ゲイムービー
いわゆる「薔薇族映画」。


縄と男たち4 −契−

ビデオタイトル「KIZUNA(契) −縄と男たち4−」
1995年、製作・配給:ENKプロモーション
監督:剣崎譲、脚本:駒来慎
出演:渋谷和則、梁井紀夫、三好涼、小林弘

交通事故で下半身不随になった日本舞踊の師匠がいる。弟子は皆去っていったが、一人だけ、若い弟子が残って献身的に師匠に尽くす(当然のことながらシモにも尽くす)。昔は厳しかった師匠も今では彼に頼り切っている。しかし若い弟子は、師匠が今では自分を抱けなくなったために体を持て余し、もともと兄弟子だった男を時折部屋に引き込んで関係を持ち続けている。その関係を知った師匠は(下半身不随のはずなのにものすごく活き活きと)弟子を荒縄で縛りあげてお仕置きをする。「お許しを」とか言いながら感じてしまう弟子。師匠は徐々に、若いからだを満足させてやれない自分にやりきれなさを感じ、弟子は弟子で、心から師匠を慕いながらどうしても他の男を求めてしまう自分の体に悩む。二人が出した結論は。←もはや書く気なし

私はこのビデオをタイトルだけ見て適当に借りたのでした。パッケージの説明もよく見ずに借りたので、タイトルのイメージからしてヤクザ物かと思ったら、京都の日本舞踊のお師匠様とその弟子の物語だった。「お師匠さん(おししょはん、と発音すべし)、お許しを!」「ミキスケ!(←漢字分かりません)」いいですねぇ。京都と日本舞踊と縛り。(どこが)
これ「のんけ」と同じ剣崎護監督作品なのね。ふふーん。脚本家が違うので監督だけで決められないとは思うけど、台詞の古風さ(陳腐さともいう)やひねりの足りない物語がよく似ています。今回、設定は頑張ってると思うし、最後はまるで「春琴抄」になってしまう展開(この文学作品はゲイピープルに受けてるのだろうか)は、みえみえではあるものの結構面白かったけど。ただし絡みはふんだんにあるし、縛りのシーンもあるしで、成人映画としてのエンターテイメント性は抜群です(一番盛り上がる部分での複数人数での絡みが全体的にぼかしてあったのは何故かしら。男同士での絡みって逆にあからさまに見えすぎるからですか)ま、ツッコミを入れつつ見るには大変楽しい映画でした。
ところでこれ「縄と男たち4」ってことは3まで勿論あるのでしょうな。レンタルにはなかったんですが、シリーズ中では一応この「4」が名作ってことになってんのかしら。

ゲイ向けの作品が成人映画全体の何割あるのかよくわかりませんが、今まで数作見ただけだと私の中では質的にはやや苦戦中。すげえシリアス(流血沙汰が多い佐藤寿保作品)か、ツッコミなくしては見られない(「男舞 ラブレッスン」←これは薔薇族映画館で見た・・・貴重な思い出だ・・・)かどっちかって印象が強いんですが。数が少なく、ビデオ化もおそらく少ないでしょうから仕方ないのかな。でもまだまだ見ます。(笑)(2003.5.1.)


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のんけ

1997年、製作:ENKプロモーション、配給:ENKプロモーション
監督:剣崎譲、脚本:岡輝男
出演 :佐賀照彦、小澤義明、大木裕之、岬カオル

主人公・雄大は建設会社に勤める会社員で、ゲイ。副業としてゲイポルノに出演したりしてそれなりに過ごしてきたが、30歳になって今の自分のままでいいのかと焦りを感じている。母親の言うとおり見合いでもするか、と決意したその夜、彼女にフラれて酔いつぶれた若い美大生・健一郎に出会う。つい親切心から介抱した雄大は、彼に恋をしてしまう。しかし健一郎はノンケ。雄大は自分がゲイであることを隠し、 美術という趣味だけで友人として付き合うが、ある日家に遊びに来た健一郎に自分が出ていたビデオを見られてしまう。

