サトウトシキ監督作品(2)


愛欲温泉 美肌のぬめり

ビデオタイトル「愛欲温泉 美人仲居お尻でサービス」
1999年、製作:国映=新東宝映画、配給:新東宝映画
監督:サトウトシキ、脚本・原案:小林政広、音楽:山田勲生
出演:葉月螢、飯島大介、佐々木ユメカ、川瀬陽太、本多菊雄、沢田夏子、野上正義、風間今日子

夏の終わり近く、山間の小さな温泉宿に一人の女(葉月螢)が住み込みの仲居としてやってきた。旅館の主人(本多菊雄)から好印象を持たれ、先輩仲居(佐々木ユメカ)とも馬が合い、よく働くのですぐに皆に馴染む。ある日休暇中の刑事(飯島大介)が愛人と共に宿を訪れた時、たまたま接客した主人公の顔をどこかで見たと思い出す。その場では何事もなく終わったものの1ヶ月後に刑事は一人でまた旅館に現れ、彼女の過去をちらつかせて脅し始める。

基本的にコメディタッチだった「団地妻」シリーズと、「迷い猫」「青空」のような犯罪者告白モノとの、ちょうど中間にあるような作品だという印象。周囲の人間同士のやりとりは「団地妻」のようにユーモラスだけども、過去を引きずる主人公の行動は「迷い猫」「青空」より遙かにもの悲しくやりきれなく、しかし同時に大変共感しやすく、効果的に使われる風に揺れる山の木々の描写や虫の声、温泉の水音などと相まって、古風にメロドラマチックにすら感じられるサスペンス映画になっている。なんたってテーマ曲は葉月螢がヘタクソにカラオケで熱唱する演歌(山田勲生のオリジナルだ。しかも2曲もある)。この歌詞が実は彼女の人生を語っており、映画の最後に再び温泉街を去ってゆかねばならなくなった葉月螢の後ろ姿にこの演歌がかぶさる時、音程の少し外れたか細い彼女の声が何とも哀しげで切ない余韻を残す。風格のあるメロドラマ調サスペンスを見終わったような気分になったのだった。
ただ私は、この映画での主人公が絡むセックス描写が嫌いなので、あまり好きにはなれない。葉月螢の絡みは3つあるんだけども、そのうち2つは刑事に強要されたと言って良いセックスだし、もう1つは回想として描かれる、有る人物によるレイプ(だと思う)。これはピンクだし、映画の筋としてまあ描かれるべくして描かれた性行為のパターンだとは思うけど、こーゆー女からみて最低な「心からの合意なし」の性行為が男性諸氏の性的満足を得る目的で描かれるというのは、わかっちゃいるけど決して愉快なことではないのだった。しかもその相手が飯島大介だというところが私の心証を悪くした。というか飯島大介だからイヤだったのかもしれない(笑)。過去をネタに逮捕するわけでもなく性行為を強要しつつ、「なにやってんだオレ」とぼやき続ける、面白いキャラクターではあるんだけど。

本多菊雄氏は旅館の若い主人。ちょっといい感じの新人が来てウキウキして、カラオケに連れていってやったり不器用に夜這いをかけたりする気のいいニイさん(笑)。「団地妻」キャラの延長上みたいな感じ。「仲良くしながら結局主人公を何も知らないままで終わる」というこの人物が可哀想でもあるし、同時に救いであるようにも思えた。彼がカラオケスナックで熱唱する葉月螢の歌を聴いているシーンがとても良いです。
主人公を理解する自分もワケありっぽい仲居が佐々木ユメカ。この人さっぱりした雰囲気なのに絡みはすごく可愛くエッチでいいですね。同じく、主人公の苦境を知り同情する旅館の居候(風呂炊き担当・司法浪人中・佐々木ユメカといい仲)が川瀬陽太。
つくづく、飯島大介以外は本当にどのキャラクターもナイスな人柄だった。(笑)


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団地妻 不倫でラブラブ

2000年、製作・配給:国映=新東宝映画
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:横浜ゆき、本多菊雄、林由美香、伊藤猛、さとう樹菜子、川瀬陽太

