田尻裕司監督作品


OLの愛汁 ラブジュース

ビデオタイトル「はたらくお姉様 アフター5は我慢できない」
1999年、製作:国映、配給:新東宝映画
監督:田尻裕司、脚本:武田浩介
出演:久保田あつみ、佐藤幹雄、林由美香、澤山雄史、コマツユカ

ヒロインは28歳のOL。6年付きあった彼氏にいきなり別れを告げられてぽっかりと日常に穴が開く。すでにマンネリだったもののずっとこのままの関係だと思っていた・・・。あーあ。今さらどうしよう。しかしある日、仕事帰りの電車の中で寝過ごしたことがきっかけで、隣に座っていた20歳の学生となんとなく付き合うようになる。「先のことはわからないっしょ」「思い出とかそういうのホントに好きじゃないから」とうそぶく、でもヤリたい盛りのイマドキの若者と、「軽く遊ぶのにも勇気がいる」と感じながらも甘えてくる年下の男が新鮮で可愛くてしかたない28歳のOLの関係は、ジャレあうようにほんわかと楽しかったのだが、微妙にすれ違いはじめて気がついたらどこかに消えてしまっている。心の隅には鈍い痛みがあるような気がするけれど、またいつもの毎日が過ぎてゆく。

ヒロインの呟くようなモノローグで進む、「江國香織的ピンク映画」。女性に受けたのもよく分かる。しかしスタイルは江國香織だけども内容は案外しっかりと20代後半〜30代前半の独身女性(しかも地味な)の日常に食い込んでいて、ちょいと痛いです。
久保田あつみはキレイなんだけど生真面目な感じが大変好感が持てるし、年下の男を演じた佐藤幹雄のキャラクターも、いかにもその辺にいそう。別に無責任とかでなく彼なりに誠実なのだが、結婚を意識せざるを得ない年齢に達している女には、ちょっとツライ相手であることは間違いないなー、と自分に置き換えてみてつくづくそう感じられたのだった。
全編通して薄くソフトフォーカスがかかったようなファンタジックな映像。二人の絡みは犬がじゃれあうようで、久保田あつみの表情はもちろん佐藤幹雄の表情や姿態も可愛く撮られているのでピンクを観る女としても大満足。いろんな意味で本当に女性向きのピンク映画だと思えます。
私はヒロインの年をわずかに(←自称)越したところですが、彼女の心持ちはかなり痛みを伴って迫ってまいります。だから冷静にこの映画を観ることができませんでした。よって感想もロクに書けません。(笑)(2003.3.28)


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淫らな唇 〜痙攣〜

2004年、製作・配給:国映・新東宝映画、製作:Vシアター135
監督:田尻裕司、助監督:松本唯史、脚本:芳田秀明
出演:佐々木ユメカ、真田幹也、堀正彦、北の国、大葉ふゆ、はやしだみき

ヒロインのみのり(佐々木ユメカ)は30才のフリーのカメラマン。サブカル雑誌の編集長(堀正彦)は自分の世話になった先輩(はやしだみき)の夫なのだが、その彼とは長く不倫関係を続けている。ある日、その編集長からの依頼で、若手編集者の樫山(真田幹也)の、女流成人漫画家あげは(大葉ふゆ)の取材に同行する。一度活動を休止したのちに復活宣言をしたあげはだったはずなのだが、取材に対しては「もう描くつもりはない」と言って口をつぐんでしまう。しかし、同行したみのりは、直感的に、彼女には本当は描きたいという衝動があるのだと感じ取った。うまく取材できなかった樫山を編集長は叱りつけ、それならばあげはが描くと言っているインタビューを捏造しろと命令。抵抗を感じながら、樫山は架空の記事を書き始める。一方、みのりは取材中に撮ったあげはの写真を現像しながら、彼女のその追いつめられたような眼差しの中に、自分の中にも彼女と似た焦りと揺れがあることに気づかされる。出来上がった創作のインタビュー記事を持った樫山と共に再びあげはを訪れたみのりは、彼女と自分自身を挑発するように、「あなたは描くべきだ」と言い放ち、あげはを激怒させてしまう。

佐々木ユメカは闘魂の女である。
とかいうとなんかもの凄く燃える女のようだけども、彼女の演じる女性は、膝小僧を痣だらけ擦り傷だらけにしながら走り続ける、都会の孤独な長距離ランナーである。誰も走れとは命じていないし、その膝に出来た痣も擦り傷もすべて自分の過ちのせいで、誰に同情してもらえるものでもないのだけど、それでも彼女は頭を凛と持ち上げて、無心な顔で、時にはパンプスで、時にはスニーカーで、アスファルトで塗り固められた地面の上を必死に走り続ける。たまには脇から支えてくれる男が現れたりもするのだが、そこで果たして休憩していいのかどうか、あまりに長く走ってきたから彼女にはもはやよくわからない。そこで彼女は当惑する。当惑しながら、やはり、また走り始める。男が伴走してくれれば、そこから先は孤独ではなくなるかもしれない。でも、みんながみんな、共に走ってくれるとは限らないし、彼女のスピードについてゆけるとは限らない。そこで手ひどくすっ転んで、でもすぐさま起きあがって、彼女はまた走り出す。そのときもしかしたら、彼女は少し、唇に笑みを浮かべているかもしれない。

なんてことをちょっと考えてみました。佐々木ユメカという女優について、私が勝手に描いたイメージです。
私が初めて見たユメカさんの映画、「ぐしょ濡れ美容師 すけべな下半身」でも彼女は走っていました。田尻裕司監督の少し前の作品「不倫する人妻 眩暈」でも、映画は彼女の走り続ける姿で終わっていました。そしてこの映画でも、ユメカさんは走る。その姿が大変うつくしいのです。
もう決して若くない(と言われる歳の)女性の生き方探し、そしてパートナー(になれるかもしれない年下の男)との巡り会い…という物語で、そんなに劇的な展開があるわけでもなく、むしろ最後まで淡々としています。「不倫する人妻 眩暈」「OLの愛汁 ラブジュース」と同様、迷える女性を主人公にした自分探しがテーマで、大変繊細な、ささやかな痛みを覚える作品。だけど今回は、ヒロインに寄り添ってくれるかもしれない相手が現れるという、ちょっと甘いハッピーエンドの予感で物語が終わります。好きじゃない人もいるかもしれません。あまりにも物語がうまく運ぶようで、物足りないかもね。でも女性にはたいへん見やすい作品だと思います(というより、もろにそれを意識して作られているような気も)。私は好き。とにかく、走るユメカさん、そして時折広島弁?を聞かせてくれるユメカさん。これに尽きます。

真田幹也ってどこかで見たことがある気がするのだけど思い出せない。他の映画で見たのかなぁ。なかなかいい感じのお兄さんでした。この映画に出てくる男性二人は、どちらも少々欠点はあるものの、いい人(記事の捏造はいけませんが)。この映画には、女性にとって一人も嫌な人がでてきません。だからまた、気持ちよく見られたのかもしれません(これが嫌な人もいるだろうな)。
そういえば、田尻監督作品では、「ノーパン痴漢電車 見えちゃった!」のラストシーンでも佐藤幹雄が延々歩いてましたね。そういう演出、好きなのかなぁ。(新宿国際名画座、2004.9.5)


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