「ラブジュース」につづいて三十路の苦悩物語(男性編)である。ちょっと違うか。
とてもわかりやすい、セクシャリティが障害となる片想い物語なのだが、残り10分くらいでイキナリ怒涛のように展開し(笑)ボー然とさせられた。これでこんなオチかい!みたいな。笑っていいのか感動していいのかどうなのか。こんな展開にせんでも、シンプルに終わらせて良かったと思うんだけど・・・。とてもシンプルに、「セクシャリティを超えて成就した恋」とすれば、たとえどんなに俳優陣全員のセリフ回しが棒読みでも、セリフが陳腐でも、まあ許せたんだろうけどな・・・。「オレのチ×コが目的だったんだろ!」(爆)さらに「アタシが言うのもなんだけど、愛ってねぇ、チ×コやオ×コじゃないと思うよ・・。(中略)あんたあんなに愛されて幸せだよ」(女のセリフ)。女として書き出すべきでない(笑)と思うのだがあまりにアホらしく、かつ、この作品のレベルをよく表しているセリフだと思われるので敢えて書いてみた。パッケージから素朴な感動を求めていた私。はい間違ってました。(2003.3.29.)


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思いはあなただけ 〜I thought about you

1997年、製作=IIZUMI Production、配給=ENKプロモーション
監督・脚本:北沢幸雄
出演:川瀬陽太、下川オサム、佐々木恭輔、真央はじめ、熊谷孝文、神戸顕一、葉月螢

主人公は元刑事の私立探偵。とある作家から、息子が誘拐された上にレイプされ、そのビデオのマスターテープをネタに恐喝されていると相談を受け、捜査を始める。探偵に思いを寄せている助手の青年は自分の体を張って彼のために尽くすが、ただならぬ危険に巻き込まれてしまう。探偵は彼のために敵地へ乗り込んで行くが・・・っつー話です。中心になるのは「ノンケの男に惚れてしまい、報われないとわかっていながら尽くすゲイの青年の純愛ストーリー」であり、彼もまた主人公といえるかもしれません。なにぶん時間が短いので未消化だしひねりに乏しく、筋はすぐに読めるんだけど、堂々たる純愛ものとして完結しており、ラストシーンは、ちょっと哀しいまでにロマンティックで素敵です。ただ、全編にレイプビデオのシーンが流れるので、女であれ男であれ、レイプというのは私には元々不愉快な題材であり辟易させられました。

主人公で敵味方なくモテモテな私立探偵を演じているのは川瀬陽太。実は本多氏に出会うよりさらに前、私が初めて見たピンク映画(「ぐしょ濡れ美容師 すけべな下半身」)に出演していた役者で大変印象深いのです。決して万人向けの美男ではないけどとても雰囲気のある人で、あの映画ではちょっとすっとぼけた感じでウクレレなんぞ弾いてたけど、この映画では男気あふれるがゆえモテまくるクールな(でも熱い)役回り。残念ながら絡みはありませんが、自分に思いを打ち明けた助手の青年を「こいつう」とハグするシーンなどえらく罪作り(←謎)だし、ラストでは泣かせる行動のオンパレードなので、おなかいっぱい川瀬陽太を堪能できました(笑)。そして助手を演じた下川オサムという人、この人がとにかくカワイイ(顔もですがお尻も)。絡みのシーンなどとってもエロくてよかったです。かわいい男の子(短髪)好きの人おすすめします(笑)。

川瀬陽太の亡き妻の役で葉月螢が出演。死体の役。友情出演だったそうですがもったいない・・・(2002.12.7.)


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リーマン・ブルース

1999年、製作:IIZUMI PRODUCTION、配給:ENKプロモーション
製作・監督・脚本:北沢幸雄
出演: 杉本まこと、池田一視、佐々木基子、樹かず、神戸顕一

主人公(杉本まこと)は電気機器メーカーの課長である。独身ということもあって部長からは専務の娘と見合いするように強いられて困惑している。実は彼には同棲している若い彼氏(風俗店のスカウトでそれ以前の経歴は主人公にもわからない)がいるのだが、まさかそんなことを明らかにするわけにはいかない。ゲイであることを隠している主人公に対して恋人は批判的だが、それ以外は比較的うまくいっている。
とりあえず偽装でもいいから「婚約者」を確保しなくてはならない、と思った主人公はダイヤルQ2で適当な女(佐々木基子)を拾い付き合い始める。しかしいざとなってやはり彼女を抱くことができず、正直に自分がゲイであることを打ち明ける。ところが相手の女も実はレズビアンであり、お互いに世間体を保つための相手を捜していたとわかって意気投合。全て巧くいくかと思った矢先に、恋人が自宅の金を持ち出してそのまま行方をくらましてしまう。

