池島ゆたか監督作品


ミステイク

1995年、制作:セメントマッチ、配給:ENKプロモーション
監督:池島ゆたか、脚本:五代響子
出演:黒澤俊彦、広岡きみたけ、池島ゆたか、辻斬かりん、樹かず、山本清彦

見事に、ここまでやるかってほどにリュック・ベッソンの「二キータ」。ストーリーは故に説明することもない。どこまで似るかと思ったら、もとの映画でチェッキー・カリョが叔父だと偽ってアンヌ・パリローを尋ねてくるくだりまで似ていた。ちなみにこのチェッキー・カリョを演じているのが池島監督その人である。そしてこの映画は成人映画なので、成人映画版カリョ@池島ゆたかは、成人映画版パリロー@黒澤俊彦(←寡黙な美男だがなんか誰かに似ている・・・思い出せない・・・)に殺しの術だけでなく男同士のヨロコビをもからだに教え込む。まあアレですな、大変カッコのいい役柄です。

池島&五代コンビの映画を初めてみたのは2002年のピンク大賞での「OL性告白 燃え尽きた情事」なのだけど、あれも「スウィート・ノヴェンバー」の翻案だった(エンディングがちょっと違ったけど)。で、これもまた「二キータ」の翻案であり、エンディングがちょっと違う。この「ミステイク」で主人公は仕事の現場をサングラスをかけた少年に目撃され、その「少年」の存在が主人公と物語の結末に大きく影響を与える。私は最初、この少年は実際には存在せず、罪の意識にさいなまれる主人公の見ている幻ではないか、と思ったのだがそれは違った。それでもしばらく見ているうちに、「この少年はもしかして?」とある程度予想はできてしまうものの、映画全体の雰囲気はちょっと暗く落ち着いたムードでなかなかよろしいので、気にはならなかった。いや実のところ、この映画大変好きです!

短い時間の中で絡みも盛りだくさん、物語もエンターテイメント、というわけでとても面白く楽しめたのだけど、ひとつひっかかるところがあるとすれば、それはセリフなのだった。この映画の場合物語自体が、リアリティなどからはかけ離れたところにあるから、まあちょっとカッコつけ系のセリフがあってもいいと思うんだけど、最後の最後で主人公が口にするセリフがあれってのはどうだろう・・・。タイトルと関係あるセリフではあるんだけど、あえて口に出させないほうが余韻があったんじゃないかな。私としてはかなり盛り上がりながら見たつもりだったので、ちょっとがっかりしてしまった。

ジャン=ユーグ・アングラードを演じているのは平岡きみたけ。私個人の好みからは外れますが、なかなか個性的な面立ちで印象がキョーレツです。確か佐藤寿保監督の「狩人たちの触覚」にも出てたなぁ。(2003.5.24.)


-BACK-

デリヘル嬢 絹肌のうるおい

2002年、製作:セメントマッチ、配給:オーピー映画
監督:池島ゆたか、脚本:五代暁子、音楽:大場一魅、助監督:森山茂雄
出演:真咲紀子、北条湖都、橋本杏子、本多菊次朗、兵藤未来洋、樹かず、石動三六、河村栞

映画の冒頭、デリヘル嬢であるヒロイン(真咲紀子)は、汚れた川岸に浮かんでいる自分の死体の幻を見る。彼女は自分のいる場所の危うさに薄々気が付いているものの、かといって劇的に環境を変えようという意志がない。不景気でストレスの固まりになったサラリーマン(本多菊次朗)とか、AV嬢を見つけだして一発稼ごうと思ってるプロダクション社長(佐々木共輔)とかを相手にしながら、楽しくもなく苦しくもない毎日を過ごしている。この世界にいると誰かが死んだという噂をよく聞くなあ、とぼんやり思い、実際一度はSMマニアに殺されそうな経験をしながらも、貯金通帳を開いてそこに並んだゼロの数を数えれば、まあいいか、という気分になる。今日もまた川岸に自分の死体が浮いている。いずれにしてもいつかは死ぬんだし、何も驚くことはない。

