サトウトシキ監督作品(1)


特別(生)企画 ザ・投稿ビデオ

ビデオタイトル「お姉さんは投稿マニア AV業界(秘)物語」
1992年、製作:アウトキャスト・プロデュース、配給:新東宝映画
監督:サトウトシキ、脚本:小林宏一
出演:杉浦峰夫、秋山まり子、岸加奈子、江藤保徳、菊次郎、清水大敬

主人公は零細AVプロダクションの社長。素人の投稿ビデオを編集して作品にしているが、そんな仕事でも編集に凝って芸術性を持たせようとするあまり、売れ行きは芳しくなく、ビデオ配給会社からは契約の打ち切りを示唆されている有様。たった一人いた従業員兼編集者とも衝突し、クビにしてしまう。ある日彼は投稿されていたビデオをチェックしているうち、一人の女から投稿されてきた内容に目を留める。何人もの男と次々に絡む彼女は、実は主人公の元愛人で、妻が妊娠したために彼が身勝手に捨てた女だった。一度はそのビデオを捨てた主人公だったが、ビデオ会社から何か新しい、あざといつくりのものをと提案され、結局はそのビデオを使って作品を作り上げる。作品は大ヒットし、プロダクションも大手へと変貌。成功したかに見えたとき、主人公が昔クビにした編集者が現れる。

最後まで見て「破線のマリス」だったのかとわかる映画。(違います)
周囲の人物を自分のいいように使いながら立ち回ってきた男が、最後にその自分がそれまでやってきた方法のせいで崩壊する話・・・なのだと思う。
投稿ビデオの話なのでふんだんに絡みはあるものの、ものすごくマジメなムードで物語が進む。サトウトシキ監督の業界ものというと「夢の後始末」を思い出すのだけども、絡みが多いだけこちらのほうが見ていられた(笑)。元の女が自分が出ているセックスビデオを送りつけてくる・・・といったらなんとなくそこから話が展開してゆきそうなもんだけど、彼女はあくまでも主人公の「過去」の存在以上になることはないし、物語は主人公のAV業界での立場ばかり描くだけで話が何も膨らまないので、映画のオチももはやどーでもよくなってしまうのだった。ラストでおそらく全てを捨てた主人公が車を走らせてゆくシーンはなかなか雰囲気があるのだけど、私にとっては「雰囲気がある」と感じるだけでそれ以上なんとも思えなかった。
穴蔵のような事務所で編集作業をする主人公の姿と、彼が屋外を歩くときに見上げる青空、緑の木々、明るい日の光の美しさはちょっと印象的。(その美しさに昔の彼女を重ねて思うシーンがあるんだけど・・・自分の投稿ビデオを送りつけてくる女を、そんなにキレイキレイで済ませられるもんか?)

本多菊次朗氏は「菊次郎」名で出演。ビデオ会社の担当者を演じている。主人公の作品の「芸術性」を高くかっているものの、それでは売れないので「営業が納得するようなあざといヤツ」を作るよう彼に依頼する。まだまだお若くて可愛らしい・・・。関係ないけどあのメガネは自前か?(笑)

しかしAVで芸術性って言われても、なんか困っちゃうような切ないような、です。


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赤い犯行 夢の後始末

ビデオタイトル「夢の後始末」
1997年、製作・配給:新東宝=国映
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:町田康、佐野和宏、隈本吉成、本多菊雄、葉月螢

主人公(町田康)はもうすぐ40歳になろうというピンク映画監督。そろそろ将来への焦りが諦めにかわりつつある。新作のシナリオがプロデューサー(隅本吉成)から強烈なダメ出しをくらい、ベテランの脚本家に直しを頼みに行くと、逆鱗に触れて追い返されてしまう。仕方なく自分で必死にシナリオを作るもののプロデューサーからは鼻で嗤われ、もう一度と脚本家宅を訪れたところ、彼は不在。しかし彼の部屋で書きかけの見事な原稿を目にした主人公は、そのフロッピーディスクを勝手に持ち出してしまう。そのシナリオに対するプロデューサーの受けは良く、若い助監督(本多菊雄)からも賞賛され、いよいよ映画製作がスタートしたところで、脚本家がそのシナリオを返せと言ってくる。「あの映画は俺が自分の手で監督する」「おまえなどには撮らせない」どうしても譲らない脚本家を、主人公は車でひき殺し、海に捨てる。