ものすごくドラマチックに盛り上がるわけではないけれど、爽やかなような切ないような余韻の残るゲイムービー。
詰め込みすぎて話がバラけてしまったような印象はあるのよね。セクシュアリティを隠して生きようとする主人公の日常を描きたかったのではないかと思うけども、劇的な要素として彼の恋人の出奔を持ち込んでしまったために、この1時間の映画がちょうどまっぷたつに引き裂かれたような気がする。この恋人というのは金銭的にも精神的にも主人公に依存していた人物として描かれており、彼は出ていってすぐ舞い戻ってきて「おまえじゃないとダメだ」とほざくような、まぁそんな感じであり、時には可愛い場面もあるのだが、私はどーもなんというかあまり好意的に見られなかったのだ(苦笑)。映画の後半は、この自分勝手な(でもきっと不幸な生い立ちなんだろうね〜みたいな)彼氏との出会い云々を主人公が回想するシーンが延々と続いており、その時点では、「あれ、これなんの映画だっけ?」(笑)と私は一瞬思っちまったのだった。主人公の生き方がメインじゃあなかったの?(まあちょっとはそれも描かれるのだけども)
そんなわけで、話のどこに重心を置いているのかちょっと判断がつきかねる・・・というかそれぞれに食い足りないような感じで、そのせいか、全体的に薄味(そういえば同じ北沢監督の「思いはあなただけ」も、今考えればそういう印象が残っている)。ただこの薄味なところが、かえって、ラストシーンのサラリとした気持ちよさや、幸せが遠くに待っているようなほのかなハッピーエンディングにつながっているようにも思えたのだった。 ま、なんだかんだ書きましたが、嫌いな映画ではありません。とても真面目で気持ちのいい映画でした。一般映画でも通用するんじゃないかしらん。(2003.5.19.)


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優しすぎる獣 思いはあなただけ2

2002年、製作:IIZUMI PRODUCTION、配給:ENKプロモーション
製作・監督・脚本:北沢幸雄、助監督:城定秀夫
出演:川瀬陽太、なかみつせいじ、徳原晋一、飛田敦史、井田延、池島ゆたか、兵藤未来洋、荒木太郎

妄想力たくましい若い女子をもターゲットにしてるらしい気配の「ボーイズラブ・レーベル」発のDVDにて鑑賞。何故かモテまくるノンケの私立探偵・松沢悟郎(川瀬陽太)を主人公にした探偵物語の第二弾。これ楽しみにしてたんだよなー実は(笑)。

前作で助手を失ってから自堕落な生活を続け、馴染みのゲイバーのママ(なかみつせいじ)にいつも叱られている探偵・松沢悟郎(川瀬陽太)は、ある人妻に頼まれて夫の浮気調査を依頼された。彼は夫(池島ゆたか)と若い男(兵藤未来洋)の情事の現場を押さえ、依頼主に報告するものの、数日後、その若い男が死体で発見される。依頼主が自分の弟であるヤクザ、大町(徳原晋一)にやらせたことなのだが、悟郎はむろんすぐに、その事件には彼に調査を依頼した女が関わっていると気づく。一方、大町は自分の姉が依頼した探偵が松沢悟郎であることを知り驚く。二人とも昔は刑事であり、相棒同士であり、そしてその当時、大町は悟郎に激しく思いを寄せていたからだった…。今は病に犯され余命わずかな大町は、悟郎の手によって自分が死ぬことを望む。