ある朝、夫1(本多菊雄)が起きてみると妻1(横浜ゆき)がいなかった。てんで事情がわからない。ちょうどその頃、隣室でもまた夫2(伊藤猛)が妻2(林由美香)がいないことに気がついてボー然としている。夫2は「お隣の奥さんとしばらく旅行します」という妻の置き手紙を見つけ、隣室の夫1を訪ねてみる。二人は相談の結果、妻がレズビアン関係にあるらしいと判断、じゃあ彼女たちがいない間、自分たちもまたお互いで楽しもうと合意する。云々。

要は「夫に不満をもった二人の妻がレズビアン関係になるものの、結婚に踏み切るかどうかで悩んでいる若いカップル(さとう樹菜子+川瀬陽太)と旅館で交流し、最後は夫を愛していることを実感してまた元に戻ってゆく」という話。しかし元に戻ったといっても、夫同士は「たまには男同士もいいですね」、妻同士は「私たち、体を温め合う関係でいましょうね」なーんて前向きでおおらかなんだけど(笑)。
 しかしとっぴな展開で笑える。妻たちが温泉へ逃避行していることを気づいた夫2(実は夫1にずっと好意を持っていたらしい)が、「妻だけ楽しんで僕らが楽しまないのはどうかと思うので」、「僕たちはホモだちになりませんか」「楽しいと思うなぁ、ホモだちごっこ」とまじめに(しかし恥じらいつつ)提案し、戸惑いながら(でも結構簡単に)夫1が承諾する場面なんて、一般映画ではなかなかこんな柔軟な話はお目にかかれますまい。そして「裸のつきあい」が終わり、二人が素っ裸でダイニングテーブルに向かい合わせに座ってる何故か絵的なシーン(テーブルの上では電気ポットが蒸気をあげている)に飛んだ時のおかしさ!楽しそうにエッチしたり温泉で泳いだりしている妻たちにくらべて、とことん所在なさげで気まずそうな二人の描写が笑えて仕方ない。

ひそかに隣の夫1に好意を持っていたものの、実物はつまらない男だと知って幻滅する夫2を演じるのが伊藤猛。いーなーこの人。背中を丸めた横顔みてるだけで微笑みがもれます。今ひとつ感情を表すのがうまくなくて、妻にも夫2にも愛想をつかされてしまう夫1=本多菊雄。しかし最後の最後でさわやかに大逆転してみせて、両方の好意を取り戻す。ラストシーン近くで、それまでほとんど自分の感情を表示しなかった彼が「たまにはこういう関係もいい」「また体を重ね合いましょう」と言った時、カメラがいきなりドラマチックにパンする(笑)。「キスしていいですか」「ここ、公衆の路上ですよ」「だからいいんです」そして二人はキスし、それを旅行から戻って近くから見ていた妻二人も、「じゃあ私たちも」とキスする。そしてキスを終えた妻二人は、お互いの夫のところへ駆けてゆき、その腕に抱き留められる。わはははは!こんなんありかい!・・・話を本多氏に戻すと、とぼけっぷり最高潮です。嫁がいなくて食うものがない、と寝癖のついた頭で部屋の中をウロウロする、なんてシーンがとってもお似合い。伊藤氏とのキスシーンでは少々口元が硬かった(笑)ように見えたのは気のせい?しかし目を閉じてキスを受ける横顔はかわいかった・・・。(結局それかい)

考えたらこの映画には、本多菊雄・伊藤猛・川瀬陽太という私の好きな三人の男優さんが出ている。その点で大満足。しかし残念ながら女優の印象が薄かった。三人とも小粒なお嬢さんという感じ・・・。それから夜のシーンが多かったのだが画面が暗くて全然見えなかった。わざとだろうと思うんだが、あまりにもそういうシーンが続くとちょっと辛い。
音楽はサトウ監督とずっと組んでいる山田勲生(「EUREKA」)。ヒロイン二人が歌うカラオケソングもこの人のオリジナル。


