大阪・徳島紀行(走行編)


 7月に北海道へ一人でバイクで出かけるんですけど、まぁ、北海道まではフェリーを使うんで、それほど長い距離を走るわけではないんですよ。けども北海道行きのフェリーは日本海側、舞鶴と敦賀から出航するんですな。で、そこまでは高速道路を使って行くわけです。で、単独で高速道路を走ったことがないので、高速を使いながらも距離的にも大変ではない、徳島方面への単独ツーリングを北海道旅行の前哨戦として決行することになりました。徳島県には何人かの知人がいるってのも、目的地とした理由になってるんですけども、明石・鳴門大橋も渡れるしというのも嬉しいことではありました。

◇◇◇

 1999年5月24日、中国・四国、近畿地方は雨。雨天走行の練習にもなるだろうと考え、大阪を午前6時30分頃出発。レインウェアに身を固め、ゴミ袋で包んだゴミ袋をリアシートに厳重にくくりつけた後、阪神高速へ。阪神高速環状線は車の通行量がべらぼうに多くて、目的地によってはとんでもない車線変更を短い距離の中で行わなくてはならないので、四輪の時も一人で走ったことありません。恐い。周囲の様子を見ながら、看板で方向を見極めるってのは、私にとって至難のワザだったりするんですな。朝早く出発したのも、ラッシュを避けてのことだったんですよ。ま、お陰様で阪神高速環状線は混雑してなくて、無事に通過できました。

 さて、大阪から明石大橋に向かうためには阪神高速3号神戸線に入らなくてはならないのですが、何を勘違いしたのか中国道に入ってしまったんです。これが第一の失敗。失敗に気付いた時点で、瀬戸大橋経由で四国入りを決めたのはいいんですが、瀬戸大橋に向かうためには途中で岡山道を経由して山陽道に行かなくちゃならない。で、分岐を見落としてそのまま中国自動車道を突っ走ってしまったと……。高速道路のヤバイところは道を間違うととんでもない場所まで行ってしまうということです。オマケに道を間違ってるので、どこかで正確なルートを確保しなくてはならない。んで、インフォメーションのある最寄りのサービスエリアまで走ることにしました。目的地まで約50キロ。

 雨と風の影響で、中国自動車道は最高時速40キロの速度制限が実施されていましたが、そんな速度で走ったら危ない。だいたい、そんなゆっくり走ってる車輌なんぞありゃしませんし、大型貨物車に煽られるんだわ。で、時速100キロペースで走行。途中、2回ほど大型車の跳ね上げた水を頭から被せられてしまって、ほとほと情けない気分を味わう。防水仕様の手袋してましたが、手袋に染み込んだ水が長袖のTシャツに染み込んでしまい、毛管作用でじわりじわりと水が上ってくるのがわかります。身体に受ける風圧が毛管運動を促進して、二の腕の半分くらいまでぐしょぐしょになってんの。太股とグリップを握り手に当たる雨の粒が痛い。ピシピシと身体を打つんですな。聞こえるのは空気を裂く時のザァーって音と、ヘルメットに雨が当たる音だけ。孤独です。一人で走っていることを身をもって実感するワケですよ。

 尾道に行った時、時速100キロを超えると風圧に耐えきれなかった首ですが、フルフェイスのヘルメットを着用していたこともあり、120キロ出しても痛くない。球体や流線型ってのは最も空気抵抗を受けにくい形状であるということは、知識として知ってはいましたが、それを身体で思い知りました。ライダーが愛用するのもよくわかります。ただフードが曇るので、ときどきフードを開けて空気を入れ換えなくちゃいけないのが、面倒ですが、まぁ、そんなのは首の負担と、顔をさらけ出してた場合に顔面にぶつかる雨の衝撃とは比べものにならないくらい、何でもないことですよ、ええ。

 サービスエリアでインフォメーションのお姉さんに、瀬戸大橋のルートを説明してもらって、道路公団発行の中国・四国地方の道路地図をもらう。

「雨の中、バイク大変でしょう」

と、お姉さんは無料配布している熱いお茶を入れてくれる。私にはお姉さんが天使に見えました。

 実はこの時点で、大阪に帰ろうかとも考えてたんですよね。訪問を約束していた人たちに電話して、事情を話せばきっとわかってくれるとも思ってたし。しかし!! ここで戻ったらあまりにも情けない。どうせ笑われるなら、目的地に行って笑いをとるほうがええんでないか。今戻ったらただのアホ。しかし、目的地までたどり着けば救いようのないアホになれる。そのほうがオモロイやん、と思い直して瀬戸大橋を目指す。ちなみにこの時、既に泣き入ってます。

「こうなったら、雨でも槍でも雹でも何でもこいやーっ!! うっらーっ!!」

てな気分ですね。

 無事に岡山道に入る。岡山道は途中で1車線になっていて、ちんたら走ってると後続車に煽られるんですな。で、時速110キロをキープ。それでも直後の大型貨物車は嫌みなほどにぴったりと後ろについてくれるんですよ。自暴自棄同然の心理状態で、煽られない程度の速度を維持。谷を渡る橋では例によって突風。路面が濡れていることもあり、バイクがぶれます。視界が移動するのがわかるくらい、大幅にずれます。ここでビビッて速度を落とすと車体の安定性が下がりますしね、最悪の場合、後続車に突っ込まれるかもしれないので、アクセルはやや開き気味。時速5キロほど上げるつもりで。でも、速度は上がらへんのです。たぶん横風に対する抵抗で、相殺されてるんだと思います。岡山道を抜け、山陽道へ。そして瀬戸大橋!!

