七夜目の真実―Side of two persons 5th―
その日の朝、男は着替えの白衣と朝食用のトーストとサラダ、ゆで卵を持って現れた。飛葉は紙皿の上の食べ物を機械的に咀嚼することに専念し、男は心許なげな表情でそれを眺めている。それはここ数日の間、毎朝繰り返されてきたのと同様に飛葉が料理に文句をつけることはなく、男も飛葉から何らかの言葉を引き出そうとはしない。まるで調度品のようにそこにいた。「昨夜の寿司は美味かった」
飛葉が指先のマヨネーズを嘗め取りながら言うと
「だったら、今晩も買ってこようか」
と、男が尋ねる。
「胡瓜巻きとのり巻き、それから稲荷鮨だ」
「うん、わかった」
そう言った男は、飛葉が知る中で最も幸福そうな笑顔を浮かべていた。
「お前……俺にたかられてるってのに、何笑ってやがんだよ」
「だって……」
飛葉の皮肉を含んだ言葉と呆れた顔など目に入っていないかのように、顔をほころばせた男が答える。
「だって初めてじゃないか。君が食べたいものを言ってくれたのは。それに胡瓜巻きにのり巻き、稲荷鮨が好きだなんて今まで知らなかったんだよ。何だか少しだけ、君と親しくなれたような気持ちになってしまって、それがとても嬉しくて……」
「気色悪りぃこと、言うな」
「ごめん……」
吐き捨てるような飛葉の口調に、男の表情が瞬時に曇る。
「お昼の支度……ここに置いとくね」
汚れた紙皿と紙コップを片付けながら男は言った。
「胡瓜巻きはサビ抜きだ」
閉じられようとしているドアに飛葉が声をかけると、男はその隙間から顔をのぞかせて笑顔で飛葉の希望に答えた。
◇◇◇ 日が落ちてしばらくすると、厚い木製のドアの鍵穴から金属が擦れる音が聞こえた。飛葉はベッドの上で居住まいを正し、家主が入ってくるのを待ち受けていた。
「お寿司……買ってきたんだけど」
連日の飛葉の言葉と態度がこたえているのか、男はおどおどとした様子で胡座をかいている飛葉に歩み寄ってくる。男が差し出した寿司折りを引ったくるようにして受け取った飛葉は
「行けよ。今日は虫の居所が悪いんだ」
と、言った。男は力無く、ぎこちない笑顔を浮かべると、無言で部屋から出ていった。
施錠される音に続く、次第に遠ざかる足音に耳をそばだてていた飛葉は、遠く離れた扉が閉ざされる音を認め、慎重に寿司折りの包みを解き始めた。濃い鴬色の地に白く店名が抜かれた包装紙を破らないように剥がし、その裏表を注意深く目を走らせたが、特に変わったところはない。意味ありげな折れや紙片も見つけられず、飛葉は無意識のうちに舌打ちをした。薄い木製の蓋にも変わったところはなく、折り箱の中にも寿司の他には何も入っていない。飛葉は魚の形の醤油入れを摘み、裏面を上に向けて広げた包装紙を睨んだ。そして天井を仰ぐと、醤油で仲間へのメッセージを書き付けた。