かなり天然ボケ 1


 うららかな日の曜日、小鳥たちは愛らしい声でさえずり、花々はその美を競うかのように咲き誇り、人々は思いのままにくつろぎ、恋人たちは互いの瞳を見つめ合い、愛の言葉を囁きあっている。穏やかなひとときを楽しむ人々が集っている庭園には輝く陽射しに満ちあふれ、その風景はあたかも一幅の絵画のようだ。だが突然、その幸福な風景を破る大音響が轟いた。

「おーい、ゼフェル、マルセル、大丈夫か!?おいっ、返事してくれ!!」

庭園のはずれの潅木の中に分け入った風の守護聖・ランディが駆けつけた時には、鋼の守護聖・ゼフェルと緑の守護聖・マルセルが、折り重なるように倒れ込んでいた。

「おい。二人とも大丈夫なのか?」

「っつっ……」

「痛ーい、重いよ、ゼフェル。早くどいて……」

「あ、ワリィ……よっこいしょっと。あ〜あ、やっぱ、壊れちまってらぁ、しょーがねーなー。出力を上げた時にバランスが狂っちまってたんだな……」

ブツブツとつぶやきながら新作のエアバイクを解体し始めたゼフェルの向こうから、痛手を負ったマルセルが出てきた。

「ひっどーいい、ゼフェル!!ゼフェルってば僕よりメカのほうが大事だなんて、あんまりだよ」
ゼフェルの方を掴んで抗議するマルセルの顔を一目見るなり、ゼフェルは呆然として言った。

「……おい、マルセル。おめー、鼻血出てっぞ」

「え……」

マルセルが自分の鼻の下に指を当てるとヌルリとした感触があった。そして恐る恐る鼻の下に当てた手を見ると、そこには鮮やかな赤い色をした鮮血がついていた。

「うっわーん、ひどいや、痛いよー!!」

予想以上に指に付着した血に驚いたマルセルは、わんわんと大きな声で泣き始めた。至近距離から聞こえる泣き声に苛ついたゼフェルは、マルセルを怒鳴りつけた。

「うるせーっ!! 女みてーにピーピー泣いてんじゃねーよ、このバカ!!」

その言葉を聞いたマルセルは、更に大きな鳴き声を上げる。

「大丈夫か、マルセル。うわっ、本当だ。鼻血がこんなにたくさん!!」

マルセルの兄貴分であるランディが、心配そうにマルセルの顔をのぞき込んだ。マルセルが甘えた声でランディに抗議した。

「あ、ランディ。ゼフェルがひどいんだ。僕よりメカのほうが大事なんだよ」

「バーカ。怪我なんかほっといたって治るじゃねーか。メカはこっちが修理してやんなきゃ、治んねーんだぞ!!」

「そんな言い方はないだろう、ゼフェル。マルセル、俺の執務室に来いよ。救急箱があるから怪我の手当をしてやるよ。ゼフェル、お前も来るんだぞ」

「なんで俺まで行かなきゃなんねーんだよ!!」

「お前だって怪我をしてるじゃないか。ほら、膝と腕のところ、擦りむいてるぞ。メカの修理は傷の手当をしてからでもいいだろ」

「ったく、しゃーねーな。行ってやるよ」

ハンカチを鼻に当てたマルセルと、大破したエアバイクを押すゼフェルと、二人を心配そうに振り返るランディは、風の守護聖の執務室に向かった。


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