
山瀬の答えに川辺はがっくりと肩を落とした。
「ホンマに女っちゅーんは、あることないこと……」
「でも川辺さん、人気者じゃないですか。うちの女子生徒にもファン、多いですよ」
「ケツの青いガキに惚れられてもなぁ……若いのがええて言うても中学生は若すぎるっちゅーか、もっとこう、熟れてこなれてる感じの方が好きやねん」
「選り取りみどりでしょう? 川辺さんは」
笑って山瀬が焼き鳥とグラスを二つ、テーブルに置いた。
ビールを満たしたグラスを鳴らしてから、二人は焼き鳥を頬張る。川辺の後輩が修業している店で買ったというそれはタレが香ばしくて、しっかりとした鶏肉の歯応えが何とも言えない味わいで、川辺がこの辺りで一番美味い焼き鳥だと豪語するのも無理はないと思うのだ。
「でかい方の山ちゃんと喧嘩したんやて?」
グラスを空にした川辺が、世間話の続きのような口調で言った。
「山田先生に聞いたんですか?」
「正確に言うと、泣きつかれてん。たまらんで、ホンマに。あのデカイ図体丸めて、蚊の鳴くような声で助けてくれ〜言うて、べそべそ、べそべそと」
「理由とか、聞いてます?」
「まぁ、だいたい。ようあるこっちゃし、勘弁したってくれへんか。アイツはアホで要領が悪いさかい、人に頼まれたら嫌てよう言わんねん」
「それはわかってるつもりですけど……」
頭では納得できるのだが、うまく感情がついていかないのだと言う山瀬に、川辺は開けたばかりのビールを勧めてくれる。
「普通はそんなもんやから、気に病まんでもええけど。その辺は山ちゃんもわかってるやろから、ぼちぼちナニしちゃぁったらええと思うで。とりあえず明日の朝、普通に『おはよう』て言うてやったら、そんで山ちゃんは安心するやろし、晩飯くらい奢られたってや。デカイ図体に蚤の心臓を絵に描いたようなヤツやさかい、何かで詫びしやんと安心でけへんねん」
「でも、僕だって山田先生に八つ当たりしてしまっているわけですから、夕食を奢ってもらう理由は……」
川辺は右手を軽く振ってから、この場にいない筈の山田をの心情を代弁する。
「あのアホが気に病んでんのは、センセーに迷惑かけた、気ぃ悪い目ぇさした、怒らせたっちゅーことやねん。せやからセンセーがもう怒ってないって振りを見したったら、そんで得心しよるし、その証拠に奢られたってや、俺からも頼むし。せやないとアレは不安でどないもこないもようせんのやと思うし、辛気くさい顔でウロウロされたら世間様が困るやろ?」
「でも……北川先生達のこともありますし……」
「あ、それはほっといてええわ。今頃は女ばっかりで密談かまして、何か言うてくるか仕掛けてくるかするで」
「あのおとなしい人にはそんなこと、できないんじゃないですか」
「センセも案外、女のこと知らんねんな。北川先生みたいにおとなしいのに限って、開き直った時が怖いねんで。平生からイケイケやったらしおらしいなることもあるけど、素がしおらしい女は、それ以上しおらしいなられへんし、そしたら開き直るか居直るかしかないやろ? 田中先生のが手が読める分、まだやりよいねん。けど北川先生みたいなタイプは先が読めらへんから、こっちも構えようないっちゅーか……まぁ、夫婦ゲンカで包丁持ち出したとして、テーブルに包丁突き立てるのが田中先生で、何も言わんといきなり刺してくるのが北川先生」
妙に具体的な川辺の例え話に苦笑しながら山瀬は、川辺のアドバイスに従って山田に接することを約束した。山田に負けず劣らず心配性で世話好きな川辺は山瀬に礼を言い、それからこの日初めての煙草に火を点ける。いかにも美味そうに、安堵と共に紫煙を燻らせる姿にあたたかいものを感じながら、山瀬は冷蔵庫からビールを出してきて二つのグラスに注ぐ。
