どてらい男たち 2
美しい布を売る三人の囚人の噂を聞いた惑星の女王が、ある日彼らの住む牢獄を訪れた。
「気高き女王陛下のご訪問のお礼に、どうぞ、そのつややかな髪に、俺から美しい花を飾らせてください。……フッ……駄目だな。あなたの美しさの前には、俺たちが用意した一番美しい花も色あせてしまう。女王陛下、あなたの美しさはなんて罪作りなんだ……」
「いやー、ホンマによう似合うてはりますわ、女王陛下。こんな綺麗な人に使おうてもらえるやて、商人冥利に尽きるっちゅうもんですわ」
いかにも商人然としたチャーリー、甘い言葉をささやくオスカー、そして牢獄の奥で作業に熱中しているゼフェルを見た女王は、彼らが本物の商人であることを露ほども疑わず、すぐに三人の解放を決めた。宮殿での正式の謁見を経て自由の身になった三人は、久々に味わう新鮮な空気を堪能した。
「よぉ、アンタ、見かけによらず悪智恵がはたらくんだな。あんなチャチな布きれで外に出られるなんて、考えもしなかったぜ」
「まったくだ。それにしても、よく、この惑星のレディたちの好みを知っていたな。いつ、調べたんだ?」
ゼフェルとオスカーの質問に、チャーリーは静かな笑みを浮かべて答えた。
「最初に部屋を見てまわった時ですねん。毛布もシーツも囚人用にしては肌触りがええし、洗面道具もきちんと揃えてある。これは女性ならではの心配りができる人がいる証拠ですわな。それに聖書の挿し絵が皆華やかな少女趣味な感じでしてん。つまり、この惑星の女の人は力と気ィは強いけど、ロマンティックで綺麗なもんが好きっちゅうことですわ。せやから綺麗なハンカチとかスカーフとか渡したら喜ぶんやないかと考えたんです。俺らの渡したもんが評判になったら偉いさんも出てこんわけにはいかしませんやん。偉いさんが来はったら、こっちのもんですやろ? お二人のお陰でここでもええ商売させてもらえることになったし、俺は万々歳ってとこですねん。ホンマ、おおきに、ありがとうございます」
「俺たちも調査結果を陛下に報告して、すぐに対策を立ててもらわなくてはな」
「大昔の女王の失恋のせいで女しか生まれないようにするなんて、ムチャクチャな惑星じゃねーか。やっぱり女はこえーよ」
ゼフェルの心底辟易したような言葉に、オスカーは余裕たっぷりに否定した。
「フッ、わかってないな、ゼフェル。情熱的な恋を楽しむには、この惑星はぴったりだってことなんだぜ」
「おめー、ぜんっぜん懲りてねーな」
「あ、せやせや、オスカー様、ゼフェル様。すんませんけど、人口の修正はもうちょっとだけ待ってもらえませんか」
「何故だ?」
「男が増えてしもたら、綺麗な兄ちゃんの絵が売れ行きが落ちますさかい。いや、1年か2年でええんです。それだけあったら、商売の立ち上げには充分ですよってに。ま、俺のアイデアで助かったんですから、これくらいのご褒美をもろうてもバチは当たりませんやん」
転んでもタダでは起きないたくましい商魂を持つ青年は、その商才を遺憾なく発揮し、莫大な利益を得たのであった。
昔のテレビドラマに『どてらい男』というのがありまして、
その中に戦時中、アメリカ軍の捕虜になってしまった大阪出身の日本兵が
パラシュートの生地に浮世絵を描いて大儲けするというはなしがありました。
この三人だと、こんなベンチャー企業もできそうです。
もちろん、トップセールスマンはオスカーで(笑)。
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