前作はレイプビデオの流出で…とかいう話で何となくミステリー自体に広がりはあったものの(といってもすぐにそれが男同士の愛憎に集約されるのだけど)、今回はそこにはあまり力が入っていない。そのぶんだけ、主人公と、彼に執着する元同僚との関係が、過去と現在と両方とも丁寧に描かれていた気がした。(主人公に絡んでくるゲイバーのママも大変切ない立場でホロリと来ます)
優しすぎて正面切って拒絶しなかった主人公と、その優しさを恨みに思いながら(甘えてるんだが)どんどん身を落としていった一人の男。その二人が浜辺で殴り合い掴み合いながらいつしか抱擁し…というラスト近くの件は、お定まりかもしれないけれどメロドラマティックで(私は)大変盛り上がりました。このへんとか確かにボーイズラブテイストかも(笑)。
ただし、「お定まりの…」と言ってしまったように、何か後々まで心に残る、心揺さぶる大きいインパクトがあったかといえば、そういう映画ではなかった。その点前作の「思いはあなただけ」とよく似ている。まあ、それでも綺麗な映画だから十分だと思うけど。

今回もモテモテの探偵が川瀬陽太。しかし前作同様絡みはナシ。いやあるか。いやないか…(微妙)…みたいなシーンはあるけど。暴力を受けるシーンなどはどうかと思ったけど、浜辺のシーンでの立ち姿が大変雰囲気があって良いです。タイトルの「優しすぎる獣」って、この人のことなんだよなー。んふふー。(しかしこんなにかっこよくモテる役を彼は他にやってただろうか。笑)相手役の徳原晋一は、端正だけどちょっと凶悪な面構えでなかなかカッコいい。この二人、雰囲気がとても対照的でなかなかステキなキャスティングだなと思いました。
しかしなにより、なかみつせいじ!この人の優しさ、切なさ、情けなさ…。癒されました。(2004.4.8.)


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鎖縛 −SABAKU−

2000年、製作・配給:ENKプロモーション
監督:カジノ、脚本:南木顕生、カジノ
出演:佐野和宏、立澤和博、利根川尊俊、佐藤幹雄、伊藤清美

中年の男(佐野和宏)が、二人の若者(立澤和博、利根川尊俊)を拉致して、廃屋同然の工場に監禁する。彼は二人をそれぞれ鎖で縛り上げたうえに拷問を与えながら、彼らの耳元で囁く。「私の息子はどうして死んだ?」。彼の息子(佐藤幹雄)は二人の友人であったが、彼らによって凄惨なリンチを受けて死亡していた。男は息子の死の真相を知るために二人を連れだしたのだった。果てしなく続く苦痛の中で、若者たちは少しずつ、彼ら三人の間にあった愛憎を告白しはじめる。それは父親にとって受け入れられない事実だった。

ゲイムービーを扱っているブライスの『ボーイズラブ』レーベルから出ている作品。このレーベルに共通の、ちょっときれいなDVDジャケにだまされてレンタルしたわけではありません。ひさびさに薔薇族映画でも観てみよっかな、てな軽いノリでした。しかしタイトルクレジットに「企画・佐藤寿保」と出た時、これはマズイぜという気がした。企画って何するのかよく知らんけど、これはきっと痛い映画に違いない。「縄と男たち」みたいにほのぼのした感じ(…)では絶対すまされんだろう。ヤバイ。
そしてその危惧は概ね当たってました。夢見がちな女子が間違って観ちゃったら言葉を失うこと間違いなし。ううむ。私でさえ絶句した。これに萌える興奮できる人はかなりマニアックなお好みの方ではなかろうか。いやまあ確かに、鎖でやらしく縛ったり赤いろうそく垂らしたりするとこもありますけど、ガスバーナーで腕を黒こげに焼いて、爪剥がしたりするんですぜ?うわー。久しぶりに観ていて気分が悪くなり、途中で早送りしてしまいました。

凄惨な流血シーンばかりが続く作品ですが、面白い映画ではあるのです。時折差し挟まれる色褪せた8ミリ映像とそれに被さる男の妻(伊藤清美)の言葉とで、主人公と息子の相容れなかった関係が浮き上がってくる巧さ。徐々に徐々に、若者たちの愛憎が(時々捻れながら)明らかになっていく面白さ、そして、息子がホモセクシュアルであったはずがない、と、事実に抗い続ける主人公の惨めさ。(最終的に主人公と幼かった息子の間での相姦まで明らかにされるのですが、私はそこまでやんなくても良いんじゃないかとは思いました)映画の始まりも大変緊張感があって引き込まれました。が。それを差し引いたってものすごい暴力描写にはついてゆけずじまい。あと佐藤幹雄君のアピアランスが少なくてとっても残念。(結局そこかよ)(2005.2.21.)