ようやく一息つけたとばかりにリラックスした表情を浮かべ、冷たいビールを勧める山瀬に軽く会釈を返してくれたが、今回の件に関しては一切の善後策を持たない山瀬にしてみれば、川辺の訪問は渡りに船であり、礼を言わねばならないのはむしろ自分の方なのだ。しかし感謝の気持ちを言葉にしたところで川辺はきっと、山田に頼まれて仕方なく来たのだというポーズを崩したりしないだろう。
口の悪い、どちらかというと粗野な行動が目につく川辺だが、人の心の動きには驚くほど繊細な気遣いを見せる。特に気に入った相手に対する、いつもの冗談や悪ふざけに紛らせた配慮は山瀬も素直に感心するほどで、おそらく川辺興業の従業員達や川辺と出かけた時などに短い挨拶を交わす彼の仲間達も、川辺のそんなところが気に入っているのだろうと山瀬は考えているのだが、本人はいうまでもなく周囲にも確認したことはない。それはきっと、それぞれが自分で感じ取るべきことだと考えてのことだったのだが、それとは逆に、何故か山田について感じる様々なものは不確かに思える。
川辺の場合は返される言動の予想がつかないまでも、そこに至る諸々が明確ではないながらも察することができた。しかし山田はその反応が予測できたとしても、その向こうにある筈の感情の変化と呼べるものが全く見えないのだ。付き合いが短いことや、理系人間特有の思考パターンについていけないが故のつかみ所のなさであれば問題はない。時間をかけさえすれば少しずつ何かが見えるだろうと思えもする。しかし山田は周到さにも似た用心深さで人との距離を取っているような気がした。誰とも親しげに言葉や笑顔を交わしている──もちろん、山瀬にも親友として充分に好意的だ。なのに何故か、説明のできないよそよそしさを感じることがあり、それが山瀬には気になるのだった。
「川辺さん、山田先生との付き合いは長いんですか」
「まぁ、それなりに……4年になるかな。アイツがこっちの学校に来てからの付き合いやから」
そう言ってから川辺は、山瀬の心中を慮るかのような視線を向けた。
「山田先生って妙に人に気を遣うところがありませんか? 上手く言えないんですが……こう、その場の雰囲気を壊さないためなら自分を一番後回しにするような、最初からわかった上で自分から貧乏くじを引くような、誰に対しても、どんな時もいい人だっていう、そんなとこが……」
「気になる?」
唇の片端だけを上げて、川辺がニヤリと笑う。
「少し」
「俺の知ってることを教えたってもええねんけど、相応の礼はしてもらいたいなぁ」
いつもの戯けた調子で川辺が言い、山瀬は自分にできることなら何でもすると答えた。
「アイツ、オカンと二人やん。赤ん坊の時から二人だけで、オバチャンは看護婦しもってアイツ育てたって話は知ってるか?」
「それは知ってます。いつか、山田先生から聞きました」
「この辺、田舎やろ。こっちの山手は今も、駅前の方も変わったいうても根っこのとこは田舎やねん。今はだいぶマシになったけど、俺らがガキの時分は村意識が強いっちゅーか。まぁ、それはしゃーないわな。三代遡ったらここらの人間殆ど親戚みたいな感じの、人の出入りの少ない、ホンマの田舎やから、父親のわからん子供を産んだ女に世間はムッチャ冷たいねんな。オマケに二人は他の町からこっちに来たらしいて、地の人間にしたら得たいが知れんもええとこで、そんな人間に親切にしちゃろういう物好きも、昔は少なかったと思うで。まぁ、山ちゃんとこにも色々な事情があったんやろし、そのことで二人とも苦労したんやろ。
オバチャンが働いてる間、山ちゃんらは昔住んでたアパートの大家のやってる酒屋に預けられてたんやて。店先にベビーベッド置いてもろて、そこで寝さしてもろてたらしいわ。昼間は誰かしら店にいてるし、お客さんとかがかもてくれるから。オバチャンが夜勤の時は酒屋の息子らと一緒に寝かされてたらしい。今も酒屋の人らとは家族みたいに仲ええねん。一緒くたに育ったせいか、家族みたいで」
