私のつくばマラソン

伊藤 智弥
未知なる自分へ、チャレンジ!
つくばマラソンは毎年11月下旬の日曜日に行われる。 このマラソンは参加者が多く(1万人以上)、一般の市民が参加できる“市民マラソン”だ。実際に高校生から70歳近くの方まで、幅広い年齢層の人たちが参加していた。私もその参加者の1人だった。私がつくばマラソンの練習をしはじめたのは10月からだった。練習ができたのは実質1ヶ月半くらい。最初は正直言って、2ヶ月ぐらいの練習でフルマラソンなんて走れるのか?と思っていた。というのは、それまで自分が走った最長の距離は高校の時に走った10kmというのが最高であったし、高校の時以来8年も長距離走のような本格的な運動はしてこなかったに等しかったので、体力的にも運動能力的にも走れるという自信がまるでなかった。

そのスピードで
ただ、自分がこれまで成し遂げてこなかったことにチャレンジするというのは不安もあったが、とても魅力を感じることであるし、スペクタクルを体感できると思っていたのでわくわくしていた。そして練習をするようになってからほぼ毎週 10kmぐらい走るようになり、長距離を走る自信が少しずつ出てきた。10kmなんて距離は高校時代の時はきつく感じたのに、ゆっくりとしたペースで走っていると全くきつく感じなかった。それにこのくらいのペースでならもっと長い距離も走れそうだという自信さえ出てくるようになった。今になって思うと、私はマラソンというか長距離走というものについて、できる限り速いペースで走らないと、という固定観念があったように思う。本当はジョギング程度のゆっくりとしたペースでも走りつづけられることが重要なのだと思う。

カラダにこころよい日々
 また練習をしていた時期は、「走ること」「食べること」「休むこと」が自分の体のなかで強く意識されていた。「走ること」は自分にとって散歩のような楽しい時間へと変化していった。走ったあと空腹になって、体が食べものを求めているとき、食べものが本当に美味しく感じ、「食べること」がうれしくなった。そのあとは体が「休むこと」にごく自然に移り、心が落ち着いて深い眠りになり、朝起きたときは心地よく目覚めることができていた。だから練習をしていた時期は、1日のなかで「走ること」「食べること」「休むこと」がうまくまわっていたのだと思う。

いよいよ、スタート 〜 42 195kmの旅路
さて、つくばマラソン当日。つくばマラソンでは、筑波大学の陸上競技場をスタートして、つくば市内をぐるっと一周して、再び筑波大学の陸上競技場へ戻ってくる、 全長42.195kmのコースを走る。いざ走りだしてみると少し緊張していたが、いつも練習で走るくらい(5kmを35分)のペースで走っていけた。そこからは禅のような心境で、無意識に自然体で、同じようなペースで走り続けることができて、30kmまでは5kmを35分のペースで順調すぎるほど快調に走れていた。自分自身でも「ここまで走れるなんて」と内心驚いていた。そのとき自分のなかで少しだけ、「このまま行けば、4時間台で走れるかも・・・」という期待がでてきていた。

“大ブレーキ” 〜 苦しみのなかからみえてきたもの
しかし、そのあとにドラマが待っていた。32km付近からだんだん足が上がらなくなってきて、ペースがガクンと落ちてきてしまった。「マラソンは魔物だ」。しまいには足を伸ばすのが苦痛になってきて、足の裏も痛くなってきた。とうとう歩き出してしまった。これはマラソンでよく“大ブレーキ”と呼ばれる状態だ。気持ちは「走ろう、走ろう」としているのだが、足が硬直して思った通りに動いてくれない。そんな自分がみじめで、情けなくて、少し涙ぐんだ。それでも気持ちだけはポジティブにもっていこうと思った。「また走り出して、きっとゴールできる」と。気持ちがネガティブになると「ああ、もうだめだ」とあきらめてしまって、もう前へは進めなくなってしまう。だから、「たとえ今は苦しくても気持ちさえポジティブであれば、なんとかなる」と思っていた。それに、沿道の人たちや大会運営のボランティアから「がんばれ!」とあたたかい励ましの声援をもらって、とてもありがたかったし、とても力づけられた。それから時折走ってみたりしながらでも前に進むことで少しずつゴールは近づいてきた。もうそのころには5時間をきろうとか、少しでも順位を上げてやるんだということはもうどうでもよくなって、遅くてもいいから少しでも走りつづけてゴールしようという気持ちに変わっていった。だから38km付近を過ぎた時に、大学構内に入ってからは絶対に歩かないで走りつづけるんだと心に決めた。大学構内に入ってから苦しみながらも走りつづけていると、しだいに足の痛みがやわらいできて、いつも練習で走っているペースに近いペースで走れるようになった。

ついに完走できた!!
 そして、いよいよ陸上競技場へ。最後の最後までまわりで見ている人たちが応援してくれている。最高にうれしかった。最後は思いっきり力を出し尽くすように走って、笑顔でゴールできた。記録は5時間18分くらい。いちおうの目標タイムであった5時間はきれなかったが、何とか完走することができたので、そのことだけでもじゅうぶんにうれしかった。
 自分が実際にマラソンで走ってみていちばんよくわかったこと。それは、マラソンでは走っているランナーはひとりのチカラで走っているように思えるが、そんなことはなく、まわりの人たちからの励ましや応援によって勇気をもらって、走るチカラに変えることができるということだ。だから、当日応援してくださった全ての人たちに感謝したい。そして、またマラソンにチャレンジしてみたい。今回つくばマラソンに参加して、マラソンを完走できたことを自分の誇りにしたいし、自分の人生の財産にしたいと思う。


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