聖者たちの晩餐 2


 ルヴァの言葉により、本格的な話し合いが始まった。

「私はセイランに決ーめたっと。前回は元気はあったけど神経が太いヤツだったから、後でサクリアのバランスを直すのが大変だったんだもーん。リュミちゃん、芸術を愛するアンタもセイランがいいんじゃない?」

「私には……セイランは少々荷が勝ちすぎるように感じますし、むしろヴィクトールの強い精神力に惹かれるのです。それよりもルヴァ様が一番先に選ばれてはいかがですか。前回も、その前も私共に先を譲ってくださったのですから」

「あー、私はいいんですよ、リュミエール。それよりもランディ、ゼフェル、マルセル。あなた達が先にお決めなさい。あなた達はまだ成長期なんですから、誰よりも充実したエナジーを摂取しなくてはなりません」

ルヴァの言葉に三人の少年守護聖は顔を輝かせたが、遠慮しているのか、なかなか自分の希望を言い出そうとはしない。その様子を見てクラヴィスがうっそりと口を開いた。

「……経験が浅いお前たちが最もバランスの良い部分を吸収したほうがいいだろう。さっさと決めることだ……」

普段無口なクラヴィスの言葉に促され、最初に口を開いたのはゼフェルだった。

「俺はヴィクトールにするゼ」

三人の教官の中で最も体格の良い者を選んだゼフェルの目的はわかりやすい。

「俺は……やっぱり、一番最後でいいです」

「どうしてですか、ランディ」

リュミエールが風の守護聖に訊ねた。

「俺には精神も感性も品位も足りないと思うんです。だから、どれをもらっても効果があるはずですから」

「なるほど。ではランディ。そなたは最後に残った者に決めるとよいだろう。その替わりに、誰よりも先にエナジーを吸収するように」

ジュリアスの言葉に、ランディは嬉しそうにうなずいた。

◇◇◇

 宇宙を支える女王と女王補佐官、そして守護聖たちはそれぞれに異なる種類のサクリアの泉を体内に宿している。守護聖の力は宇宙の構成要素であると同時に、世界を存続させ、人々の精神や活動に様々な影響を与える。女王の存在は生命の発生を促し、その力は宇宙を支え、その意志は世界をより良い方向へと導く。宇宙の進行を司る二人の女性と九人の守護聖はサクリアを有し、サクリアの作用によって永遠とも言えるほどの長い歳月を生きる彼らが住まう聖地は、外界よりも遥かに緩やかな時の流れの中に存在している。限りなく不老不死に近い彼らの生命は、通常は普通の人々と同じ日々の食事で摂取する栄養素で維持できるのだが、女王試験や宇宙のどこかで生じたトラブルの収拾のために、多くのサクリアを使うと体力を著しく消耗してしまう。それがひどくなると、宇宙を維持するために常に使われる最低限のサクリアを放出することさえ難しくなる。その現象は一時的なものに過ぎないのだが、聖地ではわずかな時間であっても外界では数世紀単位のものとなってしまう。それ故、聖地には時折、平均的な人間よりも強く輝く魂を持つ人間が招かれることがある。彼らは宇宙の滞りのない運行のために、その輝く魂から溢れるエナジーを守護聖に差し出すのだ。一般人の中にサクリアの糧となるほどの輝きを持つ魂を有する者は稀にしかいないので、聖地に召還されるのは一人の場合が殆どである。たった一人の人間のエナジーを9人の守護聖が貪るため、召還された輝く魂の持ち主の大部分がその場で廃人同様になってしまい、誰も立ち入ることのできない宮殿の奥にある地下牢に、その生命を終えるまで幽閉されるのが常であった。運良く生き残った者は故郷の惑星に帰されることになっているが、無事に天寿を全うしたという報告が王立研究員に届けられることはない。彼らの多くがひっそりと、短すぎる一生を終えるのだ。

 新しい宇宙を導く女王の選出のために招かれた教官は三名。強靭な精神力の持ち主であるヴィクトール、類稀な鋭い感性を持つセイラン、そして生まれながらに王者としての優れた資質を有するティムカたちは全員、まばゆいばかりに輝く魂の持ち主でもある。彼らは女王候補を教え、導く役目のためだけに聖地に招かれたのではない。それぞれの特質を遺憾なく発揮し、二人の女王候補の資質の向上に貢献した後の彼らのもう一つの役割は、量・質共に充分なエナジーを9名の守護聖全員に差し出すことである。9名の守護聖は女王試験の様子を見ながら、誰の魂が最も自分のサクリアを高めるのに有効であるかを観察していたのだ。そして9名の守護聖は女王と女王補佐官に、吸収した魂を白いサクリアに変えて贈り、女王はその力を得て、より強い力を宇宙へと発するのであった。

 「じゃぁ僕は……ティムカにします。だって僕、ティムカが大好きなんだもん」

マルセルは女王試験中に親しくなった熱帯惑星の王太子を選んだ。前回、エナジーを吸収する順番が最後だったルヴァを全員が促したため、彼は数十秒の沈黙の後に言った。

「私はヴィクトールにさせていただきます。彼の強靭な精神力はきっと、私のサクリアに良い影響を及ぼしてくれるに違いありません」

次に口を開いたのはジュリアス、そしてクラヴィスが言葉を継いだ。

「私はヴィクトールを」

「……ティムカにしよう」

守護聖の中で中堅の位置にある三人の守護聖が一瞬、顔を見合わせた後、オリヴィエが面白そうに笑いながら言った。

「きゃははっ。セイランてばまったく、よーっぽどあちこちで嫌われてるんだねェ。ま、私は最初っからアイツを狙ってたからラッキーだけど。ふふーん、リュミちゃん、アンタってばずいぶん悲壮な顔してるじゃなーい?」

「いえ……、そんな私はセイランが嫌いなわけではないのです」

「無理するな、リュミエール。セイランが得意な人間なんて、そうそういるんもんじゃない。ヤツの毒舌に動じないのは、そこの極楽鳥くらいだぜ」

「失礼なこと言ってくれるじゃないか、オスカー。そういうアンタは、誰にするのさ」

「そうだな……ランディ、お前が先に選ぶといい。俺にとってはどちらの魂も大差ないようなものだ」

「じゃあ……俺はティムカにします」

「これで決まったな」

肩をすくめながらオスカーが言ったのを受け、ルヴァが全員の顔を見回しながら確認した。

「予想していたよりもスムーズに決まりましたね。ジュリアス、後はお任せしましたよ」

「うむ。早速、陛下にご報告申し上げよう」


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