川辺はそこで言葉を止めるとビールで唇を湿した。
「けどな、いくら家族みたいや言うても所詮は他人さんなんやろな。人さんに迷惑かけたらアカン、何かあったらオバチャンに迷惑かけるとか、心配さしたらアカンとか、そんな気ぃ、子供時分から遣いまくって、せやから未だに誰にでもええ顔してしまうねん。ヘタ打ったらおられへんようになるかもしれへんしな。殆ど無意識に、本能みたいに、誰かに嫌われるのが怖ぁてしゃーないんや、アイツは」
本人は気がついていないだろうが、と静かに微笑む川辺に山瀬が重ねて問う。
「小さな子供にそんなこと、考えられるものでしょうか」
「子供やからわかんねん。何もわかってへん、子供やから何も知らへんて大人が思い込んでるだけで、実は子供もようわかってんねんで。わからへん、わからへんて勝手に思い込んで、子供の前で何もかも言うやろ。
俺ンとこはな、オヤジの女癖の悪さに愛想つかしたオフクロが、俺が幼稚園生の時に家出よった。周りは急なことやと思てたらしいけど、俺はなんとはなしに、オフクロにほかされるんやと思てたから、心の準備は早うからできてたし、オフクロが買い物から帰ってこうへんかってもショックとかはなかって、そうか、今日やってんやくらいのもんでな。なんで周りの大人がびっくりしたり、慌てたりしてるンかがわからんかったわ。そんな風に子供は、大人が思てるより周りの事情はなんとなしわかってるもんやねん。
それと同じで、山ちゃんも周りがオバチャンに冷たいとか、父親いてないことで色眼鏡で見られてんのん、わかってたと思うで。せやからアイツは冗談で済まされるくらいのことでしか無理言うたりしぃひんやろ? 北川先生のことかて多分、良かれと思うたんやろ。好かれたら誰かて嬉しいから、ホンマに喜ぶかはアレでも、先生が嫌な気ぃせぇへんとか考えたんやろな。母一人子一人のせいか、もともと女には甘いし、今回のこともまさか先生に嫌われるとは思わへんかったんやと、俺は思うで」
川辺はそう言ってから、山瀬の背中を勢いよく叩いて笑った。
「まぁ、こんな込み入った事情なんかどうでもええ。昔のことはどないもでけへんねんし、この先、どないするかの方がよっぽど大事やんな」
「でも僕は知らないで、山田先生に失礼なことをしてしまったのかも……」
「アホやな、センセは。そんなんセンセのせいとちゃうやろ? 山ちゃんも俺も片親しかいてへんから不幸せやとか思たことないし、今は友達もようけおるからもうええねん。変に同情される方がどもならんわ」
「すいません……」
山瀬は思わず頭を下げた。そして川辺は笑いながら山瀬の頭に手を置いて、
「せやから、謝んなて言うてるやろ? 山ちゃんも俺も家族少ないお陰で友達ようけできたみたいなもんやし、まぁ、アレや。人生、何がどこでええ方向にはたらくかわからんっちゅーことやな」
と言って、豪快に笑った。
その笑顔に救われるように山瀬も気を取り直すことができた。お互いにグラスを一旦空にして、それから二人は改めてこの不思議な、けれども幸運な出会いに乾杯した。
とりとめのない世間話をしていた時、不意に川辺の視線を山瀬は感じた。瞳の中にいつもと異なる光を見つけた山瀬が声をかけようとするより一瞬だけ早く、川辺が言った。
「ところでセンセー、俺と付き合わへん?」
思いもかけないだとか聞き間違いだとか、そんな言葉が陳腐に感じられるような唐突な台詞に驚いた山瀬は、ついうっかりビールで半ば満たしたグラスを取り落とした。
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