残像 2


 世界は新しい煙草に火を点けて美奈に渡し、詫びの言葉を口にする。

「悪かったな」

「いいのよ、気にしないで。でも、帰れないなら顔だけでも見たかったわ。あの娘、泣き虫で寂しがり屋だから、きっと今頃一人で泣いてる」

美奈の言葉に世界は何かを考える素振りを見せた後、美奈の肩を押すようにしてその場を離れた。

「世界の野郎、いやに親切だな」

「いい女だもんな」

「ワケありってか……」

通りがかりの警官にバッジを示しながら、何かの交渉を始めた世界を横目で眺めながら、飛葉を除く5人が二人の噂話を始める。

「なかなかの雰囲気だよな」

「昔のコレってとこか」

オヤブンが小指を立てながら言った言葉に、意を得たようにうなずくと、

「じゃ、俺たちはお邪魔だな」

と八百が言う。その言葉を合図に、彼らは慌ただしさを増していく警察署を後にすることに決めた。そして少し離れた場所にいる世界に

「おーい、世界。俺たちゃ、先に退散するぜ」

と、ヘボピーが声をかける。世界がこちらを振り返ることはなかった。ただ片手を上げて了解の意思を示すと、再び警官に詰め寄るような姿勢で話を続けている。

 「おい、飛葉。何ボーッとしてんだよ。帰るぞ」

先刻から、殆ど無言で突っ立っている飛葉に、八百が言った。

「なんだよ、飛葉ちゃん。大人の女の色香にやられちまったのか?」

「……そんなんじゃ、ねぇよ。世界、置いてくのか?」

「おいおい、飛葉。野暮なこと言ってんじゃねーよ」

両国が呆れたように飛葉に言う。するとヘボピーがからかうように

「まったく、ガキだな。おめーは。大人の男と女。積もる話もあるってもんだ。少しは気を遣ってやれ」

と言った。

「そんなんじゃねーよ。俺は……何か手伝えることがねぇかって、思っただけだよ」

あからさまに子ども扱いされたことが気に入らない飛葉は、乱暴にそう言い捨てて足早に玄関へと向かう。そんな飛葉をからかいながら、他の5人も出口へ向かって足早に歩き始めた。


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