地球、それは命のかたまり

〜第45回日農ゼミ(関東ブロック冬の大会)報告〜

1)はじめに
 いちょうの葉がきれいに染まる11月28日から29日にかけて、国立オリンピックセンターにおいて第45回日本農業系サークルゼミナールが行われました。この報告はその大会において特別公演をしてくださった、秋山豊寛氏(1990年、TBS企画による宇宙飛行士として旧ソの宇宙船に乗り込み、現在、福島県滝根町で有機農業を営む。)の講演をひろいあげたものである。

2)講演
 己紹介ですが、TBSを退社してから福島県の田舎で64aを耕す農業をしはじめました。といっても、現金収入のうちの8割は講演やシンポジウムです。時間の割合としては畑8割、講演著作活動2割といったところです。田んぼは水張り面積11aの段々畑5枚です。その外に椎茸を作って販売しています。米は3〜4俵ほど取れますが、それで家族は十分食っていけます。昔日本人は年間150キロくらいお米を食べていましたが、今は多くて69キロです。1俵60キロですから、このくらいとれればひと家族は養えるということです。

 まの日本の農の状況はどうなっているのでしょうか。そこから話をしていきましょう。 昔と比べると日本人の食べ物の感覚はだいぶ変わりました。私は1942年生まれですが食べ物には随分苦労しました。日本の農業政策は1945ー50年にかけて「大量生産」の時代でした。エンゲル係数(食料支出/全家計支出)も50ー80%だったのに、いまでは20ー30%です。飽食の時代と呼ばれる現状のゆえにグルメブームなどもやってきました。
 さて、農ではないところに視点を切り替えてみましょう。為替レートというものを御存じですか。農業には関係ないと思われるかもしれませんが、もしこの中で農業を始めたいと思っている学生さんがいるなら、ぜひ、知っておいてほしい数値です。工業立国日本において、この数字は工業製品の力関係を現わします。これが強くなってきますと食料が大量に輸入されるようになり、食の多様化が進むわけです。日本は今、全体的に農業がパッとしない状況におかれているとされていますが、成功しているところも多々有ります。それは自分で農産物を加工、流通までしているところです。

 ぜそうなのか。モヤシを例にとってみましょう。スーパーで売っているモヤシを35円としましょう。35円を農家に持っていったらスーパーと同じように一握りぽっちのモヤシは渡されません。「バケツで持っていきなさい」といわれます。実際は5円ほどしかモヤシ農家には収入が入ってこないのに、残りの30円はやれラベルだの袋だの、農家と消費者の中間の人々に入るわけです。でも突き詰めるとこの人達はモヤシがなければ食っていけません。ちょっとオーバーな言い方をすれば小売り価格の1/7しかもらってない人がのこりの6/7をもらっている人達を食わしているということです。
先 程いった成功している人達と言うのは、このシステムから脱却している人達です。流通を確保したり、顧客を固定するのは簡単な事ではありませんがやっている人達は成功している例が多いです。つまり、まとめていえば今のシステムの中で「ただ農業をやる」のでは食っていけないということです。この50年、工業他サービス産業は急速に発展してきました。これにたちうつには工夫が必要なのです。そのために大学生は勉強する時間もぶらぶらする時間も与えられてるのではないでしょうか。

 める地球を農が救う、この大会のテーマである『救う』とはどういう事でしょう。キーワードは生態系、持続可能な産業という考え方です。しかし、この言葉や、病んでいる地球という認識がされてきたのはつい最近のことです。日本における産業の変化を図示してみます。


昭和初期;絹糸で外貨を稼ぐ→加工の結果(さなぎ)は生態系にダメージを与えない

昭和後期;工業化、大量生産の時代、
いっぱい作って人々を幸せにする(廃棄物問題がやがて表面化)

平成〜現在;欲望の開発の時代、
昭和後期以来作ってきたものがいきわたりそれ以上のものを求める(モデルチェンジ他)

現在〜未来;環境と共に生きる時代、
地球の資源は有限ではないという認識、再生可能な産業の開発


 ひとが生きてきたのはどうしてでしょうか。工業が発達したからでも、科学が発達してきたからでもありません。食べて、寝て、子孫を残すという基本的な営みのゆえに命がつながれてきたからではないでしょうか。基本的なその命のつながりを支えてきたのは「めし」以外の何物でもありません。現在、農業関係の学校(高校、大学、専門学校あわせて)の卒業生は数万人います。しかし、その中で就農する人は2000人たらずです。多くの人が食品産業にたずさわることになります。そこで忘れて欲しくないことがあります。それは、食品産業も【命を支える産業】だということです。食べることが命を支えることなのですから、食品産業はひとの命を支える基本的な産業であります。そのことを忘れれば、商業主義一点張りになってしまいます。

 がこう考えるに至ったのは、宇宙での経験がきっかけのひとつになっています。400キロ上から眺めた地球は本当に美しいものでした。本当にきれいな青を見て「命のかたまりである地球」を感じました。そして、私がここに属している、ここでうまれ、ここで死んでいくこの地球を何とかして守りたいと思うようになりました。ひとは知ることにより価値判断をし、それを生き方として実行していくものです。私にとってその価値判断のもとになる知識を得たところが宇宙でした。皆さんはその様な知識を蓄積する時期にあたっています。ぜひたくさんのことを知り、それを生き方として実現出来るように頑張っていってください。
(高橋 恵)
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