ピンク映画界の内幕もの。映画の中で登場するシナリオは、実はこの映画そのもののシナリオという形になっており、入れ子形式?とでも言っていいスタイルになっている。が。が、が。
・・・面白くないのよ・・・。残念ながら、全然面白くない。まずこの映画をピンク映画館で観たおじさん・おにいさんたちに私は心から同情する。何故って絡みが最初と最後にほんのちょっぴりしかないからだ(笑)!映画の中で「裸も絡みもないし有名な俳優もいないし監督も無名だなんて映画を一体誰が見に来るんだ」というセリフがあったんだけど、まさにその通りの映画だと私は思ってしまった。まあ今となってはサトウトシキ監督を無名だとは思わないし町田康は芥川賞作家だが、しかしな・・・だけどな・・・。とにかく退屈。映画を撮りたくて人の脚本を盗んでしまう主人公や、いい加減なプロデューサー、如才なく出世しそうな感じの助監督、若造を苦々しく思っている脚本家、等々、面白いところは沢山あるし、そこには大いなるドラマが描かれているはずなのに、なんか全然映画の中に入ってゆけないんだよな。だいたい「映画への情熱」を語るのに「映画への情熱」という直接的な言葉を使っちゃあおしまいじゃないかい?なんか悪い意味で、観念的な自主制作映画を観ているような気分だった。同じような映画界内幕ものとしては、「エロスのしたたり」のほうがよっぽど面白かったし工夫があったと思うのよね。馬鹿馬鹿しい話だったけど。
映画の終盤で、助監督が監督に向かって「こんなことに俺を付き合わせてきたのか!この野郎!」といきなり切れてバコバコに殴りつけ蹴りつけるシーンがあるんだけど、これはこの映画を観ている私の気持ちを代弁してくれたようなもんでした(笑)

本多菊雄氏が演じたのは編集室に女を連れ込んだりしてしまう助監督。町田康の主人公の眼差しが痛々しく怖いので、自然と私の目は本多氏の方に向いてしまったのだった。
ところで伊藤猛が出てたらしいけどどこに?もしかして冒頭の編集中の絡みのシーンか。顔見えなかったけどなぁ。


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ロマンティックマニア

1997年、ケイエスエス販売(V)
監督:サトウトシキ
出演:鈴木早智子、北村康、本多菊雄、隈本吉成

猟奇殺人に巻き込まれる婦人警官が主人公のサスペンス。サトウトシキ監督。たぶんこれ成人指定映画ではないOV作品だと思いますが、一応この項に加えました。エロにもストーリーにも中途半端でちょい残念。キャストは主演が元ウィンクの鈴木早智子、それにくわえて北村康(現:北村一輝)、そして今や芥川賞作家の町田康、隅本吉成、われらが本多菊雄!北村一輝も好きな本多菊雄ファンとしてはかなり豪華なキャスティングと思うのだが(笑・ただしこの二人が共演するシーンはありません)、ストーリーが今ひとつ・・・。
都会の中で希薄になってゆく「他人」と「自分」との関係、「自分自身」の存在、みたいなことを匂わせつつ、いつものサトウ監督らしく淡々と、時には微妙にユーモラスなタッチ・・・というのは興味深かったのですが、その淡々としたタッチがあまり生かされていないような気もし、同時にこういう題材には今ひとつ合わなかったのではないかと思ったのだった。だってストーリーが。(以下省略)

本多菊雄氏が演じるのは若手の刑事。ヒロインの不倫相手の相方、という設定で、ちょっと和み系でまぬけなキャラクターだし、大変カワイイです(無責任男だけど)。しかし自分の恋人が連続殺人に巻き込まれてしまい、もしかしてこれから活躍!?と思いきやあっさりと犯人(北村一輝。隠すまでもなく最初から想像がつく)に殺される。しかも殺されるシーンもなくいきなり死体となって登場する。ああ・・・(哀)。
しかし彼女がHさせてくれないので非常手段として「結婚しよう」と言うこの役って最低。というか幼稚だ。だけどそのいい加減なプロポーズの仕方がかわいく思えるのは、間違いなく、彼が演じているので目が曇っているのだろう・・・と思うな。(笑)


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団地妻 白昼の不倫

ビデオタイトル「団地妻快楽図鑑 3人の性くらべ」
1997年 配給=新東宝、製作=国映
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:葉月螢、沢田夏子、長曽我部容子、川瀬陽太、本多菊雄