男に騙されて貢がされるばかりの女の子(北条湖都)とか、子供を養うために風俗に入った30代の新人(橋本杏子。自分の子供とご出演だったそうだが、カワイイ赤ちゃんだった〜)とか、ドラマチックな生き方をしている主人公たちなのかもしれないが、彼女らは皆いたってあっさり・・・というか適当、怠惰な雰囲気すら醸し出している。特に真咲紀子の演じる主人公はマジメに仕事をこなすデリヘル嬢だし仲間ともちゃんと付き合っているものの、実は誰に対しても無関心で、何を考えているのか全くわからない。
この女性たちをバイタリティ溢れる有様で描くこともできただろうけども、この映画では、ズルズルと流されて行く彼女らの毎日を、面白そうにでも批判的にでもなくただ淡々と追っている。「知り合いが死んだことにも驚かなくなった」と言うセリフが途中で登場し、実際彼女らの一人が映画の終盤で姿を消しても、その事実はかすかな笑いと共に忘れ去られる。装っているのか実際そうなのか、その世界にいるからどうしようもなく身につけてしまったのか、流れ流れる日常の中で培われている周囲に対する「無関心さ」。この映画を観ていて漠とした不安を感じるのは、そのせいかもしれない。私が今まで見た池島&五代コンビの映画とはずいぶん違った雰囲気の作品だった。

橋本杏子のセックスシーンで母乳を出してみせるところ、なんか見てはいけないものを見てしまったという気が。だってなんかアレなんだもん…(謎)
主人公たちが時々のみに行く焼鳥屋の主人が松木良方(ご本人のお店?)、その客にノークレジットの佐野和宏。デリヘルの社長がフリーライターの石動三六氏で、この人がとっても宜しかったです。
本多氏はオープニングで真咲紀子の絡みの相手として登場。これが池島組初登板だったようです。不景気でやんなるよーやってられないよー、と濡れ場の間中ぼやいているサラリーマンを哀感たっぷりに演じてます。でも出番はそれだけ。もう少し見たかった〜!←心の叫び


-BACK-

恋する男たち

2002年、製作:セメンチマッチ、配給:オーピー映画
監督:池島ゆたか、脚本:五代暁子、音楽:大場一魅
出演:桜井雅也、竹本洋、河村栞、兵藤未来洋、石川雄也、横須賀正一、本多菊次朗、山ノ手ぐり子、神戸顕一、真咲紀子

「弟の恋人」「あいつの恋人」の二話からなるオムニバス映画(といって良いのか)。 第一話は、田舎の厳格な実家から出てきて東京で二人暮しをしている姉弟(河村栞、桜井雅也)と、弟の恋人(竹本洋)との関係。弟がゲイとは知らずにその恋人を好きになった姉はその後弟のセクシャリティを知り、二人して「家」「親」からの自立を目指し始める。
第二話は、片思いのノンケの男(石川雄也)が女に産ませた赤ちゃんを、その女から預けられて育てるゲイの青年(兵藤未来洋)と、彼を心配する恋人(横須賀正一)との関係。片思いとは別に、子供を恋人と共に育てることに喜びを感じるようになるまで。

この映画、第12回東京レズビアン&ゲイ映画祭(青山スパイラルホール)にて鑑賞。
ホモセクシュアルに付きまとうに違いないカミングアウトの問題、子供の問題を織り込みながら、池島作品なのでしっかりと濃厚な絡みも見せていつものように盛りだくさん。1話30分の二本立てみたいなものなので、物語も簡潔でダレないし、コメディ仕立てになっていて飽きないし、なによりとても後味が爽やか。キレイすぎるかもしれないけど、「前向きな気分になれる」(五代暁子氏談)ウェルメイドな佳作で、映画祭にふさわしい作品だったという気がする。
俳優陣も皆ピッタリ役に合っている。特に、1話目の河村栞、二話目の兵頭未来洋がとても良かった。兵頭未来洋って「デリヘル嬢」ではピンとこなかったけど、この映画では誠実でちょっと押しの弱そうな青年の役にピッタリ。赤ちゃんを背負ってノートパソコンを叩く姿など大変好ましいです。
映画館ではなく映画祭ということで客の反応が面白かった。最初のカラミの時でイくシーンだとか、河村栞が弟がゲイであることを知るシーンとかにどっと笑いが起きたりして。 池島組の俳優陣(本多菊次朗、神戸顕一、真咲紀子)が、第2話の主人公が嘱託社員として働く会社の同僚として登場(役名もそれぞれの名前と一緒)。本多&神戸の二人がごく一瞬の出演時間ながら笑いを誘います。本多氏は髪に白いものを混じらせて、イヤミな課長をコミカルに演じてます。ちなみにこの池島組、物語のエンドロールで再度登場。本多氏、画面に登場しない神戸顕一を「カンベ!!」と怒鳴りつけ、画面に滑り込んできた彼の頭を思い切りはたく(笑)。ここでも大いに笑いが漏れてました・・・。

