相 棒 1


 全宇宙に組織網を広げ、その手中に収まらないものはないとまで言われているウォン財閥は、代々聖地御用達商人を務めている。先の女王試験の終了と共に新しい宇宙の営みが始まってからも、それは変わることがなかった。若いながらもウォン財閥の5代目総帥をつとめるチャーリー・ウォンは、生まれながらにして備えた商才を、先祖が築いた基盤の上で最大限に発揮し、ウォングループを更なる発展に導いていた。そして彼は今、新女王即位直後に行われることになった異例とも言える女王試験の協力者として、聖地の公園で一介の露天商として働いている。

 「あ〜あ、ヒマやなぁ〜。女王さんの言いつけとはいえ、店を開かれへんと退屈でしゃーないわ。今のうちに商品の仕入れができるんはええねんけど、それにしてもお客さんの反応が見れへんことには、追加する商品の発注もでけへんしな〜。あ〜、早よう、店開きのお許しが出ーへんかなぁ」

 独り言を言いながら各惑星から取り寄せた商品の仕訳をしていたチャーリーの足下に、小さなロボットがぶつかった。

「あっりゃー、まぁ、小っこいロボットやん。お前、どこから来たんや」

チャーリーが話しかけると、それは機械音にしては愛嬌のある音声を発した。

「オカエリナサイ、オカエリナサイ」

「ああん?『お帰りなさい』とちゃうやろ、『こんにちわ』言うてみぃ」

「コンニチワ、コンニチワ」

「おーっ、お前、もしかして、ごっつう賢いんとちゃう? ほな、『いらっしゃいませ』て言えるか?」

「イラッシャイマセ、イラッシャイマセ」

「うおおっ、ほな次は『まいど、おおきに』や」

「マイド、オオキニ。マイド、オオキニ」

自分の言葉を正確に反復するロボットが気に入ったチャーリーは、その角張った身体を軽く叩き、

「気に入った!! お前、ロボットにしとくのん、もったいないくらい愛想ええやん。よし、今日からお前は俺の店の店員にしたるわ」

と言うとチャーリーは、人工知能を搭載していると思われる小さなロボットに、商業惑星独特のセールストークを仕込み始めた。露店を開くまでの間の退屈しのぎにしては、それは実に楽しいものとなった。

 二人の女王候補が育てていた、旧宇宙に発生した卵らしきものが新しい宇宙へと変化を遂げたのを機に女王から露店の営業許可がおり、チャーリーは日の曜日毎の商売にいそしんでいた。当初、チャーリーの店を訪れるのは二人の女王候補だけであったが、女王候補から贈られた品を目にした守護聖や教官も、数週間後には彼の店の得意客となっていた。彼の店を頻繁に利用するのは夢の守護聖・オリヴィエ。目新しいアクセサリーや新色の化粧品などを時間をかけて数品購入する彼は、商品を手に入れることよりも、あれこれと選ぶ過程を楽しんでいるようだ。オリヴィエに次ぐお得意様は炎の守護聖・オスカーである。聖地きってのプレイボーイと呼ばれるオスカーは、女性が喜びそうな美しい細工の菓子や小さな花束などを買うことが多い。すぐになくなってしまう物を中心に選ぶあたり、さすがに女性経験の多い彼らしい。いつか上質の白いハンカチを1グロス注文された時、その使途に興味を覚えたチャーリーは、オスカーに白いハンカチの使い道を尋ねた。炎の守護聖は「ベンチに座った時、レディのドレスを汚すわけにはいかないだろう? それに誰かが使ったものを、他の女性に使わせるわけにもいかない。だから白いハンカチは余るほど持っていても決して無駄にはならないんだ」と、ウインクをしながら答えたものだった。

 人口密度が異常に高い聖地で、ほぼ独占状態で商売をしているチャーリーの店は毎週、大繁盛だった。それは彼の優れた商才によるとことろが大きくはあったが、彼の相棒であるロボットも人気者だった。客が訪れる度に愛想の良い言葉を発するそれは、特に若い女性の人気が高く、ロボットを見るためだけに訪れる客も少なくない。

「それにしてもチビスケ、お前どこから来たんや。ショボイ格好してるけど、なかなかの性能やし……せやけど、こんな商業用ロボットはどっこも作ってへんしなぁ〜。お〜い、チビ、お前の前のご主人様は誰やねん」

チャーリーの問いかけに、チビスケと呼ばれたロボットは

「イラッシャイマセ、エエモンソロエテマッテタデー」

と答えるだけだった。


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