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団地妻 隣りのあえぎ

2001年、製作・配給:国映=新東宝映画
監督:サトウトシキ、脚本:今岡信治、音楽:山田勲
出演:中川真緒、伊藤猛、田尻裕司、佐々木ユメカ

主人公(中川真緒)は団地に住む人妻。昔社交ダンスの相方だった夫(伊藤猛)は生真面目で少々神経質な上に最近では腰を痛めていて、色々な意味で素っ気無い。主人公は昼間団地の中の空き部屋に勝手に入って、隣の部屋から聞こえてくる女(佐々木ユメカ)のあえぎ声を盗み聞きしている。ある日そこに見知らぬ男(田尻裕司)がいきなり入ってきて、自分はその隣室に住む女の夫で、妻は今浮気中だと言う。二人はそれをきっかけに親しくなる。主人公の夫は彼女がその男と浮気したと思い込み相手に家に怒鳴り込んでゆくが、その男の妻(ユメカ)は「別にいいんじゃない、ずっと一人の人とだけだなんてつまらない。奥さん、私の旦那と会っていいわよ」と軽くあしらう。翌日、主人公は男(田尻)と空き部屋で会い、初めて関係を持つ。妻と男の関係を知った夫は夜の街で飲んだくれ、帰宅していた妻をつれて男の家にゆき、男を殴りつける。翌日、男は初めて妻に自分の中の葛藤を打ち明け、ようやく二人は抱き合う。主人公はその声を隣の空室で聞いている。ところが次の日、再び空き部屋に行った主人公はそこでまた男に会う。「妻に別れようといわれた」という彼とともに、彼女はふらりと海へゆく。

この映画、なんだかんだとやりながら、いきなり最後ではハッピーエンド調なんだけど、これでハッピーエンドになってしまっていいのかキミ。絶妙なところで起きる夫の腰痛と、二人の思い出(なんだろう)のダンスに乾杯。
いつでも女は自分の意志で動き、男たちはその後からついてゆく。という話。したくなったらしようよと誘ってやってしまうし、腹が立ったら正直にぶつけるし、自分で出て行って自分で帰ってくるし。まあ良い意味だと「自分の意志で云々」だけど悪く言えばただ単に衝動的で一人よがりなのだった。一方で男の方は相手の言動に嫉妬したりイライラしたり、逃げ出したり殴られたり、肝心なところで腰を痛めたりする。かっちりと髪を固めた伊藤猛がいいっす!いかにも白けた顔で面白みのなさそうな男を淡々と演じていて、しかも彼がすばらしいタイミングで腰を痛めるのが物語で重要な役割を果たしている(←たぶん)。この映画の笑いの部分を一手に引き受けてます。
この映画はサトウトシキ監督作品だけど小林政広脚本ではない。この映画を観て、あの特徴ある間や文語的(笑)なセリフ使いは小林政広の特徴らしいとわかった。この映画の脚本は今岡信治。未見だけどピンク映画の監督で、有名な作品もあるそうな。私の印象では、小林政広が書いてきた団地妻シリーズほど端正な毒気はない。小林氏の世界は一種独特のスタイルを感じさせたのだけど、この映画はどちらかというともっと「ウェルメイド」という言葉のほうがふさわしーような、もっと温かみのある雰囲気を感じたのだけど、どうなのかしらん。今岡監督の作品ももっと観たいなぁ。ただし、私はどちらかといえば、あの小林政広的世界のほうが好きなんだけど・・・。(ついでに言えば主人公と関係を持つ男を演じた田尻裕司も監督。「OLの愛汁 ラブジュース」で有名。容貌はなかなかかわいらしい青年だと思います。笑)