上映後は、監督・脚本家・出演者のティーチ・インが行われ、池島監督はここでやはりエンターティナーぶりを発揮。射精するシーンをいかに「SFX」を使って撮影したかとか(笑)、主演俳優を見出したときのエピソードとか、観客が聞いていて本当に楽しい話題満載。また五代暁子が、2話目でシングルマザーを少々悪いように描いたことについて、「自分もシングルマザーなので大変苦しかったが、これはゲイムービーということが前提なので、あえてこのように描いた」と、語っていたところが、私には大変印象的でした。 インタビューが押してしまったので(ピンク大賞の時と一緒だ・・・笑)観客からの質問は1つだけだったのだけど、この質問が成人映画というものを知らない人からなされたもので、「大人向きの映画ならば、なんで絡みばかりで心情の部分をもっと突き詰めて描かないのか」というような内容。私はアララ・・・と思ってしまったのだけど(進行の人もちょっと焦ったんじゃないかなぁ)、池島監督は丁寧に、成人映画がどういうものであるかを説明、そのうえで、「むろん絡みのみではなく、それ以外も描くことは常に意識している」というようなこと(聞き惚れていてうろ覚え・・)を述べてらっしゃった。会場内拍手。私ももちろん拍手したのでした。

その後、ロビーにいた池島監督を捕まえてパンフレットにサインを頂いてしまった私。「牝猫 くびれ腰」が良かったです、と申し上げるとすごく嬉しそうに応じてくださいました。ビバ池島ゆたか!←ミーハー (2003.7.19.)


-BACK-

ノーパン秘書 悶絶社長室

2003年、制作:セメントマッチ、配給:新東宝映画
監督:池島ゆたか、脚本:森角威之
出演:まいまちこ、酒井あずさ、柏木舞、本多菊次朗、松田信行、松木良方

ヒロインめぐみ(まいまちこ)は社長秘書。鞄の中に編みタイツコレクションを持っている変てこな社長(本多菊次朗)の愛人でもあり、社長室でセックスしてはお金をもらっている。会社には、一度だけ酔ったはずみで寝て以来、彼女のことを好きだという弘司(松田信行)もおり、めぐみは少々心動かされているものの、うっとおしくもあり適当にあしらっている。
ある日、社長は元秘書の妻(酒井あずさ)から、どうしても話したいことがあるから会社に来る、と言われ、自分とめぐみとの関係がばれたのではないかと慌てる。しかもその日、いきなり「社長の娘」と称する若い娘(柏木舞)が現れたため、めぐみと(たまたま巻き込まれた)弘司の三人で、どうにか妻・社長の娘・めぐみが顔をあわせないようにと画策する。

私はいつも自分で頭の中を整理するためにストーリーを書き出しているのだけども、この映画の面白さは活字にするとうまく表現できない。恐妻家の社長と浮気相手の秘書の元に、社長の妻とか自称「社長の娘」とか、秘書に恋する男とかが次々に現れて色んな問題を引き起こす。登場人物同士がすれ違ったり、勘違いのもとになる小道具として手紙が使われたり、大騒ぎしながら最後はしっかりハッピーエンドになったり、と、古きよきハリウッド映画のスクリューボール・コメディを彷彿とさせる映画だった。肝心の小道具がそれほど効果を持っていないことと、話が途中から薄々わかってくるところにさえ目をつぶれば、会社の中をあの手この手を使いながら追いかけっこするシーンなど コメディの王道とも言えそうな展開だし、とても楽しめた。むろん池島ゆたか監督なので、絡みは露骨(で、正直に言うと私にとっては辟易寸前・笑)。なんとも盛りだくさんな映画でした。