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黒と黒 OUT OF THIS WORLD

1998年、製作・配給:ENKプロモーション
監督:新里猛作、脚本:中野太、音楽:バンヘッズ
出演:元輝ENOMOTO、タケ、直弼、YOUNG LION、小林隆彦、神戸顕一

主人公のヒロミは高校生。遊ぶ金ほしさに新宿2丁目の店でバイトしていたものの、トラブルを起こした仲間と一緒に店をやめてしまう。上野駅近くの路上で金を持っていそうな中年の男に声をかけて客をとりはじめるが、ある時、仲間と飲みに行ったバーでマジシャン見習いの年上の男キリオに出会う。彼の金目当てにその夜共に過ごしたところが、キリオは男と寝たのは初めてだと言い、これからマジックの修業のためにアメリカに行くから、その前に経験しておきたかったのだと告白してくる。しかも彼はヒロミに、「アメリカに行くまでの1週間、恋人として振る舞ってくれないか」と頼む。しぶしぶながらも、金がもらえるならば良いかと了承するヒロミ。しかし彼は徐々に、日がたつにつれ、不器用ながら誠実に接してくれるキリオに心を動かされてゆく。

期限付きで割り切った上辺だけの「恋人」として振る舞ううちに本当に恋に落ちしてしまう、という設定は、最近では結構よく聞くような気がする。なので決して目新しいシチュエーションではないし、途中から結末がある程度想像できる。でも、いい映画だった。私は好き。
この映画、前半で主人公のヒロミ(とその仲間たち)がいかに無為に過ごしているか(そしてどうしてそうなったか、の要因の一端)を丁寧に描いている。運命の男キリオと出会うのは、物語の半ば近くになってから。キリオの存在は確かに物語の中で重要だけども、たぶんこの作品のテーマになっているのは二人の恋物語のみではない。ヒロミという刹那的に毎日を過ごしているだけの男の子が、夢を持って生きようとする年上の男に出会って、少しずつ自分の生き方も考え直してゆく…という成長物語でもあった。こう書いちゃうと、なんだか陳腐になってしまうのが残念だけど。

ヒロミという主人公の造型は、セリフといい、立ち居振る舞いといい、とても繊細に作りこんであって好感がもてる。刹那的で面倒くさがり屋で自己中心的で金には打算的で小狡い(まだまだ書けるぞ)…と、若者の悪徳を全部身につけているヒロミ。でもその反面、誰かとつながっていないと心配で不安でしょうがないという気持ちもあって、本当はそんなに信頼してもいない仲間たちとつるんでいる(彼がキリオと一週間の契約を結んだのは、彼らと同じタトゥーを腕に彫るための金が欲しかったからなのだ)。そんなヒロミだから、自分では冷めた付き合いのつもりだったのに、誠実に向き合ってくれたキリオをあっという間に好きになってしまうのだ。普通の映画だったら幼稚だなあとか思ってしまうところなんだけど、彼が発する言葉や何もないシーンでふと見せる余白の表情がとてもよくて、とても愛らしく感じてしまった。ゲイであることで傷ついたり辛い思いもしているかもしれないヒロミがちらりちらりとその傷つきやすい心を垣間見せる部分(突然吹き抜けてゆく冷たい風に思わず体をすくめる…という印象的なシーンが何度か繰り返される)なんて…私ってこういう子が好みだったんだろうか。とマジメに考えること15秒。いやむしろお母さんな気持ち。
人を好きになるのは面倒くさい、しかも自分たちは普通に幸せに振舞えない「黒と黒」(トランプのカードの組み合わせで、作品中では男同士を暗示)だとすねていた彼が、去って行くキリオを追いかけ、追いついて京成上野駅で人目もはばからず抱き合い、キスをするシーン、そしてホームから涙をこらえながら彼を送り出すシーン(ビデオのジャケがこの写真です)。お母さんは思わず目頭が熱く…。よよよ。

役者陣の佇まいは皆いい感じ。音楽の使われ方も小洒落た恋愛映画のようで雰囲気があります。恋愛映画としても、青春映画としても瑞々しくて素敵です。ボーイズラブ好きな女の子にも向くのではないかしら。(2005.4.12.)


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