 瀬戸大橋は横風が強いので有名です。バイクに乗っているので、雨は豪雨並に感じられます。海から吹き上げる風で、雨が飛沫状になって舞い上がり、視界は悪化。そして!! そして横風。バイクがズルズルと横にずれてしまいます。車体のバランスを失うんではないかというほどの横風が続き、時折突風に襲われるんですが、無意識に重心を移動させてました。考える前に身体が動く感じ。左右からの風の抵抗を少しでも減らそうと、タンクに上体を伏せ、顔だけを正面に向けて走ることに。それでも突風が吹く度にバイクがぶれるんですよね。あとね、橋と橋の継ぎ目っていうか、所々に鉄板があるんですわ。そこでバイク、滑ります。ズルッって。ええ、それはもう、見事に。これも、ムチャクチャ恐いんですよ。この時、時速は100キロ。万が一転倒でもしようものなら、確実に命を落とすのはわかっていたので、必死ですよ。周囲の景色なんぞ、目に入ってないもん。とにかく橋を渡りきる。それだけを考えておりました。

 無事に瀬戸大橋を渡りきり、香川県に到着。雨は心持ち、小振りになっていて少しだけ嬉しくなるが、こっからが長いんやね。国道11号線をひたすら走って徳島方面を目指すんですが、瀬戸大橋と鳴門橋を結ぶ高速道路の建設工事がそこここで行われていて、国道の一部が閉鎖され、迂回路を使うんですよ。で、地元の人なら抜け道・近道も知ってるんでしょうけど、知りませんのでね、正直に順路を辿ることに。

 既に時刻は正午を回り、5時間以上走ってんだよ、私。でも、ツーリングのバイクには一度も遭遇せず。当たり前ですけどね。国道11号線を走るほどに雨は小降りになり、段々と気分が晴れてくる。

 午後2時、鳴門市着。最初に合うAさんとの約束には2時間遅れ。ずぶ濡れの私にタオルを貸してくれて、熱いお茶、昼食をいただく。とんでもなく幸せな気分になる。実は朝食を食べたきり、固形物を口にしてなかったの。椅子に座ると根性抜けて、二度と走ろうと思わなくなりそうだったので、敢えて空きっ腹を抱えていたもんですから、いただいた食事の美味しいことと言ったら!! 昼食をいただきながら、よもやま話なんかして幸福な気分は一層強くなりました。

 午後4時過ぎ、教習所での転倒仲間だったOさんちを目指して出発。方向音痴の私は、Aさんからとてもわかりやすい道を教えてもらう。雨は殆ど上がっている。徳島市内、県庁前はひどい渋滞で、バイクでもすり抜けできず、しばし立ち往生。県道に入り、宿を提供してくれるOさんちへ。帰宅車輌の渋滞の車列の横をすり抜ける。これぞ、バイクの醍醐味。むちゃくちゃ気分いいです。約束の時間より、1時間遅れ。

 「この雨の中、ホンマに来るとは思えへんかってん」

と、笑われる。玄関先で雨天用装備を解く。ブーツカバーを逆さにすると、水がバシャバシャと出る。ブーツの中にも水がたまっていたので、古新聞を丸めて入れ、明日に備える。手袋は絞ると滴が落ちるくらい濡れているので、やはり新聞紙に挟んで吸水処置。雨合羽の中身、上半身は首周りと袖がびしょ濡れ。ジーンズの膝から下もびしょびしょ。あんまり濡れているので、玄関先で乾いた服に着替えた後、夕食をご馳走になる。

 Oさんのダンナもライダーで(限定解除、1100CCの愛車を乗りこなす)、その日の出来事を話すと、呆れられた。

「無茶しますねぇ……。俺やったら、迷わず家にいてますよ」

と、笑われる。私も同感だったので、反論せず。Oさん、免許を取ったのはいいけど、ダンナの仕事の都合で引っ越したりしたので、ペーパーライダーのままで、週末にバイクが納品だとか。教習所のバイクと同じHONDAのCB400。ワインレッド。彼女は私より10センチくらい背が高いので、両足つくんだな。だから400ccだって乗れるのよ。

「ああ、そう言えば教習所で停車してる時、フラフラしてましたよね」

と、古傷に触れられてしまう。これも事実なので反論できない。そう、私がヤマハのルネッサにしたのは、『両足が地面につく』という、極めて現実的な理由だったんですね。片足の爪先しかつかなかったHONDAのCB400を、教習所の外で乗ろうとは思いませんよ。重たいし……。

 風呂に入って寝る。翌日は快晴。車に乗せてもらって、軽く観光。昼食後、帰途につく。Oさん夫妻になるとI.C.まで先導してもらい、鳴門橋へ。天気が良いので気分は最高。平日の昼間ということもあり、道路は空いてるし、雨具を着なくていいのがいい。生乾きのブーツも、風のお陰ですっかり乾いたし、前日とは比べものにならないほどの良いコンディションである。

 さて鳴門大橋も横風で有名で、瀬戸大橋よりひどいという話だと聞いたことがありましたが、それは事実でした。でも晴れている分だけ、前日の瀬戸大橋よりとは天と地ほどにも違う快適さを満喫。しかし、上体は相変わらず伏せの姿勢のまま。淡路島に入り、明石大橋、3号神戸線を経て阪神高速環状線、そして最寄りの出口へ。走行時間は200キロほど。前日は600キロ。いかに遠回りをしたかを痛感しつつ、まぁ、良い経験にはなったと己を慰めて、単独高速道路走行と雨天走行訓練は終了。数日間、筋肉痛に泣く。腕と背中と太股。無意識のうちにバイクにしがみついていたかがよくわかりますね。

 エライ目にあった割に、全然懲りてません。しんどい、しんどいとか思うんですけど、運転するの楽しいです。ぼちぼちと、ツーリングに行きたいと思います。7月は北海道。来年の春くらいには、九州を襲撃する予定です。九州方面の方、遊んだってください。


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