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サイコ・ドクター 白濁のしたたり

2001年、TMC(V)
監督:サトウトシキ
出演:小林宏史、中川真緒、中原翔子、諏訪太朗、伊藤猛

主人公(小林宏史)は産婦人科医だが下着泥棒を副業としており、「女の下着を盗むのが悪い理由がわからないんです・・・」とほざく困ったちゃん。そのために前科がつき医師免許も剥奪されたが、わけあって今も医者を続けている。腕は至極よく患者の受けもいいらしい。ある日彼はパンツを盗みに入ったマンションで、小鹿のような女(中川真緒)に現場を見られてしまうが、彼女は何故か彼に「助けて」と呟き、とがめようとはしなかった。翌日、病院にやってきた患者がその女だということに気がついて主人公は驚愕する。彼女が夫から虐待を受けているということを知った彼は、彼女を救おうと彼なりに努力しはじめるのだが・・・
ってな話。映画の中でも「変態」と呼ばれる主人公だけども、「下着ドロだが心根は繊細なイイやつであり、『人の役に立ちたい』と切に願っている善良な男(そしてどうにも不運な男)」として描かれる。だが、まあイイやつかどうかしらんけど、下着は盗んだらいかんやろ(笑)。しかもそれが婦人科医だったりするからな。いかんな。彼があらゆる手立てをつかって惚れた女を救おうとしたのに、最後には「ほっといて!」と拒まれ、夜の街をトボトボ歩くシーンはなんとも哀愁漂い、しかしあまり同情する気にはならないのだった・・・。(笑)

いつもストレスフルな立場にいる主人公が和む場所としてゲームセンターのシーンがあるんだけど、ここでいっつも彼に話しかけてくる少年が、主人公の中の子供の部分、純真な部分を表しているのかな?と思えた。(女に拒まれた主人公が一人落ち込んでゲームをしていると、少年は彼の髪をやさしく撫で、頭を抱いてあげるのだ)
しかしそれより面白かったのは主人公の友達で靴フェチの男。絶妙なタイミングで現れて主人公に運や転機をもたらす。そして演じていたは伊藤猛。この人、イヤミなくって何演じても面白いなー。

主人公の小林宏史、どっかで見たことあるなーーーと思っていたら、「アベック・モン・マリ」のダメ夫だった。この人もなんかいかにも人のよさそーないい味だしてます。女物のパンティをはいて自淫するシーンがありますが、これは笑えます。(本当)そして諏訪太郎が主人公の勤めている病院の院長として登場する。病気のため車椅子生活を送っており、若妻(むろん看護婦)を満足させられないことに悩んでいる。主人公に「私を犯してくれ」「刺激が欲しいんだ」などと言って困らせる。諏訪太郎だもんなぁ。犯したくないよなぁ。(笑)


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ロスト・ヴァージン やみつき援助交際

ビデオタイトル「手錠」
2002年、製作&配給:国映=新東宝映画
監督:サトウトシキ、助監督:堀禎一、脚本:今岡信治
音楽:山田勳生、挿入歌「プール」(作詞:今岡信治)
出演:佐々木日記、松永大司、斎藤知香、佐倉麻美、向井新悟、田端宏和、羅門ナカ、本多菊次朗、松原正隆

10年前の夏、ヒロイン千里(佐々木日記)は高校生。処女を捨てようとしてテレクラで出会った男(羅門ナカ)とホテルにいくと、いきなり手錠をかけられ殴られたので逃げ帰る。 途中で同級生の高史(松永大司)に助けられ、彼が一人で暮らしているアパートにいって手錠を外してもらう。なんとなく好意をもった千里はその後彼と初体験するものの、彼には彼女がいて、なんとなく失恋してしまう。5年前の夏、ヒロインは事務系OLとして働きながら男と同棲しているものの、それでもなんとなく援助交際を続けている。久しぶりにバーテンをやっている高史に出会ってなんとなく関係を持つものの、彼は高校時代の彼女と結婚していて子供までいて、なんとなく、それはそれで終わってしまう。今年の夏、すでにOLを辞めたヒロインは牛丼屋でバイトしている。援助交際はまだやっていて、顧客なんだか彼氏なんだかのような、ちょっといじらしい大学生とダラダラつきあったりもしている。そんな時にまた高史に出会う。彼はすでに離婚していた。二人とも本当にダメダメだ。そこで、なんとなく、二人は昔、手錠を外したあのアパートの部屋に行ってみる。懐かしい部屋で、今は何もない部屋で、二人は一緒に寄り添ってねむる。

