夕日とヒーロー


 西日が差すWestBeachで、琥一がヘルメットの手入れをしている。

 ビニール張りのソファには、琉夏と琥一とが使っているフルフェイスのヘルメットが二つ、投げ出されている。マットブラックが琥一のもので、琉夏が使っているのは、ガンメタのベースにシルバーのラインがデザインされているヘルメットだ。

 けれど今、琥一が手にしているのは白がアイボリーホワイトに変色したもので、それは二人の幼馴染み・水田まりのため、琥一が実家から持ち出してきたヤツだ。専用の洗浄・コーティング剤でバカ丁寧に磨き上げるのは、さもついでだと言わんばかりに、琥一は先に自分たちが使うヘルメットを拭く。その後、二つのヘルメットを磨くよりも長い時間と手間をかけて、黙々と小ぶりのを磨くのだ。どちらがついでなのかは笑えるくらいに一目瞭然なのだが、やさしい琉夏は気付かぬふりを決め込んでやっている。

「なぁ、コウ」

「何だ?」

「あんま磨くとさ、なくなっちゃうぜ、ヘルメット」

琉夏の言葉に琥一の手が一瞬だけ止まる。

「んなワケ、あるか。このバカ」

 ヘルメットから視線を外すことなく言い捨て、琥一は再び手を動かす。心なしか、その手から僅かに力が抜けているようで、バカ正直なクセに無駄にカッコつけたがる琥一はどこか滑稽で、けれど、その分だけカッコイイのだと、琉夏は思う。悔しいけれど。まるで、いつだってギリギリカツカツのピンチのタイミングで現れて、オイシイとこを掻っ攫っていくヒーロー・ブラックみたいだ。そして、そう言えば琥一はガキの時からブラックが好きだったと不意に思い出し、二人揃ってでかくなったのは身体ばっかりで、中味は隠れんぼをしていた頃から成長していないことに気付く。

「何、笑ってやがる」

 琥一が怪訝そうに問う。琉夏は応えず、声を殺して笑い続けた。いきなり眉間の奥深くが痛くなったのを、笑ってごまかそうとしたなんて、いくら何でもカッコ悪すぎて、言えるわけがない。だから琉夏は何も言わず、ただひたすらに笑うのだった。


お誕生日プレゼントに、いっしーさんから琥一のイラストをいただきましたので、
プチ創作などを添えさせていただきました。
『無傷の勲章』の続編のイメージで描いていただいたそうで、感無量です。

車でも単車でも何でも、あんまり丁寧に磨いてるのを見ると、
磨きすぎて鉄の厚みがなくなるんではないかと、
そんなことを思う人間が身近に複数名いるんですが(笑)。
多分、琥一もそんな心配をさせる人種だと思う。
つか、塗膜はベースの金属部分よりも繊細なので、塗装が薄くなるよ、絶対。


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