海外農業事情 カナダ編
−プリティッシュコロンピア州、ダンガンにおける
バイオダイナミックファーム農場について−
筑波大学環境科学研究科3年 建元喜寿

・いざカナダヘ

 1996年2月1日、僕はワーキングホリデイ制度を利用し、1年問の海外生活に旅立ちました。海外経験が皆無の僕にとって、なにも決めずただ片道切符だけでの出発は、えもいえぬ不安や、この1年で僕になにが起こるのかという期待やらで、何ともいえない旅立ちでした。


・車が…………。

 カナダ到着後、半年間はロッキー山脈にある小さな町ジャスパーで、板前として働きました。chemical fertilizer や potentia natural vegetation of today は解っても How are you の解らなかった僕は、お金もないので日本食レストランで働くしかありませんでした。職場では、カナディアンもいましたが、日本語を使う機会が多く、英語の習得にはいい環境ではありませんでしたが、とてもいい経験が出来ました。アボガドの入った巻き寿司「カリフォルニアロール」なんて、結構いけました。

 その半年で貯めたお金で、ChevoletのCelebrityという外車を買った僕は、9月1日颯爽とジャスパーを後にし、ファームステイの地へ旅立つ予定でした。しかし、なんと出発の前日、僕の車の前輪が……。なんとハの字。みなさん想像できますか?前輪が両方外を向いているのです。その修理に貯金をはたき、日本に帰るだけのお金を持って、何とかたどり着きました。


・wwoof CANADAとは

 僕は、wwoof CANADAという組織の斡旋で、今回紹介するファームを見つけました。wwoofとは(World Wide Organization of Organic Farm)の略で、各国の有機農業家たちが組織を作り、世界に有機農業を普及したり、あるいは世界中の人に有機農業を体験してもらうために作られた組織です。

 この組織に入会すると、カナダにあるwwoofの農場のリストが送ってこられ、その中から自分の希望する農場(規模、地域、作物の種類ets)を選びます。そして、自分の希望する農家が助けを必要としていれば、そこでの生活が始まります。このプログラムでは、給料はもらえませんが、寝る場所と、3食おいしく安全な食事が捉供されます。


・ダンカンの位置

 僕は、カナダ西部ブリディッシユコロンビア州の、バンクーバー島にある小さな町ダンカンでファームステイしました。(図参照)ここにはこれといった産業もなく、やや廃れた感じのある町ですが、有機農業が盛んで、週末にはローカルファーマーズマーケットという青空市が開かれ、近くの農家の人たちが思い思いのものを持ち集まります。カナダみやげで有名なカウチンセーターは、実はこの辺りが発祥地です。春先、既に大規模な農場はみてきていたので、自分が実家にもっどたときの参考にしようと思い、規模のあまり大きくないこの農場(2ha程度)を選びました。


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図1ファームの位置



・バイオダイナミックファームとは

 僕の滞在したファームでは、バイオダイナミックファーミングという方法で、農業が営まれていました。有機農業の形態・定義にもいろいろありますが、この方法をざっと定義すると、以下の通りになります。

 ・化学肥料、農薬等の合成物質は一切使わない。

 ・牛、鶏、蜜蜂、山羊等の家畜を必ず飼育する。

 ・放牧区、穀物区、蔬菜区などに分け、必ずローテーションする。

 ・家畜の飼料も、その農場内で生産する。
図2参照

 バイオダイナミックファームの基本的考え方として、各農家において物質循環を完結させることがあります。ホストファーザーは、化学肥料や農薬を使わないだけでは、まだ足りない。各農家で物質循環をさせないとといわれました。ここの農場では、家畜としては牛(搾乳、鶏(肉、卵)、蜂(蜜、受粉)がいて、飼料用と食用の小麦、各種野菜・果実類を栽培していますが、それぞれが結びつていて、見事なまでにゴミが出ません。食べ残しは全て堆肥か鶏の餌となり、直接畑から野菜は持ってくるので、ラップのゴミなんかも出ません。本当にびっくりするくらいごみがでません。今年の2月に日本に帰ってきて、コンビニに行ったら1回買い物しただけで、大量にゴミが出て本当にこりゃまずいとしみじみ感じました。


・僕の一日

 さてファームでの一日は、牛と鶏の餌やりから始まります。牛は3頭、鶏は40羽程度しかいないので、きつい仕事ではないのですが、はじめの何日かは牛になめられてしまいました。牛たちも、新参者がわかるらしく、おじさんが餌をやると、餌箱の前でおとなしく待っているのに、僕がやると、角でつつくは、餌を奪おうとするは、もうかないませんでした。しかしそのうちに覚えてくれ、おとなしく食べてくれるようになりました。