サトウトシキの映画って、暗闇(及び暗い所にいる場面)の映像が深みがあって美しいなぁと思う。私、本来はこういう主人公みたいなダラダラした若者を見ると「きいっ!」という気分になるんだけど、ならなかったのはたぶん(佐々木日記の魅力と)この美しい暗闇に心うたれてしまったからじゃないか。「迷い猫」でヒロインがバス停に佇んでいるシーンもそうだったけど、今回も、夜、主人公が自転車の二人乗りをしている場面、そして部屋で二人が眠っている場面がとても端正で綺麗。いつも彼の描く暗闇を見ると、なんだか心が騒ぐような気分になる。この「ロスト・ヴァージン」では、それがセンチメンタルな気分であったりする。私はこういう生き方をしてはこなかったのに、なぜセンチメンタルなのかしらん(笑)。ダラダラと過ごしているだけにみえる主人公二人の関係(および周囲)が、時が経つと共に否応ナシに(ごくわずかだけど)変わってゆくところに、何かやはり自分自身にも当てはまるところがあったからかもしれない。
今岡信治の監督作品を1本しか見てないので比べる資格はないとは思うんだけど、彼が撮った作品だったら、また全く違う印象の映画になってたかもね。

で、それ以外は、佐々木日記ってすごいわ。の一言に尽きるんじゃないでしょうか。腹に力のはいってないダラダラとした口調(←誉めてるつもり)、かったるそうに「うっせーよ」と言うその有り様、だらしないのにものすごくキュートなのだ。って一体何を言ってるのかよくわかりませんが私。見てない人には、とにかく見て!としか言えません(笑)。それくらい、この映画の佐々木日記はイイです。これデビュー作なんですよね、すごいなぁ。

本多菊次朗氏は、5年前の夏に援助交際している相手として一瞬登場。なんかそれだけなんだけどいい人っぽいです。(笑)(2004.4.2.)


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団地の奥さん、同窓会に行く

2004年、製作&配給:国映=新東宝映画、制作:Vシアター135
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広、音楽:山田勲生
出演:川瀬陽太、佐々木ユメカ、向井新悟、風間今日子、小林節彦、古館寛治、清水大敬、女池充、伊藤猛、本多菊次朗、間宮結、華沢レモン、下元史朗

主人公のカワセ君(川瀬陽太)は新婚のピンク俳優である。奥さん・明子(佐々木ユメカ)から「また?」と呆れたように言われると、思わず映画の撮影に関わる歓びを語ってしまうほど、映画を愛している役者なのだ。今日も、朝からいつもの新宿駅西口でスタッフと待ち合わせて撮影に臨む。しかし、室内での女優(風間今日子)との絡みのシーンからスタートした撮影は、たった1シーンだけなのにカワセ君の不調のために全く先に進まない。監督(小林節彦)も助監督(古館寛治)も不機嫌さを増してゆき、女優はうんざりといった表情。焦れば焦るほど、演技はひどくなるばかり。ついに助監督が休憩を宣言する。
一方で、明子は高校の同窓会にウキウキとでかけている。昔の彼氏(向井新悟)に再会できるかもしれないのだ。ところが出席者は殆どおらず、なんとも陰気な会合となり、明子はガッカリ。会場から飛び出したところで、その元彼とばったり出くわす。ちょいとアナーキーでワイルドな彼に会えたことで気を良くしたものの、同窓会は相変わらず盛り上がらない。しかも余興と称して同窓生にレイプされたりして、散々な目に遭う。
その間、カワセ君は相変わらず奮闘している。あまりにうまくいかないため、助監督が窮余の一策としてホンバン撮影を提案する。監督以下スタッフはノリはじめ、カワセ君も気合いを入れてようやくスタンバイOKになったところで、今度は、たった8万円のギャラで本番させられるなんて嫌だ、と女優がゴネはじめる…。

ついにサトウトシキ作品を劇場封切りで観られる時がやってきた!バンザーイ!しかも脚本は小林政広。もうピンク映画はやらないとかいう噂を耳にしたんだけどあれは一体?まあどうでもいいや!とにかく嬉しい!…そんな感じで映画館に足を運びました。胸高鳴るヨロコビ。今日ばっかりは、幕間のど演歌も、あやしい動きをやめない近くのおじ様たちも気にならない。さあ始まるぞ!

