行ってきました

  八郷の鹿苑農場




 筧さんに会ってみたい

kaen1.GIF  私が八郷の鹿苑農場の筧次郎さんを知ったのは、1997年3月29日の常陽リビング土曜版で、遺伝子組み換え食品についての記事を読んだときでした。先号で、私は遺伝子組み換え食品が日本に輸入されることの波紋について書きましたが、遺伝子組み換え食品について勉強をしているときに、「八郷でも遺伝子組み換え食品の勉強をしている団体があるらしい。」ということを聞いたことがあり、どのような方々がやられているのかなと思っていた矢先に読んだ記事なので、私にとっては非常にタイミングの良い情報でした。しかもその記事によると、筧さんは有機農業を実践されている方で、八郷町で無農薬栽培の野菜などを都市会員へ販売活動をしている「次の世代を守る会」で農作物を作られているということでした。

 有機農業をされていて、遺伝子組み換え食品についても勉強されているという、私にとって筧さんはまさしく一石二鳥の人物であり、常陽リビングの記事を読んだときは運命的なものを感じました。

 という事でぜひとも筧さんにお会いしたいということで、4月13日に山本さんと荒川さんと私とで鹿苑農場へ行ってきました。


 八郷の鹿苑農場

 筧次郎さんは以前、花園大学で言語哲学を教えられていて、新規就農として八郷に来られた。百姓になろうと決意されて、自分の気にいった土地を探して全国各地をあるきまわった末、八郷に巡り会ったとのことです。もともと生まれが茨城だったことと、裏山が魅力的だったことなどで83年に八郷に来られ、翌年の84年から本格的な自給自足の生活を始められました。鹿苑農場の「鹿苑」とは京都の鹿苑寺金閣と同じ由来を持ちます。その昔、釈迦が初めて説法を説いたインドの地名が由来であります。それを農場の名前に用いたことから、当時の筧さんの意気込みが十数年たった今日でも感じることができます。


 次の世代を守る会

 次の世代を守る会とは筧さんが八郷に来られたころに、御自身で「生活を考える集い」を水戸で開かれたことから始まり、「無農薬野菜の生産と消費を通じて、今日の社会の歪みについて考え、子供や孫たちに健全な社会を伝えようとする人たちの会」であります。

 主な活動としては農村会員は無農薬野菜の自給運動を行い、都市会員も自給的な食生活をするために、農家の余剰野菜を集めて届けています。そして年に何回か農村会員と都市会員とで勉強会を開いて次の世代のためにやれることできる限りしようとしています。

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 私がこの会の説明を筧さんから聞いたとき、農村会員と都市会員という考えに驚かせられました。農村会員といのはいわゆる生産者で、都市会員というのは消費者のことです。どうしてそのように呼ぶのか尋ねたところ、生産者と消費者ということになると、お互いが権利の主張をしあうことになりかねないし、食べるだけの消費者と作るだけの生産者になってしまう恐れがあるからだそうです。そして農村会員と都市会員とが野菜の生産や援農を通して、自給的な生き方に向かって共に歩もうという狙いがあります。日頃、自分を消費者としてしか意識していない私には、農村会員と都市会員という考え方は思いも寄らないことで、地域のつながりを考えるためのとても良い概念だと思います。

 またこの会で作られる野菜は、露地栽培が中心で、そのためトマトなどの露地では若干困難な品目もあり、野菜はいわゆる旬のものばかりで、都市会員にとっては、野菜の品目を自由に選べないことや、野菜の量の季節的な変動が激しいという条件があります。しかしこの会では都市会員も自給的な食生活をするということで、かつては当り前であった旬のものを食べるということを勧めているようです。そして年間を通してバランスの良い食生活をしようということです。自給的な生き方というのはそういうことなのだということがわかるような気がします。


 自給的な生き方を心掛ける筧さん

 今回、鹿苑農場におじゃまさせて頂いて最も大きな興味をもったのは筧さんの人柄で、その時は次の世代を守る会の会員の方々が6人ほど来られていましたが、みなさん筧さんの考え方や人柄に魅かれて来られているようでした。中には次の世代を守る会の創立当時の方もいました。この様に筧さんを中心にして人のつながりが広がっているようです。
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 大学で言語哲学を研究されていた先生がどうして自給自足の生活に踏み切ったのか私はとても気になっていました。そのまま大学にいたらと地位も名誉も手に入れることができていたのではないでしょうか。しかし筧さんはその道を選ばず自給的な生き方をしようとした勇気がたくさんの人々の共感を得たのだと思います。

 言語哲学の研究で世界中の思想に触れていた筧さんは、現代の工業中心の収奪構造に疑問を持ち、特に南北問題における北の先進国の支配的な考えには甚だ憤慨なされていました。kaen4.GIF

筧さんはその思いの元で、ご自分の研究も活かされて、この収奪社会の構造の唯一の打解策として私たち工業国の人間が「自治」を回復することであるという結論に達しました。自治というのは「インドの父」であるマハトマ・ガンジーが言う隷属からの解放で、搾取しないと生きていけない支配者の不自由からの解放を意味しています。他国民を泣かせることのない、国民の自立的な生活がガンジーのいう自治であると。筧さんの自給自足の百姓暮しはそのような理想を抱いた誇り高い生活であります。

 自給自足の生活を楽しむために

 現代の社会にどっぷりと浸かった中で、全くの自給自足の生活をするのは非常に困難であります。しかし筧さんは自給自足の本来の思想を大切にし、できるだけお金のかけない生活をしようとしています。手間はかかってもお金はかけないという風で、現代の工業的農業のように5000万投資して、6000万稼ぎ、1000万儲けるという農業とは一線を引いています。

 そうすると労働は非常に厳しいものとなるのは明らかですが、鹿苑農場の方はそこに生きがいを感じております。私たちが訪ねていった時は、畑の草取りをしたのですが、その前までの長雨で草は水を得て、大きく育っていました。その草を取ることは除草剤をまくことによって回避できることですが、みんなで鎌を持って地道に草取りでした。ハコベやナズナなどの春の草が生えていたのですが、そこで大変だなあと思わずに、「ハコベが生えるのは土地が肥えている証拠」という風に感謝しながら作業できる鹿苑農場は素晴しいところだと思います。

 鹿苑農場の最も誇れるところは食べ物が美味しいということでもあると思います。御昼に自家製の野菜カレーと竹の子ご飯を頂いたのですが、それが美味しいと言えない人はいないのではないのではないだろうかと思うくらいでした。一緒に行ったスリムな山本さんが誰も止められない位食べていたのには驚きました。それくらい美味しいということなのです。

 自給自足の生活を楽しむには様々な価値観の変化が必要で、その生活を始める事は本当に困難だと思います。しかしこの鹿苑農場では前向きに捉え、その生活を楽しいものに変えています。とても素晴しい事だと思います。


 今回、有機的な生き方をしている人々に触れ、その生き方の楽しさを学びました。快く私たちを受け入れてくださった筧さんや次の世代を守る会の皆様にはとても感謝しております。これからも有機的な生き方をされている方に触れ、多くのことを学びたいと思いますので、よろしくお願いします。


絵 荒川 陽子
文 いかわ ひろや
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