おまけ


 朝餉の席で、ヒノエが言った。

「なぁ、望美。昨夜、九郎とどこかに行ったろ?」

姫君の気配には敏感なんだと笑うヒノエに答えたのは、九郎である。

「ああ、厠だ」

九郎と望美を除く全員が唖然とするのを気にも留めない九郎に、望美が食ってかかった。

「ちょ……ちょっと、九郎さん! みんなの前で、それも食事時に、何てこと言うんですか!! 九郎さんにはデリカシーってないわけ?!!!」

「“でりかしい”とは何だ?」

わかるように話せと言いながら、九郎は食事を続ける。

「……って……そういうザルみたいに大雑把な神経して……!! だいたい、配慮がないっていうか、九郎さんは無神経にも程があります!!!」

「お前に無神経だなどと言われる覚えは、ないぞ!! 俺が笊なら、望美。お前の神経は底の抜けた盥がいいところだろう!!!」

「昨夜だって、昨夜だって、人の後ろくっついて来たのは……あ、そうだ!! 九郎さんも一人で厠に行けなかったんだ!!! 絶対、そうだ!!!! それなのに、人をダシにしてカッコつけて!!!!!」

“サイッテー!”と、望美が箸と椀を持ったまま言い捨てると、九郎が反撃する。

「何を!! お前の腑抜けぶりを見るに見かねただけだ!!! 俺はあんなもの、元服の頃にはとっくに克服していたぞ!!!!」

「それが、どうしたって言うんですか!!」

 いつもの口喧嘩を始めた九郎と望美の様子に、ある者は色恋沙汰からはほど遠い二人の間柄に安堵し、ある者はいつまで経っても大人らしくなれない態度に嘆息し、またある者は朝食くらいは静かに食べたいものだと思い、そしてある者はいつ終わるとも知れぬ二人の諍いに心を痛めていた。

 そして当然のことだが、自分達の言動がどれほどはた迷惑なものであるかについては、当の本人達は全く気づいてはいないのである。


悪気もデリカシーもない九郎の可愛い暴言が好きです。
それをサラリと流せず、ムキになる望美との兄妹漫才が大好物です。
二人とも天然ボケなので、
ツッコミ役をする人が毎回何らかの被害を被るのは必至ということで(笑)。


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