DVDタイトル「竜神と朱蓮華」
1994年、製作:国映、配給:新東宝映画
監督:上野俊哉、脚本:迦桜羅(瀬々敬久)
出演:伊藤猛、相川瞳、葉月螢、下元史朗、佐野和宏
長野五輪より前の頃。黒いコートを翻してボストンバックを持った主人公(伊藤猛)がふらりと雪深い長野の町に現れ、いきずりの林檎売りの中年女(吉田京子)を殺す。彼の記憶の中にはいつも仏具作りの工場で蓮の花の色付けをしていた妹(葉月螢)の姿がある。近親相姦の関係に陥って何度も堕胎を繰り返させた挙句に絞殺してしまった妹の姿である。温泉街で射的屋の親爺(下元史朗)にテレビ俳優と間違えられた彼は、紹介されたストリップ小屋の少女のような踊り子(相川瞳)と関係を持ち、彼女と共に、今では廃村になっている生まれ故郷を訪ねる。その道すがら、踊り子は村にまつわる「人身御供」の伝説を語る。
なんと表現してよいかわからんのだけど、深い哀しみが後々まで残る映画である。故郷(実際のものも心理的なものも)を失って流浪する主人公の有り様のみを追っており、彼が人を殺す理由はほとんど語られない(脚本が瀬々敬久とのこと、納得)。ただこみ上げてくる刹那的な(彼がどうしても抑え切れない性欲と同じような)感情にかられて次々に殺す。途中で伝説として語られる「竜神のためにささげられた人身御供」というくだりからすると、彼は自分が逃げながら生きてゆくために人を殺しているのかもしれない。しかし、殺すとき、殺したあとの彼の顔は苦痛に歪んでいる。
全編、伊藤猛の映画。踊り子に「殺してやろうか」と囁くときの哀しい響き、雪の上を転がるように走ってゆく無様な有り様、ラストシーンでの表情、この人は情念の世界にピッタリはまる人だなぁと思ってしまう。ストリップ小屋のオネエさんに佐野和宏。下元史朗と共に名演。
DVDには上野俊哉と葉月螢のインタビューがついている。監督と、かの朝倉大介氏(「国映のお姐さん」と表現)との打ち合わせの内容なんかが語られていて大変面白い。伊藤猛に関して二人が語る部分も必見也。(2003.7.13.)