98年、この春の旅

〜つくば、京都、三重赤目、岡山18切符の旅〜



 今回は、先日京都大学で行われた日本生態学会(3月26日〜29日)の様子と、大学時代の同期の野満君が参加している、三重県の赤目自然農塾を訪問したときのことについて報告させていただきます。

・青春18キップでまずは京都へ
 相変わらずの貧乏生活をしている僕は、18切符で学会が行われる京都に向かいました。駅の窓口で「もう18才の青春は過ぎましたけど切符は買えますか?」とおきまりの言葉のあと、切符を購入し電車に乗り込みました。18切符は知っている人も多いと思いますが、普通列車と快速列車が1日乗り放題で、5枚綴りが11500円で売られています。以前は生協や金券ショップなどでばら売りされていましたが、現在では5回分が1枚の切符になってしまい、1回分をバラで買うことが出来なくなり、少し使いにくくなりました。東京からだと大垣夜行(品川発11:53)か、快速「ながら号」に乗って、その後上手く乗り継ぐとなんと1日、つまり2300円で熊本まで行けるそうです。
 この大垣夜行というのは小田原方面に向かう最終列車で、飲んだくれのサラリーマンと金はないけどパワーはある若者等が入り乱れる渋い列車で、何とも言えない雰囲気を醸し出していました。途中席で一緒になった人と話をしたら、高校の時の修学旅行は18切符でしたという人がいたがそれもすごいと思いました。最近は海外に修学旅行に行くところもあるけど、それより18切符で各自の行程で修学旅行に行くというのもいいと感じました。

・日本生態学会とは
 電車に9時間ばかり揺られて京都に到着しました。今回参加した生態学会は、動物や植物、微生物などを研究している人が幅広く集う学会で、非常に活気があるものでした。現在特に注目されているのが保全生態学という分野で、人間活動の急速な拡大の中で多くの種が絶滅に瀕しており、それを解決していくのを目的に調査研究が行われています。その中で、人が昔から自然とうまく共存していた里山とか水田などが、戦後の高度経済成長のため人々のライフスタイルが大きく変容してしまい、荒廃してしまった点が現在見直されており、興味深い発表がありました。

・ひえの会の嶺田さん、研究者と農家との連携
 そのなかで、愛媛大の日鷹さんや岡山大の嶺田さんらのグループが、減農薬あるいは無農薬栽培を目指し、福岡正信さんの自然農を模した栽培方法の研究、水田の耕起栽培と不耕起栽培における雑草群落の違いであるとか、水田における水生生物の多様性などの研究をされており、その発表がありました。嶺田さんはひえの会で以前活躍しておられたそうで、いろいろお話を伺いました。
 シンポジウムでは実際の農家の方もおいでになりました。いままでは、農学者や生態学者が一緒に協力して研究を行うことはまれで、また「農学栄えて農業滅ぶ」というふうに学者と農家の連携も少なかったと思います。このシンポジウムには新しい動きを感じました。研究者間、農家と研究者がいい関係を作り上げていけばきっと素晴らしい世界が作られていくと思いました。

・3年ぶりの再会と二酸化炭素6%削減
 日曜日まである学会を土曜日で切り上げ、今回の旅の大きな目的である野満君宅へ向かいました。学会の予定で野満君が今住んでいる西尾市に到着するのが遅くなりそうだったので、野満君が迎えに来てくれることになり、ご厚意に甘えさせていただき、名古屋駅で待ち合わせることになりました。
 予定の7時を少し遅れて電車は到着し、そして3年ぶりの再会となりました。野満君は愛車の軽自動車のバンで迎えに来てくれました。後部座席には麦わら帽子、長靴など農作業の道具が積んであります。昨年京都で二酸化炭素の排出量を6%削減することが決まりましたが、野満君は出来るところから減らそうと、車は軽自動車を選びました。今、町には大きな車があふれています。6%の削減が決まっても何もなかったように人は(自分も含めて)暮らしていっていますが、何もせずに6%自然に減るわけではありません。とにかく人任せではなく、自分が出来るところから実践していく野満君は素晴らしいと思いました。そしてその晩は、教育問題、自分の悩み、これからの展望など大いに話し合いました。

・みりん工場の苦悩
 翌日、野満君にお願いしてみりん工場を見学させていただきました。中には1つ数千万分のみりんが眠っているというタンクが立ち並び、「おう〜これでなん億円や?」と余計な計算をしながら、その行程を見せてもらいました。国内産の米を用いて全て手作りということで、あとで頂いたみりんは格別でした。しかし、みりん工場も全てが上手く言っているわけではありません。最も大きな問題は、需要が増えてきたため生産がおいつかなることです。組織が大きくなると、組織が分裂したり、品質が落ちたりと言うことがしばしばあります。社長さんは素晴らしい方らしく、どのように解決なさるのか注目したいと思います。

・赤目自然農塾へ
 その後、三重県の赤目自然農塾へ向かいました。野満君が住んでいる西尾からは片道3時間あまり。週末に赤目まで通っているとのこと。そのパワーには敬服しました。途中のサービスエリアで休憩をしたときに、自動販売機でジュースを買って飲みながら、缶は飲料の中にアルミが一杯はいるらしいし、ペットボトルは体に悪いそうだし、自販機は町中にありふれエネルギーを大量に消費している。やっぱり自分でお茶を沸かして、湯飲みで飲むのが一番かなどと話しました。そんな話をしていたら後に野生の猿がひょっこりと現れ、ここは忍者の国伊賀だなどと話して二人で笑いました。
 そうこうしているうちについに赤目に到着しました。赤目自然農塾では自然農の川口由一さんから直接指導をうけられます。一定の規則はありますが基本的には各人の自主性にまかされ運営されています。また、会員の方が「感謝」という冊子を発行されており、赤目の様子や農作業の方法、川口さんからのメッセージ、各地での自然農の取り組みなど大変興味深い内容となっています。赤目には近畿地方の方を中心に遠くはなんと東京や千葉の人までいらっしゃいます。夜行バスで来られる人もいるということで、それはすごいなと思いましたが、僕には出来ないなと思いました。各地に農塾の和が広がって、全国の人が自宅の近くで農に関わっていけるようになればと思いました。
 野満君の畑では、先日植えた大根が芽ばえていました。まだまだ、試行錯誤で大変なようでしたが、この芽と同じように頑張っていって欲しいと思いました。そして畑のわきに腰を下ろして、野満君が握ってくれたおにぎりを食べたあと、6月に再会することを約束し赤目をあとにしました。

・最後に
 そのあと、4日ほど岡山に帰省し筑波に戻ってきました。今回の旅では、農業の重要性をあらためて感じました。生態学での問題にしろ、ゴミ問題にしろ、二酸化炭素の排出問題にせよ、人々の暮らしが循環型そして少消費型にならなければ解決されません。何人かの科学者も、森林と農業を中心とした農系社会を作り上げないと、人類は生き残れないと指摘しています。現在のモノカルチャー農業から脱し、農業が本来の自然と調和した形を取り戻し、全員が農業をしなくても、全ての人が生命をはぐくむ農業を尊重し、考えていく社会が出来ればきっと未来があると思った98年春の旅でした。
(建元喜寿)


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