本多菊雄 in サトウトシキ「団地妻」シリーズ


団地妻 白昼の不倫

ビデオタイトル「団地妻快楽図鑑 3人の性くらべ」
1997年 配給=新東宝、製作=国映
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:葉月螢、沢田夏子、長曽我部容子、川瀬陽太、本多菊雄

主人公は結婚8年目の、ごくフツーの団地で静かに生活する平凡な主婦(28歳、葉月螢)である。昔はよく浮気していた夫(30歳、本多菊雄)も今では落ち着いているようだし、格別問題はない。ただセックスの時にいつも「気持ちいい」とあからさまに連呼してしまう自分に、旦那が少々呆れているようでもあるのだが。お隣の派手目な先輩主婦(沢田夏子)と他愛ない会話(ポール・ニューマンのトマトソースは甘みが足りないから嫌だとか何だとか)を交わし、ボウリングで暇をつぶし、帰りの遅い旦那を待つ毎日。しかし気がついてみると、なんとなく旦那の様子がまた変になってきた気もする。仕事帰りに見知らぬ女(実は同じ団地に住む人妻。長曽我部容子)にただならぬ雰囲気で見とれる彼の姿を目撃し、もしかしたら、と不穏な気分になり哀しくなる。そしたら今度は、ボウリング場でたまにみかける変な男(実は団地の住人で長曽我部容子の旦那。川瀬陽太)から付き合って欲しいと懇願され、「頼まれると嫌とは言えない性格なので」ホテルへ。しかし結局未遂に終わってホテルから外に出ようとしたら、そこで旦那と出くわしてしまう。

団地に住む一組のカップルの間に起こるさざ波を静かなユーモアで描いた映画。
主人公に据えられた葉月螢&本多菊雄カップルのかわいらしさが何とも言えません。物語はヒロイン葉月螢のモノローグの形で描かれる(そういえばサトウ監督の作品にはこういうのが多いなぁ)んだけど、彼女の訥々とした語り口、そして画面でのくそ真面目な顔が笑いを誘うわ可愛らしいわで、とにかく楽しいのだ。「いつまでも女の尻をおいかけてばかりのエッチな少年」と妻に評される夫@本多菊雄も、実は浮気などしておらず、毎朝自転車置き場ですれ違う美女・長曽我部容子にほのかに憧れているだけだったりする(彼女の姿を見るたびに、「よし、今日も一日、頑張るぞ!」と自分を励ますシーンが笑える)。この夫婦が夜のベランダに立って会話をするシーンがあるんだけど、この会話が夫と妻の大いなる相違を表しているようで大変面白かった。(しかし実際には、妻もまた夫のようなことを感じることもあると思うのだが)
相変わらず会話やシチュエーションは大変うまくできてます。浮気未遂現場を見られた妻と夫の会話(「何してるんだ」「買い物」「買い物って何を」「お豆腐」←ホテルの前で)のおかしさ、出来てしまった溝を意識しながら、夜、真っ暗な台所で二人でワインを注いで一気飲みしあい、最後には争ってボトルからラッパ飲みし始めるシーン。そういうものがいちいち印象的だし、時には少々わざとらしさもある。しかし見終わってみると、淡々とした時間の流れにそういう一つ一つのシーンや台詞が実に良く溶け込んでいて全く違和感を感じない・・・。というのが、私の感想。ま、葉月螢&本多菊雄カップルを見てるだけでシアワセ〜〜♪だったので、実のところ、それ以外はよくわかりません。(笑)

私は本多菊雄氏を見たのはこの映画が二回目だったと思う(一度目が「したがる兄嫁」ね)。もーファンになるしかないっしょ?って感じでした。(笑)


新・団地妻 不倫は蜜の味(今宵かぎりは・・・)

ビデオタイトル「団地妻悦楽図鑑 4人の性くらべ」
1999年、国映
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:葉月螢、沢田夏子、村木仁、佐々木ユメカ、本多菊雄

ヒロインの名前が前作(「団地妻 白昼の不倫」)と一緒だけど中身は全く別。
都心から電車でいくつも川を越えたところにある郊外の高層アパートに住むヒロイン(葉月螢)は、子供はいないものの夫(本多菊雄)とは仲睦まじく、隣室に住む主婦(沢田夏子)とは友だち同士で仲良く喋っている。ただし、隣室の主婦は夫婦生活(夜含む)を明るく話してしまうヒロインに対して少々割り切れ無さも感じているのだが。二人の夫同士は同じ方角で仕事をしているにもかかわらず最近まで言葉を交わしたこともなかったが、ふとしたきっかけで一緒に飲むようになる。仕事帰りに二人で飲んでいた時、居酒屋で相席した若い女二人組(うち一人が佐々木ユメカ)と親しくなり、ヒロインの夫はそのうちの一人(ユメカ)に迫られて、断りきれず、またちょっとした出来心で浮気をしてしまう。

