渡る世間はマザコンばかり


 新宇宙の女王工として聖地に招かれたのは、栗色の髪のアンジェリーク。そしてもう一人は天才少女と名高い金色の髪のレイチェルでした。ある土の曜日、新宇宙の様子を見に行った帰り、アンジェリークとレイチェルは女の子同士の秘密のおしゃべりを楽しんでおりました。

◇◇◇

「ハーイ、アンジェ。今日は早いんだね」

「あ、レイチェル。煙草、持ってる?」

「うん、いいよ。あ、ライターも……」

「ねえ、レイチェル、ジュリアス様って本当にマザコンなのかしら」

「決まってるじゃない。好きな香りを母親に例えるんだよー。女王候補生とはいえ、他の女性と二人きりでいる時に、母親の話を持ち出したりする? 常識で考えてみなさいよ」

「じゃあ、リュミエール様はシスコンね。この間お部屋でお話しした時に妹さんのお話を聞いたんだけど、チョー可愛がってたみたいなの。ヴァイオリンが得意だとか言ってたから、趣味も似ているだけに親しいのはわかるんだけどね……リュミエール様って、うまく言えないんだけど、猫かわいがりするっていうか、嫉妬深いっていうか、ストーカータイプっていうか、執念深いっていうか、なーんか、そんな気がするのよね。それにリュミエール様の妹さんは絶対にブラコンで、リュミエール様にべったりで、他の女が近づこうとすると、陰険な手口で阻止しそうじゃない?」

「リュミエール様はシスコンでマザコンかぁ。実はリュミエール様と夜、庭園に出かけた時に聞いたのはお母さんの話だったんだ。お母さんの体が弱かったから側を離れるのが心配で、聖地には来たくはなかったということなんだけど、そういう優しい息子を母親は溺愛するよね〜。近親相姦と母子相姦の二本立てはキツイよー」

「じゃあ、リュミエール様と結婚して、家族と同居なんかしたらタイヘンだね。姑と小姑から嫁イビリにあうかもしれない」

「絶対、そうだって。リュミエール様は『私は争いごとは嫌いです』とか言って、見ないふりするんだよ、きっと。『さあ、あなた方も言い争いなどせずに、仲良くする努力をしてくださいね』とか言うだけ」

「二人きりになったら一応、慰めてはくれるんだけど『あなたは何故、私の母や妹と仲良くできないのですか。私は悲しいです』なんて具合に、知らないうちにお説教になってるの。血縁関係のある人たちにタッグを組まれたりしたら勝ち目なんてないもの。レイチェルの将来は大変ね。レイチェルはリュミエール様のお気に入りだもの」

「うっわー、アナタって温和そうな顔してるくせに、そんなヒドイことを平気で言うんだから、たまんないわね。いつか私邸に招待されたんだけどさ、もしかしたら二度と帰れないかもしれないって思っちゃった。リュミエール様って一旦思いこんだら他のものが目に入らなくなるような気がしてサ、このまま篭の中の鳥になるんじゃないかって、マジで身の危険を感じたんだ」

「オスカー様とは違う種類のヤバイとこあるものね。オスカー様って脳味噌腐りそうな台詞を言った後、ベッドに押し倒すしか脳がないって感じだけど、リュミエール様はお人形遊びになっちゃうの。そいでもって少しでも嫌な顔をしたらお仕置きされるの。赤いローソクを垂らして、『あなたの肌には、やはり赤い色が似合いますね』とか言ちゃって。どこから鞭を出してきて、ビシッ」

「ちょっと、アンジェリーク。アナタどうしてそんなこと知ってるのよ、高校生のくせに」

「女子校に通ってると、耳年増になっちゃうんだもの。うふっ」

「まぁ、いいけどネ。リュミエール様がサドっていうのは納得できるなぁ。調教されるのはオスカー様やジュリアス様かな。二人とも調教のしがいはありそうだもんネ。それでクラヴィス様がその様子を楽しげに眺めてるんだよ、きっと」

「あるある。ピッタリ。さすがレイチェルね」

「そりゃぁ、ワタシってば天才だしー」

「クラヴィス様も多少はマザコンの気があるかもしれないけど、ジュリアス様とリュミエール様よりはマシよね。妙な執着心は感じなかったもの。そういえば、遠見の水晶は望みのものがなんでも映るんですって。クラヴィス様って夜な夜な他の守護聖様のプライベートシーンをのぞいてたりするかも」

「じゃあ、ワタシたちものぞかれてるかもしれないの? もしかしたら、今の話も聞かれてるかもしれないよー、どーしよー」

「平気じゃない? 聞いたからって何か行動を起こすようなアクティブな性格には見えないしー。クラヴィス様ってね、どういうわけか土の曜日や平日にお誘いにくるのよ。平日はまぁ、いいんだけど、土の曜日は困るのよね。王立研究員に行かなくちゃ、安定度下がっちゃうから」

「クラヴィス様も? 他の人もそうだよ」

「本当?」


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