続・戦士たちの休息


  草波の長ったらしいイヤミと説教をどうにかやり過ごし、7人の戦士たちは疲れた身体を癒すために、また次の任務までのささやかな休暇を楽しむために帰途につき、世界と飛葉も同様に、深夜の家路を急いでいた。

「世界……」

世界は視線で言葉の続きを促す。

「これから……あんたん家に行ってもいいか?」

「独り寝が寂しいのか?」

「ばっ……そんなんじゃねぇよ。けど……」

「そりゃ残念だ。俺は一人で寝るのは物足りないと思ってたんだがな」

世界の言葉に飛葉は頬を紅潮させて反論しようとした。しかし世界に抗議の言葉が向けられることはなく、世界の耳に届いたのは、俯いたまま飛葉が口にした

「それは……同じだ……けど」

という言葉だった。世界は飛葉の肩を引き寄せると

「部屋に着いたらまず、風呂だ」

と言った。

◇◇◇

 「飛葉……お前はどうして、いつもいつも滴が垂れる頭のままで出てくるんだ?」

滴の落ちている頭から湯気を出している飛葉を見て、世界が呆れた声を出す。飛葉は何も答えず、布団の上に胡座をかいている世界の隣に腰を下ろし、その肩に頭を預けて目を閉じた。

「おい……俺の肩をびしょ濡れにする気か」

「なんでだろうな。あんたにくっついてるだけで、俺は妙に安心しちまう」

世界は飛葉の肩を抱き寄せ、濡れた髪に頬を寄せる。

「今日だってそうだ。焦りまくってたはずなのに、攻めることしか頭になかったのに、あんたに寄っかかった途端に気分が落ち着いてきて、休んだほうが得策だって、みんな疲れてるんだってことに気がついた」

「そういうのをな、『年の功』って言うんだ」

世界が笑みを含んだ声で言った。

「こうやってくっついてるとよ、あんたの声が耳から聞こえるだけじゃなくて、もっとこう、近くから響いてくるみたいだ……」

「なら、このままおとぎ話でもしてやろうか?」

「なんだよ、それ」

そういって笑う飛葉の肩を抱く手に、力が込められる。

「俺……あんたには甘えてばかりだ。わかってんだ。あんただけじゃない、他の連中にも甘えてばっかで、頼ってばっかで……。リーダーなんかやれんのも、あんたが、仲間がいてくれるからだ……」

飛葉の肩を抱いたまま、世界はもう片方の手で飛葉の頬を包んだ。

「俺は……他の連中も、命を預ける価値のない人間の下で動くほど世間知らずでもなけりゃ、お人好しでもない。お前とならどんな地獄からも生きて戻ることができる。そう信じられるから、お前と一緒にいるんだ。それを忘れるな。お前はよくやってる。俺たちのリーダーは、お前しかいない」

そう囁き、世界は飛葉の頬に、こめかみに、額に静かな口づけを落としていく。飛葉は目を閉じ、世界に全身を預ける。

「それから、キツイ時には俺に言え。八つ当たりしてもかまわん。今夜みたいに甘えてもいい。それでお前が楽になるなら、俺を使え」

「俺といると、あんたは貧乏くじを引いてばっかりだ」

自虐めいた飛葉の言葉を否定するように、世界は飛葉の唇を塞いだ。包み込むような長い口づけの後、世界が言った。

「俺にとっては、お前自身が二つとないほどの大当たりだ。お前とこうしていられるなら、少々のいざこざなんぞ何でもありゃしないさ」

神妙な面もちで世界を見上げている飛葉に、世界が微笑む。

「まったく、お前はどうしてこうも、涙もろいんだ?」

「なっ……泣いてなんかねぇよ」

そう言うと、飛葉は慌てて目をこすり始める。そして世界は飛葉の身体をありったけの思いを込めて抱きしめた。

「……世界……苦しい……」

「無傷で戻れたんだ。これくらい、我慢しろ」

互いの無事を確かめるかのような世界の抱擁に、飛葉は少しずつ精神の緊張を解き始める。そして瞼を擦っていた両手を世界の背に回し、どんな時も身をもって飛葉を守り続けている男を抱きしめた。

◇◇◇

 そうすることが自然だというように、二人は唇を深く重ねた。何度も口づけを繰り返しながら、世界の掌は飛葉の肌を辿り、その動きに応えるように飛葉の身体は熱を帯びていく。

「飛葉……悪いが今夜は、加減ができんかもしれん」

「いいさ……俺も、あんたがすごく欲しい」

飛葉は世界の背に回した腕に力を入れて身体を密着させ、露わになった欲望を隠そうともせずに世界を求めた。世界もまた自己と飛葉の存在を、そして互いの絆を確かめるかのように強く激しく飛葉を抱いた。

 互いの無事を確かめるかのような一度目の激しい情交の後、彼らは再び求め合った。二度目の抱擁に生存本能を思わせるような激しさはなく、肌を合わせている相手を慈しむような穏やかなものになっていた。全身に満ちる歓びを楽しんでいるかのような交わりは、二人をこの上なく幸福にする。時折こぼれる飛葉の甘い、吐息に隠すかのように密かな己を呼ぶ声が、世界の心と体を満ち足りた思いで包み込む。飛葉と共にあること自体が、自分にとってこの上なく幸福なことなのだということを伝えようと、世界は飛葉の身体をゆっくりと引き寄せた。

◇◇◇

 「明日、チャーシューのバイク、取りに行かなきゃな」

「行きは俺のバイクを出してやろう」

「ああ、助かるよ」

「帰りは少しばかり、遠回りをしてみないか?」

「何か、あるのか?」

「確か、あの近くにいい温泉があったはずだ」

「いいねぇ、それ。その帰りには美味いもの食いに行こうぜ」

「ああ、そうしよう。さ、もう寝るぞ。明日も忙しい」

「こんな忙しさなら、いつだって大歓迎だ」

飛葉はそう言って笑うと、いつものように世界の胸元に鼻先を擦り寄せるようにして目を閉じた。


ももきちさんのプロットから生まれた作品の続編。
いつも強くて頼りになる飛葉ですが、まだ17歳(推定)です。
時には誰かに甘えたくもなるでしょうし、
そういう存在がいないとかなりツライ。
世界なら年齢差も手伝って、時には素直に甘えられるかもしれません。


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