七夜目の真実―Side of two persons 4th―
「今日は仕事が長引いてしまって……夕食にお寿司を買ってきたんだけど……」そう言って男は、飛葉に寿司折りを差し出した。
「随分と豪勢じゃねぇか」
そして飛葉は上機嫌で折り箱の包み紙を引き剥がし、握り鮨を口に放り込む。
「じいさんは元気だったか」
飛葉の言葉に男は、言葉を失うほど驚いていた。飛葉は無言で寿司折りの包装紙を男に投げ渡して言葉を継ぐ。
「骨と皮ばっかりのクセによ、妙に威勢のいいじいさんが寿司、握ってんだろ? この店は」
「うん……」
「一見の客はあんま、いねぇんだ。そうだな……常連の、近所に住んでるような客が多かったけな」
「よく知ってるんだね。あの店は君のアパートのある辺りからは少し離れているのに」
「今日はどうだった? 相変わらず、閑古鳥が鳴いてやがったのか?」
「カウンターの一番端っこにお客さんがいたかな。口ひげを蓄えてる男の人と、時々あの店で見かける夫婦者のお客さんと……」
男の言葉に耳を傾けながら、飛葉は寿司を摘んでは口に放り込む。
「てめぇ、あの店にはよく行くのか?」
「仕事が遅くなった時くらいに……。月に1度行くか行かないかって程度かな。夕食を作るのが億劫な時とか、帰るのが遅くなって他の店が開いてない時にね。この近くでは、あの店くらいなんだ。11時を過ぎても食事らしい食事ができるのは」
「茶碗蒸しが、うまいんだ」
「よく……行くのかい?」
「少なくとも、ここで篭の鳥になってからはご無沙汰だな」
派手な音をたてながら、飛葉が寿司折りと包装紙を一つにまとめて男の足下に投げた。
「出てけよ。俺はもう寝る」
「飛葉君……あの……」
「出てけっつったのが聞こえねぇのか、てめぇはよ」
ベッドに横になり、不機嫌そうに答えた飛葉は男に背を向けた。そして無言で男を拒絶したきり、微動だにもしない。そんな飛葉の様子を少しばかり見守っていた男は足下に転がる紙屑を拾い、ドアを開けた。
「おやすみ」
男が頼りなげな声を飛葉にかけたが、飛葉は壁に身体を向けたまま何も答えなかった。
◇◇◇ 外から鍵がかけられた音を確認した飛葉は、ゆっくりとベッドの上に半身を起こした。
「カウンターの口髭の男……世界かもしれねぇ……」
この部屋に監禁されて既に4日が経過している。いつか世界に連れて行かれた寿司屋に世界がいたのであれば、現時点においてワイルド7が総力で解決に当たらなければならない事件はないと判断しても問題ないだろう。万が一、何らかの事件が起こっていたとしても、世界が外で食事をするくらいの余裕はある。それだけは確かだと考えた飛葉は、世界に自分が非常事態にあることを仲間に伝える算段を始めた。