二組のカップルが、些細な悪意や嫉妬、悪戯心をきっかけに静かに壊れてゆく物語。全体的には「白昼の不倫」と同じように淡々としたユーモアで描かれているけれど、のんびりと語られるセリフの端々には4人(+2人)それぞれの自分勝手さや無責任さが見え隠れする。ささやかな悪意と嫉妬で動きながら自分たち自身の関係も壊してゆく隣室の夫婦(とくに夫)もユーモラスに描かれるし、本多菊雄演じる主人公の夫がだんだんと優柔不断っぷりやだらしなさを露呈してゆく過程は喜劇的で笑えるものの、全体的に、笑いながらも冷え冷えとした気分にさせられる映画。
一番凄いのは、ラスト近くに到るまで周囲の変化に全く気がつかない、天真爛漫な主人公にいきなり大きな悪意が降りかかるくだり。その後、彼女は何事もなかったかのように、真っ暗なキッチンで黙々とご飯と漬け物をかきこみ続ける(このシーンで映画は終わる)。たぶんこのシーンは、彼女自身や夫との関係、そして周囲の人物との関係、これまでの日常が(表面上は今まで通りかもしれないけど)永遠に変わってしまうことを暗示しているのではないか。静かだけど悲劇的な余韻が残るラストシーン・・・と、私には思えた。

それにしてもこの紛らわしいビデオタイトルどうにかならんのだろーか。公開時タイトルから変わりすぎ。


団地妻 不倫でラブラブ

2000年、製作・配給:国映=新東宝映画
監督:サトウトシキ、脚本:小林政広
出演:横浜ゆき、本多菊雄、林由美香、伊藤猛、さとう樹菜子、川瀬陽太

ある朝、夫1(本多菊雄)が起きてみると妻1(横浜ゆき)がいなかった。てんで事情がわからない。ちょうどその頃、隣室でもまた夫2(伊藤猛)が妻2(林由美香)がいないことに気がついてボー然としている。夫2は「お隣の奥さんとしばらく旅行します」という妻の置き手紙を見つけ、隣室の夫1を訪ねてみる。二人は相談の結果、妻がレズビアン関係にあるらしいと判断、じゃあ彼女たちがいない間、自分たちもまたお互いで楽しもうと合意する。云々。

要は「夫に不満をもった二人の妻がレズビアン関係になるものの、結婚に踏み切るかどうかで悩んでいる若いカップル(さとう樹菜子+川瀬陽太)と旅館で交流し、最後は夫を愛していることを実感してまた元に戻ってゆく」という話。しかし元に戻ったといっても、夫同士は「たまには男同士もいいですね」、妻同士は「私たち、体を温め合う関係でいましょうね」なーんて前向きでおおらかなんだけど(笑)。
 しかしとっぴな展開で笑える。妻たちが温泉へ逃避行していることを気づいた夫2(実は夫1にずっと好意を持っていたらしい)が、「妻だけ楽しんで僕らが楽しまないのはどうかと思うので」、「僕たちはホモだちになりませんか」「楽しいと思うなぁ、ホモだちごっこ」とまじめに(しかし恥じらいつつ)提案し、戸惑いながら(でも結構簡単に)夫1が承諾する場面なんて、一般映画ではなかなかこんな柔軟な話はお目にかかれますまい。そして「裸のつきあい」が終わり、二人が素っ裸でダイニングテーブルに向かい合わせに座ってる何故か絵的なシーン(テーブルの上では電気ポットが蒸気をあげている)に飛んだ時のおかしさ!楽しそうにエッチしたり温泉で泳いだりしている妻たちにくらべて、とことん所在なさげで気まずそうな二人の描写が笑えて仕方ない。

ひそかに隣の夫1に好意を持っていたものの、実物はつまらない男だと知って幻滅する夫2を演じるのが伊藤猛。いーなーこの人。背中を丸めた横顔みてるだけで微笑みがもれます。今ひとつ感情を表すのがうまくなくて、妻にも夫2にも愛想をつかされてしまう夫1=本多菊雄。しかし最後の最後でさわやかに大逆転してみせて、両方の好意を取り戻す。ラストシーン近くで、それまでほとんど自分の感情を表示しなかった彼が「たまにはこういう関係もいい」「また体を重ね合いましょう」と言った時、カメラがいきなりドラマチックにパンする(笑)。「キスしていいですか」「ここ、公衆の路上ですよ」「だからいいんです」そして二人はキスし、それを旅行から戻って近くから見ていた妻二人も、「じゃあ私たちも」とキスする。そしてキスを終えた妻二人は、お互いの夫のところへ駆けてゆき、その腕に抱き留められる。わはははは!こんなんありかい!・・・話を本多氏に戻すと、とぼけっぷり最高潮です。嫁がいなくて食うものがない、と寝癖のついた頭で部屋の中をウロウロする、なんてシーンがとってもお似合い。伊藤氏とのキスシーンでは少々口元が硬かった(笑)ように見えたのは気のせい?しかし目を閉じてキスを受ける横顔はかわいかった・・・。(結局それかい)

考えたらこの映画には、本多菊雄・伊藤猛・川瀬陽太という私の好きな三人の男優さんが出ている。その点で大満足。しかし残念ながら女優の印象が薄かった。三人とも小粒なお嬢さんという感じ・・・。それから夜のシーンが多かったのだが画面が暗くて全然見えなかった。わざとだろうと思うんだが、あまりにもそういうシーンが続くとちょっと辛い。
音楽はサトウ監督とずっと組んでいる山田勲生(「EUREKA」)。ヒロイン二人が歌うカラオケソングもこの人のオリジナル。


サトウトシキ監督には、他にも「団地妻 隣のあえぎ」という映画があります。
(これには本多氏は出ていません)
脚本も小林政広ではなく今岡信治で、この三作と随分違った印象なのが面白いです。

-BACK-