2003年、製作:セメントマッチ、配給:オーピー映画
監督:池島ゆたか、脚本:五代暁子
出演:佐々木基子、牧村耕次、本多菊次朗、望月梨央、月島のあ、竹本泰志
ヒロインはホームヘルパーをしている人妻である。夫(本多菊次朗)は会社の部下(望月梨央)と浮気をしていてもう三年にもなるのだが、ヒロインは全くそれに気が付いていない。娘(月島のあ)は1浪ののち大学生になり、学生生活(と彼氏との関係)をエンジョイしている。ある日、新しく担当することになった独居老人の名前と住所を見て、主人公はショックを受ける。それは彼女が結婚する前に長く不倫関係にあった当時の会社の上司(牧村耕次)だった。彼との関係に深く傷ついた彼女は、その傷を癒すために今の夫と見合いで結婚したのである。家に出かけてみると、彼は妻に先立たれ、子供達からも見放されて一人で住んでいるうえに痴呆が始まっていた。むろんヒロインのことは覚えていない。しかし彼女は、昔かなわなかった「好きな人の身の回りの世話をする」ことができることに喜びを感じ、かいがいしく彼の面倒を見る。こんな形であれ自分の夢がかなった、と密かな幸せをかみしめている時、彼の心臓の持病が悪化し、入院しなくてはならないという知らせを受ける。
しみじみとしたラブストーリー。なんといってもヒロイン役の佐々木基子が良い。自分を覚えていない昔の男に思わず「部長」と呼びかけるシーン、「修子です」とようやく下の名前を名乗るシーン、たぶん映画の残り15分から10分ぐらいじゃないかと思うけど、そのシーンを皮切りに私は映画が終わるまで泣きっぱなし。(試写室が乾燥していたせいだけではないと思う。笑)良くできている話なんだけど、とくにこの彼女の告白のシーンからエンディングまでがドラマチックで切なくて・・・いかん、書いていてもまた泣けてくる(笑)。相手役の牧村耕次もよく見ると若々しいのだけど(笑)身体の動かしかたから表情まで本当におじいさん。クライマックスでは彼の力でも泣かせられる。
伏線として、ヒロインと上司の過去の関係にだぶらせるように、彼女の夫と部下の不倫関係が描かれるのだけども、この対比も面白かった。傷ついて別れて見合い結婚、というヒロインとは少し違って、自ら「もう終わりにしたい」と告げる少し強い女の子。それに、その別れのシーンで、「姿の見えない人(奥さん)に嫉妬するのはもう疲れた」と言う彼女に対し、夫がぼんやりと「わかるような気がするな」(←たしかこんな感じ)と応じるのだけども、このシーンは、もしかすると夫はヒロインの過去と、彼女の心に巣くっていた男の存在を知っているのかしら?とも思わせて印象深かった。まあ深読みって気もするけど、こういう印象があったからこそ、最後の最後で描かれる夫婦の営みのシーンまで含めて切なく感じられたんじゃないかしら。
65歳でボケちゃってほとんど寝たきり、というのは無理な設定に思えるものの(定年が65歳の職場もあるくらいなので)それ以外はピンク的違和感もあまり無し。私は去年の感動作「OL性告白 燃えつきた情事」よりこっちのほうが好きです。池島監督ご自身がチラリとご出演。なんか笑えました。
大学生の娘がいるお年にはまだ見えないけども、ヒロインの夫役が本多菊次朗氏。妻にも浮気相手にも調子のいい人なのだが、同時に、ちょっと居場所がないような、満ち足りていないような切なさがあるのだった。(例の如く私の目が曇っているせいかもしれませんが。)娘役が月島のあ(母の若い頃との2役)。この年の女の子が父親の浮気に寛大でいられるとは思えないのだが、まあそれはフィクションとして、ちゃっかりしっかりした存在が面白かった。演じている月島のあ、新人らしいけどとても良い。(2003.6.19 東映ラボテックにて鑑賞)