15年後

「ビクトールさん、太ったんじゃないですか」

と、グレミオが言った。

「俺のどこが太ったって言うんだ? ああン? これはな、筋肉だっ!」

ビクトールが噛みつくように答えると、

「でも……」

と、グレミオが歯切れの悪い呟きを漏らす。

「でも、何だ?」

「筋肉は、こんな風に掴めたりはしないと思いますよ」

グレミオが笑いながらビクトールの腹を摘み、軽く上下に動かしてみせる。

「お前だって目尻!! シワになってんぞ」

ビクトールがグレミオの両の目尻に親指を当て、外に向かって力を入れながら笑う。

「これは笑いジワっていうんですよ。幸福の印だって、坊ちゃんが言ってました」

憮然とした様子でグレミオが反論したのをきっかけに、二人は笑いながら再びシーツの上に倒れ込む。

互いを慈しむように触れ合い、彼らは久方ぶりの逢瀬の証を残そうとするかのように相手の肌を確かめ合う。微笑みの形のままの唇を重ね、睦言を交わし、肌の温かさを感じ合うのを心から楽しめるのが嬉しかった。出会った頃の激しさは二人とも既に失っていたが、それを補ってあまりある穏やかさが胸に沁み入るようだとグレミオは思う。

「お前の坊ちゃんはどうした」

「実は……」

グレミオの頬に朱が射す。

「どうも、その、いつの間にか私達のことを知っちゃったみたいで、その……今夜は宿の部屋を追い出されてしまいました」

「そりゃぁ、粋な計らいだな」

ビクトールがグレミオの項を食み、その刺激にグレミオの身体が緊張する。

「私が……どれほど恥ずかしかった……」

甘い息を零しながらグレミオが恨み言を口にしたが、ビクトールはどこ知らん顔でグレミオの肌を唇で辿っていく。

「!!」

突然、グレミオが声にならない声を出し、ビクトールを突き飛ばした。

「ああ!!!!!! 痕!! 今、痕をつけましたね!!!!」

「今夜の記念にな」

ビクトールは顔色を失ったグレミオがシーツの上で茫然自失となっているのをニヤニヤと眺め、

「お前の大事な坊ちゃんは、きっと見て見ぬ振りをしてくだるさ。もう、いっぱしの男になったようだからな」

と言い、気力の大部分を失ってしまったグレミオを組み敷いた。


15年後の熊と付き人さん。
坊ちゃんに事実をさり気なく話して、
ことに及んだのはビクトールの作戦。
何も知らないグレミオだけが赤くなったり青くなったり。
多少腹の出たビクトールでも、
小ジワのできたグレミオでも愛しく思える私は、
そろそろ人間としてヤバイかもしれません。

つか、オヤジ、万歳!!


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