DVDタイトル「Don't let it bring you down」
1993年、製作:国映、配給:新東宝映画
監督・脚本:佐野和宏、助監督:梶野考、撮影:斎藤幸一
出演:佐野和宏、岸加奈子、梶野考、高木杏子、上田耕造、セニョール・ヨネ、津崎公平、今泉浩一、佐野竜馬、佐野健介
寒々とした風の吹く山の中、一組の男女が黒服の男二人に追われている。主人公(佐野和宏)は自衛官だったが、機密を盗んで逃亡、妻(岸加奈子)と共に彼女の老いた父親と妹(高木杏子)の住む山村に逃れるつもりだった。その途中、映写機を携えて村から村へ自主制作映画の移動上映会を行っている映画青年(梶野考)に出会う。彼の車に乗って共に移動しながら心を通わせた二人は青年に助けを求め、青年も彼らに協力して妻の実家に送り届けることを約束する。
DVDタイトルでもあり、冒頭、映画青年が呟きながら走ってくるセリフでもある「Don't let it bring you down」はニール・ヤングの曲のタイトル。主人公の義妹がウォークマンで聞いており「歌詞が気に入っている」と言う曲。映画では「へこたれるな」と訳される。
実は途中まであまり乗れなかった。自主制作映画の雰囲気アリアリのチープさと、その自らのチープさを理解していないような(笑)くそマジメな展開に、なんか稚拙さを感じてしまったのだ。それに映画青年と自衛隊の機密を握って逃亡する男女、この組み合わせが何でだろう?とか思ってしまったし。
しかし、終盤になって少しずつわかってくる。なんと(良い意味で)青く、瑞々しい映画か。佐野和宏がこの映画で描いたのは得体の知れない「体制」によって潰されてゆく瑞々しい感性であり、それに抗おうとする感性たちへの、まさに「Don't let it bring you down」というメッセージなのだった。イマドキここまでストレートにやれるか。物語のラスト近く、映画青年が非業の死を遂げた主人公夫婦の亡骸に彼らの愛した美しい空の映像を投影するシーン、不覚にも私は涙ぐんでしまった。
DVDには佐野和宏のインタビューが入っている。鬼のように煙草を吸いながらのトークで(酒も入ってないのに)話題があっちやこっちや飛びまくるが、ものすごく面白い。最近の10代のグラビアアイドルのほうがよっぽど猥褻だしその利用の仕方が気に入らない、と吠えたり、当時の奥さんの話とか子供の話とか、みのもんたの思いっきりテレビの話とか(笑)一体どういうトークなんだ本当に。しかし、彼が語る言葉はどれも大変マジメで誠実だった。(2003.7.15)