衣替え 1


 「ハーイ★お二人さん、いらっしゃ〜い。さ、こっち。早く来て」

地の守護聖・ルヴァと闇の守護聖・クラヴィスを迎えたのは、これ以上はないと思えるほど上機嫌の夢の守護聖・オリヴィエだった。

 ルヴァとクラヴィスの執務室を訪れた使いの者により、今にも舞い上がらんばかりに浮かれきっているオリヴィエの執務室に続く次の間に、まるで拉致されるのではないかと感じるほどに半ば強引に押し込まれた二人は、部屋に広がる絹の海に驚嘆し、困惑するばかりだった。広い宇宙に輝くあまたの星々から集められた、一目で最高級品であることが見て取れるそれらの生地のあるものは見事なドレープを描き、またあるものは明るい陽射しを繊細な光線へと変える役割を果たしている。

「はぁ〜、これは何と見事なものでしょう。一見、秩序なく集められたように見えますが、全体を見渡すと実に華麗な調和を見せていますね〜。オリヴィエ、ここにある布の全てを、あなたが選んだものなのですか?」

「ふっふふ〜ん。もちろんだよ、ルヴァぁ〜。美しさを司る夢の守護聖のオリヴィエ様が選びに選んだ最高の布で作った、あんたたち二人のお洋服だよン

「……今、何と言った」

一瞬の沈黙をはさみ、不穏な空気をはらんだ言葉を口にしたのは、クラヴィスだった。

「ふっふ〜ん。アンタたちの新しい衣装をね、デザインするように言われたのよ。新女王の即位があったってことで、女王陛下に新しい衣装を作るように言われてたんでしょ? でもアンタたち二人だけ、いつまで経っても返事をしないからって、陛下が私にデザインを任せてくれたのよ〜ン。もう、さっすが陛下よね。もう、私ってば嬉しくってさ、宇宙一のセンスを持つオリヴィエ様の実力を目一杯発揮させてもらっちゃったよ〜

「そ……そんなっ!!アナタがデザインした衣装を、何故私たちが着なくてはならないんですか〜」

悲壮感を漂わせ、唇をわななかせて抗議の言葉を口にするルヴァをキッと睨み、オリヴィエはいつもの陽気さを微塵も感じさせない低い声音で、静かに言った。

「アンタたちがのろまだからでしょ。聞くところによるとアンタたち、ディアたちが女王試験を受けるために聖地に来た時から、着た切り雀同然だったっていうじゃない。それ聞いてびっくりしちゃったよ。いくら何でもそりゃぁ、ないわよね。特にルヴァ!!アンタってばずっと同じ服を着てるんだって? 着た切り雀が本の山に囲まれて暮らしてりゃぁ、埃っぽくもなるし、老けるし、惚けてもしょうがないって感じ?」

 「ねぇ〜、衣装やメイク、ヘアスタイルを変えるだけで気分が良くなるじゃない?クラヴィス〜、アンタの場合は私のデザインしたドレスを着たら、救いようのない暗い性格が明るくなるかもしれないし、ルヴァ、アンタだって少しは若々しくなれるかもしれないじゃなーい

立て板に水を流すかのように澱みのないオリヴィエの言葉に圧倒されたルヴァは、反論の言葉の一つさえ口にできずただ狼狽えるばかりで、夢の守護聖がひとしきり話し終える頃には、すっかり力無くうなだれてしまっていた。その様子を見たオリヴィエはニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべると、先刻クラヴィスとルヴァを引きずってきた従者に目配せし、地の守護聖を部屋の隅に用意された衝立の奥へと連れて行かせた。彼らは既に打ち合わせを済ませていたようで、一人がルヴァの背中を押し、もう一人が衣装箱を捧げ持ってその後に続いた。

 その様子を見たオリヴィエは満足そうな微笑みを浮かべ、にこやかに闇の守護聖に言った。

「さて、クラヴィス。アンタの衣装もあるんだよ。これはちょいと着付けが面倒だから、オリヴィエ様が着替えを手伝ってア・ゲ・ル

有無を言わさぬほどの迫力を秘めた夢の守護聖の美しい笑顔に、思わず怯んでしまったクラヴィスの一瞬の虚を突くことに成功したオリヴィエは、司る力を表すかのようなクラヴィスの漆黒のローブを素早くはぎ取り、後ずさる闇の守護聖にじりじりとにじり寄り始める。クラヴィスは初めて見るオリヴィエの爛々と輝く瞳に、どのような抵抗も無駄であることを悟ると、全てを諦めたように目を閉じた。


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