サトウトシキと小林政広コンビでの業界ものといえば、私は「赤い犯行 夢の後始末」「エロスのしたたり」それから一応「特別(生)企画 ザ・投稿ビデオ」を観ている。「エロスのしたたり」については記憶が乏しいのだけど、他の二本と、この「団地の奥さん、同窓会に行く」を観て感じてしまったのは、さすがのこの二人も自分たちのことを描くとなると冷静にはなれないのかしらん?なんてことなのだった。
普通、サトウトシキ(小林政広脚本)の作品って、作り手と、画面上の登場人物の間にある一定の距離があって、とても冷めた視点で物語が描かれているという気がする。描かれている話がコメディであってもええ話であっても、かならず冷ややかな、そしてサラリと乾いた空気がそこに漂っている。「低体温」という表現が巷にはあるようだけども、それを当てはめてもいいかもしれない。
ところがピンク業界を描くとなると、一気にその体温が急上昇し、乾いていたはずの空気が湿気を帯び始める。「撮影期間は3日しかない」「いいんだよ8万で本番やってくれる女の子は君以外にもたくさんいるんだから」「これでいいんですか。映画ってみんなで作り上げていくものじゃないんですか」「映画はな、監督のものなんだよ!」「さっさとやりましょうよ、たかがピンク映画なんだから」この映画でも、主人公の役者・カワセ(この役名はあっ!)が苦闘する現場の風景、そこで発せられる監督の言葉、助監督の言葉、そして何より物語クライマックスでのカワセの言葉には、いつものクールなトシキ作品の空気はどこにもない。観ている側が「イテテ…」という切ない気分になるくらい、熱い。それがこの作品にとって良いことがそうでないことかは私には判断しにくいのだが…とにかく…さすがの彼も(←失礼)自分たちを描くとなると、こうならざるを得ないのかなぁ、という感慨に似たものを覚えたのだった。

絡みワンシーンをとるだけで半日苦闘している現場と正反対に、(映画の中での)現実世界で同窓会に出かけた妻は、絵に描いたようなピンク的展開で、お手軽にレイプされたり元恋人とホテルに行ったりする。その対比の仕方は皮肉かつ見事。監督の勝手な都合に振り回されて現場をクビになった主人公が、家に帰ってきて妻と抱き合うとき、秘めやかに、素朴に、暗闇の中で行われるラブシーンの切なく美しいこと。その背景に優しく奏でられる「ラヴ・ミー・テンダー」…(佐野和宏の「変態テレフォンONANIE」みたいだ)。映画に関わる人たちと、彼らを支える人たちへの愛情に満ちた作品であることは確かだった。

自己パロじゃないよね?というような主人公を演じたのは川瀬陽太。どんな気持ちで演じたのかなぁ。奥さん役が佐々木ユメカ、もう言い尽くしましたけど本当にいいですねー(この映画、5,6人くらいで見に行ったのですが、彼女を初めて観る人達もみな絶賛でした)。彼女の初恋の相手が向井新悟。「青空」の頃と変わっているような…いないような…。ピンク映画女優の風間今日子(絶妙)に「ざけんじゃねーよ!」と八つ当たりされて二階の窓から蹴り落とされ、悲鳴をあげながら落下するマネージャーが女池充(…)。同窓生として伊藤猛(笑わかす)、本多菊次朗、間宮結。余計な一言を言ってユメカさんにぱちんとひっぱたかれるホンダ氏が美味しかったです。(2004.6.12.新宿国際名画座にて)


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過激本番ショー 異常者たちの夜

1990年、製作:アウトキャスト・プロデュース、配給:新東宝映画
監督:サトウトシキ、助監督:上野俊哉、脚本:小林宏一、音楽:ISAO YAMADA
出演:吉田春兎、芹沢里緒、神山洋子、清水大敬、中根徹、梅垣義明、世良福助、石井基正、中野貴雄