社長秘書を演じたまいまちこがカワイイ。絡みのシーンとそれ以外の普通のシーンでの違いがとても面白い。冒頭、彼女(と本多氏)の絡みから始まった時には、黒いロングヘアに赤い編みタイツで大変派手な印象があったのですが、それ以外のシーンではなんというか、アグネス・チャンのような(たとえが古すぎ)健康的でちょっと古風な感じのかわいい人。映画そのものがコメディで、彼女自身も大変コミカルな役回りのために、表情もクルクル変わって愛嬌たっぷり。
一方で元社長秘書で、社長室に来ると「思い出すわーあの頃を」とか言いながらイキナリやらしく夫を誘いはじめる社長夫人・酒井あずさも派手目美人でとても印象深かった。物語のクライマックスで、「待って!!」と言いながら全裸で登場するシーンはとても笑える。
そしてチョビ髭姿で登場する本多菊次朗@エロ社長。嫁が会社に乗り込んで来るというんで、「落ち着こう!」「ええ落ち着きましょう!」「落ち着くためには、そうだ、セックスだ!」「社長〜!それは現実逃避です!」(そしてこの後、時間をかけすぎて「しまった、落ち着きすぎた」というセリフを吐く)本多氏ですのでエロ社長といっても脂ぎっておらず少年的稚気に溢れていて、その雰囲気がこの映画にピッタリ。観客に向かってセリフを言うシーンなんかもあるし、笑いのパートの8割くらいこの人が担っているんじゃなかろーか。サトウトシキ作品ではまず見られなかったオーバーアクティングが、(絡みのシーンでのいやらしさも含めて・笑)もー楽しくって楽しくって。ホンダマニア必見。

物語に絡むようであまり絡まない、しかしコミカルなパートではあった掃除のおじさんが松木良方。実はこの人、本多氏と同じ劇団AUNのご所属。2003年5月公演の「マクベス」では、『黒の舟歌』(男と女の間にはー暗くて深い川があるー♪)を歌って渋いノドを披露してました。(2003.5.24.)


-BACK-

ノーパン秘書2 悶絶大股開き

2003年、製作:セメントマッチ、配給:新東宝映画
監督:池島ゆたか、脚本:五代暁子
出演:西園貴更、酒井あずさ、本多菊次朗、望月梨央、柏木舞、樹かず

社長室でノーパン&編みタイツの秘書(柏木舞)を抱いていた社長(池島ゆたか)は、事が終わった時にペニスから(…)赤玉が飛び出し、どこからともなく「お客さーん、打ち止めでーす」という声が聞こえる。その日からセックスができなくなった彼は失意のうちに死去。その後、彼の一人息子(本多菊次朗)が新しい社長となった。親父に負けずとも劣らずセックス好き、女好きな彼なのだが、会社の経理部長でもある妻(酒井あずさ)の間にはどうしても子供ができない。やることはやりすぎるくらいやってるのになんでだろう?そんな時、いつか死ぬ間際の親父に聞いた言葉を思い出して不安になる。「人には一生でセックスできる回数が決まっている。それに到達してしまうと『打ち止め』になるのだ!」もしかしたら自分もそろそろ打ち止めかもしれない。でもそのまえにどうにかして子供を作りたい。ただ妻だけじゃやだしもっと楽しみたいんだけど。じゃあ、「打ち止め」にならない方法はないものか??

良い意味でも悪い意味でもでバカバカしい映画である。映画の前半は比較的物語が存在しているのだが、後半から終盤に到っては物語も存在していない(笑)。で、後半に何があるかというと、ひたすら絡み。絡みの連続。前の「悶絶社長室」が大変楽しかったので、今回のも期待していたんだけど、残念ながら私は前の作品の方が好きだったなぁ。物語がもう少しきっちり出来てたもん。
かといって面白くなかったわけではなく、笑えるシーンもたくさんある。冒頭の池島監督のシーンは(まあ見た機会が試写だったせいもあると思いますが)爆笑できたし、他にもちょっとした楽屋落ちのような笑いの部分もある。それになにより、本多氏を見てれば飽きません!オーバーアクティングは前作同様ですが、表情の豊かさはもしかしたら前作以上。今回はそれに加えて「お父様〜〜っ!!」という決めゼリフ(しかも顔面アップ)、最後にはおまけに老けメイク(←可愛らしくもお似合い・笑)まであります。終盤の絡みの部分ではほぼ出ずっぱり(♪)。ただ、正直にファンとしては、絡みのシーンが多いのは嬉しいような、しかしながら同時に、それ以外の演技のシーンももっと長く見たかったような、フクザツな思いでありました。

今回の社長秘書は西園貴更。このひとAV女優なのかしら。スレンダーなボディで舌っ足らずな声が可愛いし愛嬌ある人なんですが、「秘書」という役にはちょっと無理があったんじゃないかなぁ。派手だし少々お品に欠ける(あと演技の方がもう一歩!)。二作続いて社長夫人の酒井あずさは今回も絶妙のコメディエンヌぶり。長椅子の上で夫に向かってぐるんと脚を組んで(開いて?)みせるシーンなど「来た来た!」という感じで(私は)大受けしました。ファンになっちゃったかも。