主人公は結婚8年目の、ごくフツーの団地で静かに生活する平凡な主婦(28歳、葉月螢)である。昔はよく浮気していた夫(30歳、本多菊雄)も今では落ち着いているようだし、格別問題はない。ただセックスの時にいつも「気持ちいい」とあからさまに連呼してしまう自分に、旦那が少々呆れているようでもあるのだが。お隣の派手目な先輩主婦(沢田夏子)と他愛ない会話(ポール・ニューマンのトマトソースは甘みが足りないから嫌だとか何だとか)を交わし、ボウリングで暇をつぶし、帰りの遅い旦那を待つ毎日。しかし気がついてみると、なんとなく旦那の様子がまた変になってきた気もする。仕事帰りに見知らぬ女(実は同じ団地に住む人妻。長曽我部容子)にただならぬ雰囲気で見とれる彼の姿を目撃し、もしかしたら、と不穏な気分になり哀しくなる。そしたら今度は、ボウリング場でたまにみかける変な男(実は団地の住人で長曽我部容子の旦那。川瀬陽太)から付き合って欲しいと懇願され、「頼まれると嫌とは言えない性格なので」ホテルへ。しかし結局未遂に終わってホテルから外に出ようとしたら、そこで旦那と出くわしてしまう。

団地に住む一組のカップルの間に起こるさざ波を静かなユーモアで描いた映画。
主人公に据えられた葉月螢&本多菊雄カップルのかわいらしさが何とも言えません。物語はヒロイン葉月螢のモノローグの形で描かれる(そういえばサトウ監督の作品にはこういうのが多いなぁ)んだけど、彼女の訥々とした語り口、そして画面でのくそ真面目な顔が笑いを誘うわ可愛らしいわで、とにかく楽しいのだ。「いつまでも女の尻をおいかけてばかりのエッチな少年」と妻に評される夫@本多菊雄も、実は浮気などしておらず、毎朝自転車置き場ですれ違う美女・長曽我部容子にほのかに憧れているだけだったりする(彼女の姿を見るたびに、「よし、今日も一日、頑張るぞ!」と自分を励ますシーンが笑える)。この夫婦が夜のベランダに立って会話をするシーンがあるんだけど、この会話が夫と妻の大いなる相違を表しているようで大変面白かった。(しかし実際には、妻もまた夫のようなことを感じることもあると思うのだが)
相変わらず会話やシチュエーションは大変うまくできてます。浮気未遂現場を見られた妻と夫の会話(「何してるんだ」「買い物」「買い物って何を」「お豆腐」←ホテルの前で)のおかしさ、出来てしまった溝を意識しながら、夜、真っ暗な台所で二人でワインを注いで一気飲みしあい、最後には争ってボトルからラッパ飲みし始めるシーン。そういうものがいちいち印象的だし、時には少々わざとらしさもある。しかし見終わってみると、淡々とした時間の流れにそういう一つ一つのシーンや台詞が実に良く溶け込んでいて全く違和感を感じない・・・。というのが、私の感想。ま、葉月螢&本多菊雄カップルを見てるだけでシアワセ〜〜♪だったので、実のところ、それ以外はよくわかりません。(笑)

私は本多菊雄氏を見たのはこの映画が二回目だったと思う(一度目が「したがる兄嫁」ね)。もーファンになるしかないっしょ?って感じでした。(笑)


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新宿♀日記 迷い猫

初回公開タイトル「尻まで濡らす団地妻」
ビデオタイトル「告白団地妻売春クラブ」
1998年、製作:国映=新東宝映画 配給:国映=新東宝映画
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:長曽我部蓉子、平泉成、本多菊雄、寺十吾

昼下がりの喫茶店で若い女が、無表情に記者のインタビューを受けている。
団地に住む結婚三年目の妻が、夜勤になった夫を待つ間に「なんとなく」夜道で売春をはじめ、そこで「いくら払ったらやらせてもらえる」と切り込んできた若い男と愛人(というよりは馴染みの)関係になる。その気配に気がついて粗暴になった夫がうとましくなり、セックスを拒んで激しく殴られた翌朝、団地の自転車置き場で子供用の金属バットを拾い、「なんとなく」「たぶんに衝動的に」夫を何十回と殴りつけて撲殺。「拳銃だったら一発で死ぬけど、バットだったらものすごく苦しまなければならないから」「ざまあみろです」しかし愛人に死体の処分を頼んだところあっさりと断られ、しかたなく自分で処理。その後殺人が発覚するものの容疑を否定、家には戻らずあちこちを転々とする。指名手配されてしまい愛人に電話してみたところ、彼は至極冷淡。実は彼の方は彼女のことなどもともとどうでも良かったことに気がついて、そこでようやく、少々ショックを受ける。
「こんな馬鹿な女もいるってことです」「あなたはそんな馬鹿な女じゃないでしょう」「馬鹿ですよ」インタビューが終わると女は街に出て、頭を上げ、背筋を伸ばし、警察へと歩いてゆく。