西新宿に都庁の新庁舎が建設され、周囲の街も何となく雰囲気が変わってきたように思われた、そんな頃の物語。
主人公(吉田春兎)は歌舞伎町の風俗情報誌の営業担当者。編集長(清水大敬)と自分一人の小さな職場だけども、本人の人当たりも良いせいか、それなりに安定した仕事ぶりである。最寄りの駅から徒歩で25分と遠いものの庭付きの家も持っており、公私ともに充実…のはずなのだが、妻は男を連れ込んで情事に耽っており、ある日、帰宅した彼はその現場を見てしまう。「困った奥さんだな」と呟きながら、彼は編集部でしばらく寝泊まりすることに決める。ブルーになってしまうところだったが、その編集部には可愛い女の子がアシスタントとして働くようになり、彼女から好意を持たれているのを感じて心浮き立つようないい気分になる。ところが彼女は(彼の知らないところで)編集長にレイプされて仕事を辞め、同時に妻の間男からは身勝手な要求をつきつけられて離婚するようにと迫られ、彼のささやかな安定が壊れ始める。ある日、取材先のクラブであの女の子が薬漬けにされて本番ショーをさせられているのを目撃した彼は、職場の机の中に隠し持っていた拳銃を手にして歩き出す。

たぶんこの映画を観て「タクシー・ドライバー」を思い出した(劇中、歌舞伎町の映画館にはスコセッシの「グッドフェローズ」のポスターが貼られている)のは私だけじゃないでしょう。物語はちょっと似ているようなところはある。ほんのちょっとだけど。
ひとりの男の日常が少しずつ壊れてゆく物語。それとも、虫も殺せない「いい人」の内なる狂気が露呈してゆく物語、か。そんな手垢のついた表現でしか説明できない自分が悔しい。でも、この映画の主人公は、最初から既にどこか変なのだ。妻の情事を見て「困った奥さんだな」と本当に困惑したように、ナイーヴに呟く彼は、およそ欲望とか執着とかドロドロした感情とかには無縁の存在に見えるし、周囲も彼をそういう人間だと思っている(キュートにこざっぱりとした吉田春兎はまさにそういう「キレイな人」にぴったりだ)。でも、それがものすごく変なのだ。実際彼もまたそんな感情に無縁であるはずがなく、独り寝が辛くなれば家に帰って妻を抱きたいと思うし、可愛い女の子が近くにいればものにしたいとも思うのだが、時機を逸していたり、当を得ていなかったりして叶わない。理解されない、受け入れてもらえない欲望(愛情などではない「欲望」そのもの)が彼の中で静かに溜まってゆき、当然の結果として物語の終盤で暴発する。その暴発でさえも、普段の彼がそうであったように、静かで整然としていて、粛々ととり行われるのだけども。

混沌とした歌舞伎町と、それに不似合いなほど整然とした都庁舎の組合せがとても印象的。その昔、私がまだ地方在住だった時、上京して初めてあの界隈を歩いてみた時に冷え冷えとした寒さを感じたものだった。とてもキレイで整然としているけども決して気持ちの良い空間ではなく、ただただその居心地の悪さに圧倒された。その時の感覚を久しぶりに思い出してしまった。映画の最後、自殺する主人公が自分に撃ち込んだ弾丸がそのまま都庁舎へと撃ち込まれたように描かれていることについては、最初は違和感をおぼえたものの、心の中でそのシーンを反芻し、昔自分が見た庁舎の有りようを思い出しているうちに、そうなるべくしてなったのかもな、という気がしてきた。人も街も、傍目から見てキレイに塗り固められていても、そんなもん上辺だけで、実際には抱えきれないドロドロが溢れ出しそうになってる(こう書くととても陳腐だなぁ…やだなぁ…)。そういうことなのかな……。

それにしても、よ。
くわー、可愛いっ!!なんてかわいいのーーーー吉田春兎くん!マジでラブリー!と、私の理性を銀河の彼方に吹っ飛ばしてくれた主人公役・吉田春兎とは、若かりし頃の本多菊次朗氏その人なのでありました。その一挙一動に「うっひゃーカワイイっ!」「プリティっ!」と騒ぐ始末だったので、しっかり映画を観られたはずがありません。繰り返して二回鑑賞。でも一度たりとも冷静にはなれなかった…。
同じキャラクターを、例えば伊藤猛が演じていれば、また全然違う味の主人公になったでしょう。でも、このひんやりとドライなこの映画には、吉田春兎=本多菊次朗の個性がぴったりなのでした。(2004.7.21.)


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