 家畜たちに餌を与えると、次は我々の朝食です。朝食のメニューはいつも同じです。紅茶、シリアル、そして焼きたてのパンです。とてもシンプルなものですが、ホストマザーが毎日焼いてくれるパンは格別でした。

 そして午前の仕事に入ります。仕事は毎日変わりますが、僕が滞在した季節はちょうど収穫期の終盤だったので、採り入れや、堆肥づくりが主な仕事でした。堆肥は、トマトやズッキーニなどの収穫後の植物体や、牛糞、鶏糞等に魚粉などを混ぜて約1年かけて作ります。農場内で作物を食べ荒らすラクーンをホストが撃ち殺しましたが、それも堆肥の中に入れてました。

 毎日昼食は、野菜スープです。(ここの家族はあまり肉を食べません)この野菜スープの美味しいといったらありません、と書きたいところですが、小さい頃からトマトが食べられなかった(小学校の時の給食で、無理矢理食べさせられて、気持ち悪くなって入院したぐらいですから)僕には、初の昼食がトマトスープなのには参りました。しかし、トマトは駄目でも、トマトケチャップは大好きなので、何とかスープは食べられました。昼食は毎日、このスープとパンだけなので、好き嫌いなどいっていられません。野菜スープのバリエーションは豊富でしかも、野菜はすべて自分たちが作った安全で美味しいものです。これが本当のしあわせなのかもしれないと感じました。


・今日はこの6品

 僕がファームを去る前々日、日本食を作ってあげました。カナダでも、醤油や味噌は比較的簡単に手に入ります。中には、カナダに移住してきた日本人の人が、有機農産物を使って手作りで作ったものもあります。僕は、ホストがドイツ移民の人でじゃがいもがすきなので、肉じゃが、こふきいも、いものにんにくバター醤油和え、それに、いんげんの胡麻味噌和え、マーボなす、豚汁を作りました。ここでは、野菜の皮を剥かないのが流儀です。野菜の皮の部分は栄養が多い反面、毒素等もたまりやすいわけですが、ここの野菜は心配無用。すべて丸ごと使います。みんな美味しそうに食べてくれました。やっぱり芸は身を助けます。


・野菜の刺身

 ある日のこと、とうもろこし、いんげん豆、ブロッコリーの生を食べる機会がありました。食べる前は抵抗があったのですが、おじさんの優しそうな目に負け、食べてみるととてもあまく美味しかったです。もぎ立ての野菜は、とてもみずみずしく、美味しかったです。でもやっぱり、ゆでたほうがおいしいと思います。一緒に働いていた、カナディアンの青年も、ゆでたほうがうまいといってました。



・おお!!ここが僕が求めていたところだ

 田舎の小さな農家で生まれ、そこで育った僕には、今の大規模集約化された農業や、研究者と現場の遊離してしまった農業、食糧の多くを海外に依存する農業に、心配を抱かざるを得ません。本来農業は、もっと小さなサイクルでよかったのではないかと思います。ここダンカンでは、各農家が緩やかな連帯をして、お互い足りないところを補いあい暮らしています。僕の滞在した農家の収入は、奥さんが作ったパンを売った収入と、週末の野菜市の収入だけですが、収入は少なくとも、食糧はほぼ完全に自給しており、支出が少ないので、十分暮らしていけるわけです。お金を貯めるには、収入を増やすより、無駄遣いをやめるほうが早いといいますが、まさにその通りだと思います。

 奥さんが、私たちのような生き方は、政府はとても嫌うけど、私たちは私たちの力で生きていける。そして、考えたいこと、してみたいことを自由にできる。それは、身勝手に生きるということではなく、真に人間らしく生きるということよ、とおっしゃったことが胸に残っています。


・みんなもチャレンジしてみて

 僕は、あまり文卓がうまくないので、ファームステイでの体験を伝え切ることはできませんが、本当にここでの体験は自分のこれからの生き方を考えされられ、今まで考えてきたことにも白信を与えてくれました。確か、この有機農業新聞は、高校生ぐらいの方から年輩の方まで幅広く購読者の方がいらっしやるようですが、特に高校生のみんなや、大学生の方にはぜひ海外での生活にチャレンジしてもらいたいです。

 僕が参加したプログラムは、短期間だけでも(1ケ月でも)いいので、行ってみたいと思われた方は、ご連絡下さい。いろいろ、お手伝いできると思います。はじめはきついけど、きっと成長した自分に会えると思います。さて、今年の2月に帰国した僕は、いろいろ考え、地元に戻り高校の理科の先生を目指すことにしました。毎日、びちびちの1年生に囲まれて、教職科目を履修しています。がんばるぞ〜。それでは。(おわり)


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