ゼフェル君の宇宙征服計画1

 「おい、ルヴァ。ちょっとこれ見てくれよ。俺様の自信作だぜ!」

息を弾ませて地の守護聖の部屋を訪れたのは、器用さを司る鋼の守護聖ゼフェルだった。ルヴァはゼフェルが守護聖の任に就いた時から彼の指導役を務めているため、普段から親しくしている。そのため機械いじりを得意とするゼフェルの作品を、誰よりも早く目にする機会が多い。ゼフェルの作る機械は小さなロボットやゼンマイを動力とした、小さな作品が多いのだが、今日彼がルヴァの執務室に持ち込んだものは、ゴーカートほどの大きさだった。

「あー、これはずいぶんと大きなものですねー。それに何ですか、この長い棒は」

「これか? フフン、これは17ミリ機関砲だ。300発連射もできる優れもんだゼ。モーゼルのシステムをアレンジしたから、単発発射もOKだ。どうだ、すごいだろう」

「はぁ、確かにこれまであなたが作ったロボットよりも、重火器面では優れているようですが、こんなに前時代的な武器を作ってどうするつもりですか? 聖地では何の役にも立ちませんよー」

「おい、おっさん。俺様の最新作が時代遅れとは言ってくれるじゃねーか。どこがどんな風に時代遅れなんだよ!!」

あまりのゼフェルの激怒ぶりに、ルヴァは慌てた。

「どこがって、このレベルの武器は、そーですねー、王立派遣軍のレベルを10とした場合、せいぜいレベル3くらいにしかなりませんよ。最近では普及版の戦車だって20ミリ連射機関砲や120ミリの砲弾を標準搭載しているんですからねー。ところでこれは、戦車と呼べるものなのですか」

「お、おう、そうだよ」

「装甲に使用した鋼板は、厚さ何ミリですか」

「5ミリだよ」

「そうですかー。やはり実戦には使えませんね。最低でも20ミリの厚さがなければ、敵弾をやり過ごすことは不可能です。大昔の戦争の時、最新鋭の戦車の装甲の厚さは最大50ミリ、さらに表面にセメントを塗って補強したそうです。これくらいでようやく100ミリ砲弾の貫通を防ぐことができたそうですよ。それに銃口は固定されているようですから、この戦車ではせいぜい、補給物資を届けるのが関の山というところでしょうかねー。あ、荷台がないからそれもできませんねー」

ルヴァの説明を聞いたゼフェルの機嫌はかなり悪くなった。彼はここ数週間というもの、昼夜を問わずこの戦車の製作に心血を注ぎ、ようやく完成したばかりなのだ。それを頭から役立たず扱いされたので、思わず大声を出してしまった。

「だったら、聞くけどよー。あんたならどんなのを作るってんだよ」

「そ、そんなに怒らないでください。私はあなたに不愉快な思いをさせるつもりはないんです。これは確かにあなたがいつも作るロボットよりも数段良いできだとは思います。ただ戦車だと聞いたものですから……」

ゼフェルはじっとルヴァを見つめている。怒りに燃えた赤い瞳は、ごまかされはしないと語っている。平和主義者のルヴァは兵器についての講義を教え子にしたくはないが、ゼフェルの無言の圧力に圧倒され、ぽつぽつと話し始めた。

「そう……ですね。まず装甲の厚さを15〜25ミリに設定します。それから前後左右の面に硬質セラミック製のカバー、これは直接装甲に装着してもかまいませんが、重量があるので着脱可能にしたほうがいいかもしれません。あまり重くなると、湿地や砂漠での稼動力がゼロに近くなってしまいますからね。それからこの銃口は中心から左右90度旋回するようにすべきでしょうね。でないと敵が移動した際の応戦ができません。砲弾も最低でも100ミリないと、敵にダメージを与えるのは難しいと思いますよ。あ、これはあくまで、王立派遣軍の普及版戦車に対する応戦力を想定した場合です。最新鋭の戦車に対しては、あまり効果は期待できません」

 ルヴァの講義は上の空で聞くことの多いゼフェルが真剣に、そして静かに自分の言葉に耳を傾ける様子を見て、ルヴァは少し嬉しくなった。そしてつい、余計な一言を口走ってしまったのだ。

「あー、ゼフェル。気を落とさないでください。初めて作ったにしては良くできていると思いますよ。少し工夫するだけで、王立派遣軍と互角に戦えるものが作れるはずです。何しろあなたは器用ですからねー」

「なぁ、ルヴァ。装甲にセメントだのセラミックだのをつけるのは、何でなんだ」

「あ、それはですね、戦場には地雷が埋設されていることが多いんです。中には磁力を利用して、戦車などの陸上兵器の底面につくものもあるそうで、それを防ぐために磁石を寄せ付けない物質を表面につけるんですよ。ま、今ではそういったことは、あまり行われないようですが」

「なるほどね。いいこと聞いたゼ。さすがルヴァだな。だてに知恵を司っちゃいねーや。サンキュ。じゃー俺、コイツの改造があるから行くわ」

 口の悪いゼフェルが珍しく礼を言ったものだから、ルヴァはすっかり舞い上がってしまい、ゼフェルがいきなり兵器を製作した理由を確かめることを失念していた。と、いうよりも、彼は教え子が邪な考えを持つわけがないと、頭から信じ込んでいたので、そんな必要性も感じてはいなかったのだ。だから、いつものようにのんきに

「それにしても、ゼフェルはあんなものを造ってどうするつもりなんでしょーねー」

と、ニコニコと独り言を口にしていた。
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