橋口卓明監督作品


人妻家政婦 情事のあえぎ

2000年、製作・配給:新東宝映画
監督:橋口卓明、脚本:福俵満
出演:伊藤猛、佐々木麻由子、小林節彦、佐々木基子、工藤翔子、坂田雅彦

主人公は浮気調査を専門にしている私立探偵(伊藤猛)である。ある日、妻が家政婦として働いている先で浮気をしているのではないかと疑う男(小林節彦)からの依頼で、主人公はその妻(佐々木麻由子)が働いている家を調べる。果たして彼はその家の主人(坂田雅彦)との情事の現場を押さえることになった。一件落着と思ったものの、その後主人公は全てが依頼人である夫に仕組まれたことだと気が付く。借金を抱えた夫は金持ちの愛人(佐々木基子)と結婚するため、妻を離婚に追い込むために全てを画策していたのだった。彼女に同情した主人公は真実を告げるが、その後、その夫が殴殺されるという事件が起こる。

監督がどうだとか脚本がどうだとか言ってみても、結局は私はとってもミーハーな役者第一主義者なので、好きな俳優が出ている映画の採点はとても甘くなる。この映画もそうだ。伊藤猛、佐々木麻由子、佐々木基子。とくに佐々木麻由子と佐々木基子という、ピンク映画ながら演技力・存在感共に充実していて「女優」のオーラをビシバシと感じる二人が出ていることもあって、多少映画がつまらなくてもそこんとこには目をつぶろうと思えてしまう。それにしても、なあんてゴージャスなんでしょう、佐々木麻由子!しかも上品で哀しげ。すでに引退した(池島ゆたか監督の「OL性告白 燃えつきた情事」が最終作だったとか?)と聞いているのだけど、こんな女優もいる(いた)のか!と思うとやっぱりピンク映画を見始めてよかったなぁと思ったりするのだった。

と、いうわけで映画自体の感想になると、はっきりいってちょっとつまんなかった。面白くなりそうなのに、なっていない。主人公は園部亜門というシリーズ物向きな名前(笑)の私立探偵で、本来は「腕はそこそこだが、ちょっと惚れっぽくてお人好しで、つい余計なことに首を突っ込んでしまうトホホな私立探偵」てな人物だろうと思うのだけども、実際はそんなふうに描けていない。制限時間60分の中ではストーリーを作るだけで精一杯だったのかな。しかもそのストーリーも、真面目に手堅く出来過ぎていて、説明的なモノローグが多いばっかりで盛り上がりに欠けているのだった(そういや私、同じ橋口監督の「痴漢の影 奪われた人妻」でも同じことを思ったな)。それに私の好きな伊藤猛というキャスティングも本来ならピッタリだったんじゃないかと思うんだけど、なんだか真面目な部分と軽みの部分のバランスが良くなくてどうもしっくりこなかった。役者のせいではなく、軽みの部分をおざなりにしか扱わなかった(この手の私立探偵物でせっっかく伊藤猛なら「軽み」は重要だったはず)演出のせいだとも思うんだけど。 (2003.7.1.)


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痴漢の影 奪われた人妻

2002年、制作・配給:新東宝映画
監督・脚本:橋口 卓明
出演:佐々木基子、本多菊次朗、稲葉凌一、佐々木ユメカ

ヒロイン(佐々木基子)は三年前、交通事故で恋人を亡くした。その後亡き恋人の親友と結婚したが、今でも事故のショックを引きずり続けている。夫(本多菊次朗)は結婚当初は献身的に妻を支えていたものの、最近では、亡き恋人ばかりを想い続けている(と見える)妻を持て余し、会社の同僚(佐々木ユメカ)と浮気している。
夫との仲が冷え切り孤独感に苛まれる主人公は、出会い系サイトで知り合ったKと名乗る男(稲葉凌一)とたった一度だけ関係を持つ。その男は死んだ恋人とよく似ており、彼女は「二人が出会ったのは、運命かもしれない」と冗談交じりに笑う。ところがその後、ヒロインは妊娠していることに気づく。子供が出来たことを喜んだ夫は同時に、「死んだ男への気兼ねがあるか」とも問い、それをきっかけに彼女は立ち直ろうと決心する。Kとの関係も一度きりで断ち切ろうとしたものの、それ以降男は執拗に彼女につきまとい始める。

とても丁寧に作られた印象のあるスリラーだった。冒頭、主人公がつけっぱなしのテレビから洩れる光に異様な反応を示すシーンはちょっと凝っていてオカルトちっくだし、青黒い色調の映像もとても雰囲気がある。なんといっても、地味な佐々木基子の存在感が宜しい。彼女につきまとう男を演じた稲葉凌一も、見るからに変じゃなく、むしろ静かで優しげなところがいい。脇にいる本多菊次朗&佐々木ユメカの二人がベッドで交わす会話も、とても静かで冷ややか。絡みのシーンも含めて、どこをとっても冷ややかで静かなムードの映画だった。
ま、その雰囲気自体は決して悪いとは思わない。だけど、何となく退屈だった。これは、心を病んだヒロインが見ている妄想なのか、それとも現実なのかわからない、というタッチでラストまで続くのだけども、この手のスリラー映画に必要な緊張感が欠けている気がした。たとえば主人公が追いつめられてゆくには、さまざまなエピソードが畳みかけるように彼女に襲いかかってこなくてはならないと思うんだけど、ムードが優先されたのかどうなのか、とにかくジワジワ追いつめられてゆく恐怖、というのが全く感じられないのだ。それに(ピンク映画の哀しさで)恐怖を盛り上げなければならないところで絡みに入ってしまうので、そこで物語の緊張感が失われてしまっているような気がした。最後まで見て、結局、どこにもクライマックスがなかったなぁ、という物足りなさが残る。(ラストの処理もどうかと思われる)

本多菊次朗&佐々木ユメカの二人の描かれ方は、ヒロイン夫婦の置かれた立場を(観客に分かり易く)説明するセリフが多すぎ。「ああ説明キャラ?」と思ってしまうのだ。これも時間制限のあるピンク映画には仕方ないことかなぁ・・・。
本多氏はやっぱりヒロインのご主人役。もう、何も言いますまい。(笑) (2003.6.5.)


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