あ、それから映画で登場するバイアグラというのは精力剤ではなく、勃起不全を改善するための「医薬品」のはずなんですけど。細かいこと言ってもしゃあないですが、バイアグラ信仰はまだ巷にまかり通っているのかしら。などと苦笑してしまった映画でもありましたとさ。

(2003.6.19 東映ラボテックにて鑑賞)


-BACK-

牝猫 くびれ腰

2003年、製作:セメントマッチ、配給:オーピー映画
監督:池島ゆたか、脚本:五代暁子
出演:本多菊次郎、望月梨央、美奈、紅屋トミ子、樹かず、色華昇子、吹雪桜子、神戸顕一

主人公(本多菊次郎)は大会社で部長職に就くエリートサラリーマン。部下(神戸顕一)からは慕われ、家に帰れば美しい妻(望月梨央)が三つ指突いて出迎え、出来の良い息子(樹かず)にはお似合いのフィアンセ(美奈)がおり、満ち足りて何不自由なく暮らしていた。或る夜、彼は窓から差し込む白い光に誘われて家の外に出てみる。そこには謎めいた少女(紅屋トミ子)が立ち、微笑みながら彼を手招きしていた。その翌日、仕事中の彼は再びその少女に出会い、自分は宇宙人だと囁く彼女に誘われるまま夢か現かのうちに関係を持った。その時以降、彼の日常が少しずつ静かに壊れ始める。

この映画、寺山修司だった。と、いっても、白状すると私は寺山修司をあまり詳しく知らないので、寺山修司っぽい映画だったというニセモノな感想(恥)が正直なところ。レトロなナース姿で眼帯&松葉杖で微笑むおかっぱの女の子とか、白塗りの女バーテンダーとか、超絶的に煌びやかな宇宙船…というか妄想の中の妄想の世界なんだけど…ドラァグ・クイーン的メイドとか、風に散らばる白い紙とか。決して嫌いではない。むしろ好きかも。(ただし「宇宙人」という言葉はいかがなものか。あまりに安っぽくないだろうか。)

完全にネタバレになるけども、この映画は、一人の男が逃避していた妄想の世界が、彼自身の描いた(かもしれないし偶然生まれてしまっただけかもしれない)もう一つの妄想によって壊れてゆくという語である。映画の中盤以降、物語がひっくり返されて、ゴミに埋もれ、点けっぱなしのテレビから流れる映像と壁に貼ったグラビアの女たちに囲まれて生きる男の有様が描かれたとき、或る程度途中で筋が読めていたとはいえ、私はちょっと身震いしてしまったのだった。(そもそも私はこの手の話が大好きだったりする)
物語の終盤、妄想の世界で生きたいと願いつつ叶わない男は、同時に、もう一つの妄想で生みだした少女に誘われて彼岸の海へと踏み出してゆく。しかしこの物語で一番残酷な一瞬はその後に訪れる。映画の最後のシーンは、その海の前に子供のように裸で膝を抱きうずくまる男の姿。彼は妄想の中で生きることも許されなければ死へと旅立つこともできない。のたうちながら現実の中で生きること、それが彼に与えられた結末である。

物語が急展開してからのテンポが悪い気はしたけども、総じて私の好きな世界。文句をつけたくなるところは女優陣の演技でしょうか。まあ仕方ないと思うんだけど〜。妄想世界の人物という設定でうまいこと演技の稚拙さを言い訳できているような気はするのだけど、やはり、それにしてもどーにかならんかのう?と思ってしまったのだった。望月梨央嬢はこの作品でデビューだったそうですが、「不倫妻の淫らな午後」ですごく良かったので違いにビックリ。きっと急成長したのでしょう(←えらそう)。それに電波な少女を演じた紅屋トミ子は演技ではなく寺山ワールド的ビジュアルで選ばれたのでは…と思わずにいられなかった。この役は重要だったと思うんだけど、そこんとこどうでしょうアレは。 そんなわけで周りの女優陣が今ひとつ心許ないこともあって、この映画は主演の本多菊次郎(朗ではない。微妙に違うのはナゼ?笑)氏ひとりに背負われてるような気がしたのだった(いつもの曇り目かもしれませんが)。池島作品だから濡れ場は濃厚なのが揃っており(笑)、それにもちろん本多氏も絡んでいるのですが、それよりも、ラスト10分で狂騒のうちに現実へと辿り着く主人公の哀しさと滑稽さ。ファンとしては、新たな引き出しの中身を幾つも見せてもらえたのが心より楽しかった!

(2003.7.6.上野オークラにて鑑賞。この内容は上野に集う方々にはイタかったのでは…)


-BACK-