★☆読者の声 拡大版 〜 野満さんからの手紙☆★

 平成7年度に筑波大学生物資源学類を卒業され、現在、味醂醸造をしている(株)角谷文治郎商店に勤めていらっしゃる野満育朗さんより橘先生宛に5月より何通も手紙が届きました。その一部をここにご紹介します。


 最近、多くのTV番組、本、雑誌等で「現代社会の行き詰まり」「人間はどこに行こうとしているのか」という問題が取り上げられていますが、そのほとんどが、たとえ分野が異なっていても、同じ方向に結論を出しているように思われます。橘先生のいわれる「パラダイムシフト」の必要性が説かれていると思うのです。味醂業界にあてはめてみると、パラダイムシフトがなされていない会社においては、薄利多売のためにその製造が中国、タイを中心に海外へとシフトせざるをえず、またその製造においても、ほとんどが本来の原料ではないもの(糯米以外の穀物、原料アルコール、糖液)から作られているのが現状になっているようです。「日本の伝統文化である味醂よ、いずこへ!」といったところでしょうか。私の会社では、本来の原料(国産)を使い、昔ながらの造りで味醂を造っています。仕込みから出荷まで最低でも1年はかかり、社長の方針が「うちの味醂を理解してくれる客にしか売りたくない」というものなので、数年前までは非常に苦しい経営が続いていたようです。ところが近年は、確実に売り上げが伸びています。安全で、おいしいという本物の食品を求める消費者が増えてきているのは嬉しいことです。蔵に見学に来られるお客様も多くなり、産消提携に近い形(パラダイムシフト後の世界)ができあがりつつあるようです。
 私は大学卒業後、最初に製薬会社の営業の仕事をしました。医薬業界という多くの問題を抱えている業界で、しかも営業という職をなぜ選んだのか、今思い返すと、普通高校 有名大学 大企業という多くの日本人が抱いている考え方にどっぷりと浸かっていた自分を思い出します。そしてどうして日本の教育はこの様なシステムなんだろう、その教育の後の世界(資本主義社会)においてはどうしてここまで人の心や個性というものが軽視されるのだろうという疑問に毎日悩まされました。有機ネットワークの会員になり、有機農業新聞や、宮沢賢治、シュタイナー、福岡正信さんの本を読み感じることは「人間の心は地球であり、宇宙である。」ということです。「お金ではなく人間の心を大切にするということ=地球や自然を大切にするということ」が言えるのではないでしょうか。テキストの中の「有機農業は思想であり、哲学であり、世界観であり、人間学である。」という言葉を読んだとき、有機農業の秘める可能性に感動しました。これから有機農業を教育の中に取り入れていくことの必要性を感じると同時に、今までの世界の流れと全く違う流れであることの難しさをどう乗り越えるか考えていきたいと思います。

(野満育朗)


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