北海道は、土砂降りだった
北海道は記録的な大雨だった。特に南東部は熱帯低気圧を前線が刺激したおしたため、豪雨である。小樽から高速道路を使って日高を目指すが、札幌を過ぎた頃から雨が強くなる。最寄りのパーキングエリアで準雨天装備を完全雨天装備にバージョンアップ。出発して数分後、雨が本降りになる。どんどん雨足が強くなり、日高出口に着く頃には見事な豪雨になっていた。
襟裳岬に至る国道235号線は海沿いの道路である。途中、サラブレッド銀座と呼ばれる牧場がたくさんある地域も通過する。そこには日高ケンタッキーファームをはじめとする、競馬ファンの垂涎の的となっている牧場が並んでいて、当然牧場に放されているサラブレッドも見ることができるはずだった。そう、あくまで『はずだった』のである。国道235号線は初めて走る道だし、北海道と本州の道路状況はかなり違うと聞いていたので、時速70キロ前後をキープ。地元ナンバーの車にビュンビュン抜き去られるんですがね、手袋に当たる雨粒が痛いのよ。当然、太股も痛いの。アスファルトには雨が跳ね返る白い水しぶきが踊ってるしな、マジで豪雨なんすよ。で、こんな雨の中、サラブレッドの姿は当然見えない。観光できないのよ。っつーか、そんな気分にはとてもなれないのさ。走るだけで精一杯な気分を抱えて、とにかく1日目の宿泊予定地まで行き着いて、襟裳岬まで足を伸ばすかどうかは、それから考えることに決める。
宿泊地の静内町に到着。給油と休憩。雨は相変わらず。
雨合羽を着ているとは言え、雨はあちこちからジワジワと内部に侵入する。初夏の北海道はそれなりに気温が高いので、うっすらと汗もかく。で、雨合羽の中はかなり蒸し暑い。そういう状況で数時間が経過すると、自分が臭くなるんである。そう、雨合羽のジッパーを下げた途端、生乾きの雑巾の臭いが鼻を直撃するのだ。自分で自分が臭く感じられる事実に愕然とするのよ。嫌なもんです。ええ、もう、すっごくイヤ。
早朝小樽を出たので、昼食にはまだ早い。ええい、もうこうなったら、どんだけ濡れても恐かないわい!! 半ばヤケクソ気味に襟裳岬を目指す。
雨はどんどん激しくなり、岬に向かう分岐を過ぎると霧が発生。霧はどんどん濃くなり、しまいには濃霧に変わっていた。数メートル先は乳白色の闇の中である。岬への道はコーナーだらけだったりするので、カーブの先が見切れない!! こういう状況は自動車に乗ってても恐いけどもな、バイクはもっと恐いんだ。オマケに豪雨。カーブで下手にブレーキをかけるとスリップするのは目に見えてるので、ギアを落としてエンジンブレーキで減速を試みる。で、車体はできるだけ倒す。この状況で下手にブレーキをかけ、教習所で大ゴケしたことがあるので、ブレーキはおまじない程度に留める。カーブはまだ終わらない。どこまで続いているのかわからない。ああ、少し半径が小さくなったじゃないのと、バイクを更に倒す。司書の腕ではこれ以上バイクを倒せない。ああ、どうしよう。カーブを曲がりきれなくてセンターラインを飛び出して、対向車と正面衝突するかもしれない。いや、外側に飛び出して山肌に激突、或いは断崖絶壁にまっ逆さま、私ってばカナヅチやんか……などと縁起の悪いことを考えながら必死にバイクのバランスをとり続ける。この時の心境は、まさに藁をも縋るってヤツです。ええ、マジで。