この映画、エロを求めて見に来たおじさんたちは「なんじゃこりゃ!?」と思うこと間違いないでしょうね〜。サトウトシキ監督の後の作品「果てしない欲情 もえさせて!(改題「青空」)」を思い出します。あれもこの映画のヒロインと同じように、男性の主人公が衝動的に恋人を殺すまでを描いていたけども、私はこっちの「迷い猫」のほうが好きだな。女性が主人公だからかもしれないけど、変な話ですが彼女に一瞬一瞬自分を重ねることができるのです。犯罪を犯す主人公の目線でのみ描かれる、説明のない物語で、カミュの「異邦人」を感じさせたりもするし(私は「異邦人」でも主人公のムルソーに共感する部分大です)、私はいたく気に入りました。ラストシーンも大変余韻があります。
ヒロインを演じた長曽我部蓉子がごっついべっぴん(笑)。少女のようにかわいい一瞬もあれば冷たい美しさを感じさせる一瞬もあり、インタビューのシーンではサングラス越しにふてぶてしく自然体の笑顔を見せたりして、とにかくこの人の表情を見ているだけで飽きない。絡みのシーンも女から見てもとてもよかったっす。最後、新宿(たぶん都庁付近)を延々と一人歩き続けるその姿の美しいこと!あ〜こんないい女優さんがいるんだ〜。
そして本多氏が演じるのは、ヒロインの「愛人」である男。何故か拳銃を持ち歩いており正体不明。ヒロインと同じくらい刹那的なムードをアンニュイに漂わせていて、ヒロインとは「あっちの相性」(映画中の台詞)だけでなくてもとてもお似合いだったかもしれないサトウトシキ的キャラクター(だと思う)。自分は殺人とは関係ないと言い放ちながら、最後にはキスしてくれる嫌なヤツ。決して冷たい風貌ではない、どっちかというとやさしげな(そしてだだっ子のような・笑)雰囲気のある本多氏なので、ヒロインが心を動かされてしまい、最後にはやっぱりちょっと傷ついてしまった気持ちがわからんでもない(笑)と思ったり。

記者役の平泉成も大変いい味を出してます。


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新・団地妻 不倫は蜜の味(今宵かぎりは・・・)

ビデオタイトル「団地妻悦楽図鑑 4人の性くらべ」
1999年、国映
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:葉月螢、沢田夏子、村木仁、佐々木ユメカ、本多菊雄

ヒロインの名前が前作(「団地妻 白昼の不倫」)と一緒だけど中身は全く別。
都心から電車でいくつも川を越えたところにある郊外の高層アパートに住むヒロイン(葉月螢)は、子供はいないものの夫(本多菊雄)とは仲睦まじく、隣室に住む主婦(沢田夏子)とは友だち同士で仲良く喋っている。ただし、隣室の主婦は夫婦生活(夜含む)を明るく話してしまうヒロインに対して少々割り切れ無さも感じているのだが。二人の夫同士は同じ方角で仕事をしているにもかかわらず最近まで言葉を交わしたこともなかったが、ふとしたきっかけで一緒に飲むようになる。仕事帰りに二人で飲んでいた時、居酒屋で相席した若い女二人組(うち一人が佐々木ユメカ)と親しくなり、ヒロインの夫はそのうちの一人(ユメカ)に迫られて、断りきれず、またちょっとした出来心で浮気をしてしまう。

二組のカップルが、些細な悪意や嫉妬、悪戯心をきっかけに静かに壊れてゆく物語。全体的には「白昼の不倫」と同じように淡々としたユーモアで描かれているけれど、のんびりと語られるセリフの端々には4人(+2人)それぞれの自分勝手さや無責任さが見え隠れする。ささやかな悪意と嫉妬で動きながら自分たち自身の関係も壊してゆく隣室の夫婦(とくに夫)もユーモラスに描かれるし、本多菊雄演じる主人公の夫がだんだんと優柔不断っぷりやだらしなさを露呈してゆく過程は喜劇的で笑えるものの、全体的に、笑いながらも冷え冷えとした気分にさせられる映画。
一番凄いのは、ラスト近くに到るまで周囲の変化に全く気がつかない、天真爛漫な主人公にいきなり大きな悪意が降りかかるくだり。その後、彼女は何事もなかったかのように、真っ暗なキッチンで黙々とご飯と漬け物をかきこみ続ける(このシーンで映画は終わる)。たぶんこのシーンは、彼女自身や夫との関係、そして周囲の人物との関係、これまでの日常が(表面上は今まで通りかもしれないけど)永遠に変わってしまうことを暗示しているのではないか。静かだけど悲劇的な余韻が残るラストシーン・・・と、私には思えた。

それにしてもこの紛らわしいビデオタイトルどうにかならんのだろーか。公開時タイトルから変わりすぎ。


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