1999年、製作・配給:新東宝
監督:榎本敏郎、脚本:井土紀州、榎本敏郎
出演:伊藤猛、沢田夏子、川瀬陽太、伊藤清美、さとう樹菜子
主人公(伊藤猛)は警備会社で夜警の仕事をしている。夜誰もいないビルを巡回していて、いるはずのない人の目線を感じパニックに陥ってしまう彼には、妻を自殺で亡くした過去があり、そのせいか日中も近所の目を気にしてノイローゼ気味。空いた時間にはカウンセリングに通う毎日だった。ある日、学生時代の女友達(沢田夏子)と久しぶりに出会った主人公は、彼女の快活さや面倒見の良さに癒されるものを感じるが、いざ関係を持とうという時に誰かの目線を感じてしまいうまくいかない。
そのことをカウンセラーにうち明けているうち、主人公は自分の心の奥底に隠してきたことを思い出す。妻は自分に隠れて不倫をし続けており、ある日、主人公は自宅で不倫相手とセックスしている妻の姿を目撃してしまう。彼はその妻の姿に普段は感じないほどの性的興奮を感じてしまい、その後、妻の姿を覗き見ることを密かな楽しみとしていた。妻はそれに気づいて、悩んだ末に自殺してしまったのである。
理由はどうあれ(・・・)自分を見つめ直すことができた主人公は、女友達とようやく関係を結ぶことができる。心もようやく晴れ、人目を気にすることもなくなった・・・と感じ始めた頃、その女友だちが死んでしまう。
復習が長い。↑
榎本敏郎監督作品はこれが初めて。面白かったといえば面白かったのだけど、同時に「うーんどうかなぁ」と思った部分もあった。
この映画は女優を見るというより伊藤猛を見る映画なのだけど(笑・だって女優の絡み物足りなさすぎ)、私は彼がとても好きなのでその点は見ていて面白かった。この人は前も書いたように演技臭さが全然ない人で、そこに立っていたりしゃがんでいたりするだけで、そこにもう彼の世界が広がっていたりする。それは時にはヌボーっとした笑いの世界(「エロスのしたたり」「団地妻 不倫でラブラブ」)であったり、今回の映画や瀬々敬久の「雷魚」の時のように、心の中にあまりにどす黒いものを溜め込みすぎて放心しているような、その佇まいを見ているだけでこちらを不安な気持ちにさせる世界であったりする。そういう彼なので、まあ最初から最後まで、「伊藤猛の映画」と見て、私は楽しかった。警備員の制服姿も見られたし。(笑)
ところがどうも私がこの映画で気になって仕方なかったのは、時折差し挟まれるカウンセリングの場面なのだった。物語のキーとなってくる「主人公が何故人の目を気にするようになったのか」という部分を説明してゆくために必要だったのだろうとは思うけど、なんかあまりにリアリティに乏しい。とにかく物語を進めるためだけに存在する都合のいい進行役として使われているのが見え透いているので、そのシーンが始まると緊張感と鑑賞意欲が途切れがちになって困った。(もしかしたらこのカウンセリングもまた主人公の心の中の妄想なのかもしれないのだが、それを匂わせるところはない。)
全体的に適当に作られた絡み映画であれば、そういうディテールの適当さも「それはそれで仕方ない」と思えたのだろうけど、たぶん監督はそういう適当な映画として撮ったのではないはず。だからこそ、そういう些細な杜撰さ(←アマチュアの自主製作映画でよく見られる)が気になってしまったのだった。
それでも決して「ケッ!」とまでは思わなかったので、榎本監督作品はもう少しチェックしてみいようかな。
川瀬陽太は主人公の同僚。変テコなメガネをかけてさとう樹菜子と絡んでいる。物語にあまり深く関わってこないのが残念。
脚本が瀬々作品に関わっている井土紀州の名前が。なんとなく納得する部分あり。だけど、カウンセリングのシーンは彼が書いたんじゃないだろうと思う。思いたい。(笑)(2003.5.1.)