四苦八苦して襟裳岬の先端にある土産物店兼食堂に到着。土砂降り。食堂の窓際の席から外を見る。目に入るのは濃霧だけ。なんのために来たのやらと、情けない気分に浸る。雨合羽は脱げない。そう、臭いんだ。飲食店の中でこの臭いを外部に漏らすのは、さすがに公序良俗に反するだろうと考え、敢えて雨合羽を着たままテーブルに。とりあえず『えりもラーメン』を注文したのだが、ガスレンジの調子が悪いとかで、修理中だと言われる。あたたかいものは作れないと言われ、とりあえず熱いお茶をいただく。雨に濡れて寒かったんですよ。そう言ったら、店のオバサンが同情してくれて、朝のミーティングでスタッフのために入れておいたお茶の残りを分けてくれました。20分後、ガスが直ったとの知らせを受け、『えりもラーメン』を再度注文。塩味のスープ、つぶ貝、うに、海草、チャーシュー、モヤシ、ネギ、シナチクがトッピングされた、なかなか豪華な一品。缶コーヒーを飲みながら、雨と霧の様子をうかがうも、好転する兆しは全くなし。仕方がないので宿に向かうことに。こうなると、温泉だけが楽しみだったりする。
相変わらずの濃霧の中を走る。コーナーの連続では絶望的な気分を何度か味わい、道の駅の自販機のホットコーヒーで暖をとりながら静内町を目指す。午後2時過ぎ、静内町民療養センター(だったと思う)に着くが、観光が全くできなかったため到着予定時間よりもかなり早く到着してしまい、部屋の用意ができていないと言われる。しかしフロントの女性は濡れネズミ同然の司書を見て同情したのか、2時間ほど温泉に入ってくるように言う。その間に部屋の用意をしてくれるそうだ。素直に温泉に入ったけども、疲れのせいか長湯はできませんでした。1時間で入浴を切り上げ、閑散としたロビーの隅のソファで仮眠。熟睡しているところを起こされ、部屋に案内してもらう。で、布団を引っぱり出して更に仮眠。それから翌日、会う約束をしているミツグさんに電話。予想外の雨の中走ることになったので、心配をかけているだろうと思ったのだが、案の定心配してくれていた。しばしお喋り。で、もう1度温泉に入って読書。その後夕食をいただき、小休止の後、再び温泉へ。
何故、何度も温泉に入るのかというと、室内には明日も着なくてはならない服を干してあるし、水分を若干帯びた持ち物を広げて乾かしてるので臭いのよ。しかも布団分のスペースしか空いてないしな、しょうがないのだ。とりあえずズボンだけでも乾かさなくては、気持ち悪い。
翌朝、10時過ぎに出発。雨はまだ降り続いている。古新聞を突っ込んで乾かしたブーツも、扇風機の風を当てて乾かした服も、またびしょびしょになるのね。などと思いつつ、出発。サラブレッド銀座にはやはり馬はいなかった。苫小牧の辺りでは雨足が最高潮になり、やけっぱち気分は臨界点に達している感じ。とにかくあちこちふらついて、フラフラするのにも飽きたので位置を確認した後、高速道路を目指して移動。途中のサービスエリアで昼食と給油。
札幌が近づくに連れ、雨足が弱くなる。市内に入る頃には雨は上がっていた。その後、どんどん気温は上昇。札幌市内は碁盤目状に道路が配されているので、そういうのに慣れない司書は迷子になって、札幌駅から徒歩10分のホテルを目指すというのに、2時間経ってもたどり着けない。道っぱたの人に尋ねながらさまよって、ようやく到着。荷解きをしてすぐに、着替えを買いにいく。おお、そうよ。臭いのよ。二日間でかなり臭っていた服がね、札幌市内の気温上昇のお陰で更に臭くなってんのよ。夜にはオフ会。飲食店から追い出されないためにも、臭わない服を買わなくっちゃ。駅前の店で服と雪駄を買ってホテルに戻る。シャワーを浴びて着替えを済ませ、夜に備えて仮眠をとるためにベッドに沈みこんだ。
なんか結局、走ってるだけやったね。それも雨の中。しかもざざぶり。
HOME 司書箱 ツーリング記録 NEXT