ま ち ぶ せ 2 翌日、リュミエールは女王候補たちの育成の様子を見に、王立研究院に立ち寄った後、占いの館に足を運んだ。そこで会った栗色の髪の女王候補におまじないを頼まれた後、リュミエールは館の主にヴィクトールとティムカについて占ってもらった。ヴィクトールと最も親密度が高いのは、ティムカだった。そしてティムカと一番親しい人物はヴィクトールである。リュミエールは強いショックを受けた。先週は確かに、ヴィクトールと最も親密な間柄にあったのは自分であったはずなのに、知らぬ間にティムカにその座をとって変わられている現実を受け入れられない。彼は先日、カフェテラスで談笑していた二人の姿を思い出し、ヴィクトールはリュミエールだけでなく、ティムカともよく会っているのだという事実を再認識した。ティムカには何の罪もない。それは分かってはいるが、理性では受け入れても心は受け入れることを拒否している。穏やかな微笑みを浮かべ、リュミエールは占いの名手であるメルに話しかけた。
「ヴィクトールとティムカは、随分と仲が良いようですね」
「うん。ヴィクトールさんって、おっきくてやさしいから、マルセル様やゼフェル様、それにランディ様ともすっごく仲がいいんですよ。メルもヴィクトールさん、大好き!!」
「そうなのですか。でも……」
「どうしたんですか。リュミエール様」
「ティムカがヴィクトールを慕っているのは良いことだと思うのです。でもティムカはもっと年の近い、マルセルたちと仲良くした方がいいのではないかと思うのです。あまり大人の中にばかりいては、彼の無邪気さや元気さが損なわれてしまうのではないかと、心配なのです。急いで大人になる必要はありません。人は皆、時がくれば大人になるものなのですから」
「メル、難しいことはよくわからないけど、リュミエール様がそうおっしゃるなら、きっと正しいと思います」
疑うことを知らないメルは、リュミエールの言葉を全面的に肯定した。その時、占いの館にもう一人の客人が現われた。
「おやー、リュミエールではありませんか。何かあったんですか。元気がないように見えますが……」
間延びした口調で地の守護聖ルヴァが、リュミエールに話しかけた。
「あ、ルヴァ様。あのね、リュミエール様がティムカさんはマルセル様やゼフェル様と仲良くした方がいいんじゃないかって、心配してらっしゃるんです」
「あー、ティムカは歳の若い守護聖たちと仲は良かったはずですよね。何もリュミエール、あなたが心を傷めることはないんじゃありせんかー」
鋼の守護聖・ゼフェルの世話役を引き受けているルヴァは、教え子から彼らが親しくしていることを聞いていたので、リュミエールを安心させようと、にこやかに答えた。
「ええ、私も彼らが親しくしていることは、よく存じております。今、メルに占っていただいたのですが、ティムカと一番仲が良いのはヴィクトールなのです。ティムカがヴィクトールを慕うのは良いことだと思います。けれど彼は今、あまり歳の離れた者よりも、歳の近い人と親しくし方が好ましいのではないかと思ったのです」
「あー、なるほどー。あなたのおっしゃることは、もっともかも知れませんねー。それに行儀のいいティムカと一緒にいるうちに、ゼフェルももう少し、おとなしくなってくれるかも知れないしー。そうなれば、私の悩みも解決することですし……」
ルヴァは目を細め、何かを考えているようだった。数十秒の沈黙の後、ルヴァはリュミエールに言った。
「こうしては、どうでしょうかねー。ティムカとゼフェル、マルセル、そしてランディたちの相性を、それぞれ最大限まで引き上げてはー」
「それは……」
「んー、ヴィクトールとティムカは今でも充分仲が良いですし、ヴィクトールは立派な大人ですから、ティムカとけんかなどしないはずですよねー。でも歳若い人たちは、ささいな理由で仲違いしないともかぎりません。若いだけに譲歩するのも難しいでしょうから、今のうちに相性と親密度を上げておいてあげればどうでしょう。やはり、若い者は若い者同士の方が楽しいでしょうしねー」
「それは……、いいかも知れませんね」
「では、さっそくお願いしますね、メル。あの4人の相性が100になるまで、毎日おまじないをしていただけますかー」
「はい、ルヴァ様」
明るいメルの声を遮るように、リュミエールが異を唱えた。
「でもルヴァ様、彼らの了解も得ずに、こんなことをしてもいいのでしょうか」
「いいんですよー。悪いことをするのではなく、良いことをするんですから。それにリュミエール、誰かがけんかを始めたりしたら、あなたが一番心を傷めるではありませんか。私はあなたの悲しそうな顔を見たくないんですよー」
「ルヴァ様……」
「では、メル、今のお願い、よろしく頼みますよ」
「はい、ルヴァ様、リュミエール様」
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