受 難 2
「何故、この者と同じ病室に入らねばならんのだ。部屋なら、他にいくらでもあるではないか!!」
白い壁、白い天井に囲まれた二人用の病室に、ジュリアスの怒号が響いた。
「あ〜、ジュリアス〜、同じ病気のあなたとクラヴィスが同じ病室にいてくれたほうが、看病や診察の時に便利なんですよー」
「私は不愉快だ。屋敷で療養する」
「それはいけません、ジュリアス」
いつになく厳しい調子のルヴァの言葉に、ジュリアスは不覚にも少々ひるんでしまった。そんなジュリアスをしり目に、ルヴァは言葉を続けた。
「宮殿や守護聖の館には、外界から訪れている人も多くいます。その人たちに病気を移す気ですか。中には水疱瘡に耐えられない体力しか持たない家族を持つ人がいるかもしれません。その人がウィルスを家庭に持ち帰ったらどうなると思います。ね、とりあえず2週間は、この部屋で療養してください」
「……相変わらず、融通のきかぬ男だな……」
からかうようなクラヴィスの言葉に腹を立てたジュリアスは、無言のまま布団をひっかぶって狸寝を決め込んだようだ。そんな様子を微笑ましげに見た後、ルヴァがクラヴィスに尋ねた。
「クラヴィス、あなたはずいぶんと落ち着いていますが、具合はどうなんですか」
「そうだな……発疹には痒みがあるな。頭の中にも発疹ができているのか、枕に当たっている部分の所々に痛みを感じるようだ。それから……熱のせいか頭痛と悪寒がする……」
この上なく面倒そうに伝えられたクラヴィスの答をきいたルヴァは、
「あー、水疱瘡の一般的な諸症状ですねー。心配はいりませんよー。先ほどお話しした通り、4時間ごとに抗ウィルス剤を飲めば、発疹が増えるのをある程度防ぐことができますしー、発疹の痒みもやわらぐはずですからね。あ、お二人とも痒みがあるからといって発疹を掻いたりしないでくださいね。痕になってしまいますからねー」
静かに扉をノックする音のすぐ後に、リュミエールが病室に入ってきた。
「あー、リュミエール。皆の状況はいかがでしたか」
「水疱瘡に罹っていない守護聖はおりません。ゼフェルが麻疹に、それからオリヴィエがおたふく風邪にはまだ罹っていないと言っていました。女王陛下と女王補佐官殿は風疹以外は全て終わっているとのことでした。ただ風疹は予防接種を受けているので、免疫はあるはずだとおっしゃっていました」
「そーですかー。では、私たちに感染する心配はありませんねー。今後は私とリュミエール、オスカー、そしてオリヴィエの四人でローテーションを組んで、二人の看病をすることにしましょうか。ゼフェルやマルセル、ランディたちに病人の看病は向かないでしょうからねー」
「ええ。ルヴァ様」
水疱瘡に罹っている本人たちの意向が全く汲まれないまま話が進むのを、ジュリアスは熱に浮かされた、ぼんやりとした意識の中で聞いていたものの、それに異を唱えるだけの気力も体力も残ってはいない。彼はまるで石が水底に沈むかのような感覚を覚えながら、深い眠りに落ちていくばかりであった。
ジュリアスとクラヴィスは静かに、深い眠りから目覚めた。ジュリアスの傍らにはオスカーが、そしてクラヴィスの傍らにはリュミエールがいる。
「さ、クラヴィス様、お薬のお時間です。夕食の時間にはまだ早いのですが、お薬を飲む前に何か召し上がったほうが良いそうです。ライチなどはいかがですか。よく冷えておりますが……」
「……もらおう……」
「では、私がお口元までお運びいたしますね。どうぞ、口をお開けになってください」
クラヴィスだけに対しては、どこまでも献身的なリュミエールである。一方、オスカーも尊敬するジュリアスの世話をかいがいしく焼いていた。
「ジュリアス様、こちらに冷菓をご用意いたしました。ご自分でお召し上がりになりますか」
「もちろんだ。私は食べる時に人の手を患わす程、弱ってはおらぬからな」
「はっ、どうぞ。あ、スプーンはこちらに……」
二人はおやつを口にした後、抗ウィルス剤を飲み、再び眠りに落ちた。
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