リラックス・ウェア


「ねえ、レイチェル。ジュリアス様は正装以外にパジャマくらしか持ってないんじゃないかな。ずーーっと仕事ばっかりしてるから、私邸に戻ってもご飯食べてお風呂入って寝るだけだから、普段着はいらないの。だから乗馬も、あの服のまま出かけるのよ、きっと。でも、正装を何枚も持ってそうだと思うわ」

「なるほどね。それならクラヴィス様はパジャマだって持ってそうにないわね。何から何まで同じ色、デザインで、シワになったり汚れたりした部分だけ着替える感じで。だから何枚もの衣装を重ね着してるのよ」

「そうかしら。私邸に戻ったらスンゴイ軽装かも。私服はパジャマだけ。だってあんなに不精そうな人だから、いつもいつもズルズルと正装を引きずってたりはしないような気がするの。ランディ様はね、ほらほら、お母さんがスーパーの特売で買ってくる、1着1000円くらいのトレーナーなんかでも喜んで着んじゃないかしら」

「ああ、意味不明の英語のロゴが入ってたり、微妙に流行遅れのファンシーなイラストだとか、どこかのブランドの低級なコピーみたいなデザインの服ね。ああいうのって何度か洗濯するとクタクタになっちゃうけど、ランディ様はそういうのに無頓着そうだから、いつまでも着てそうだよネ。リュミエール様は正装をもう少し簡単にした、ズルズル系のローブかな。服にはあまりこだわらないけど、下着にはとことんこだわってそうな気がするナ。100枚以上の下着のコレクションを持ってて、毎朝1時間くらいかけて下着を選ぶの。『今日は爽やかな風邪が吹いていますから、フレアタイプのものにしましょうか。色は……軽やかなペールピンクにしましょうか』とか言って」

「いや〜ん、レイチェルってば想像しちゃったじゃないの〜。でも、とってもお似合いだわ。オスカー様のシャツはきっと、全部前あきよね。いつでもどこでも即OK状態にするために。でもリュミエール様と同じで、下着にはこだわってそう。黒のビキニとか豹殻とか……。マルセル様は着ぐるみよね。『お花さんや動物さんたちと仲良くなるには、やっぱり外見からだよね』とか言って、超リアルな着ぐるみを着てるの」

「着ぐるみの素材は本当の動物の毛皮だよ、きっと。『同じ匂いじゃないと、ウサギさんたちが逃げちゃうからオーダーしたんだ』とか言ってさ」

「え〜、いくらなんでもフェイクファーってとこじゃないの〜。マルセル様は小鳥を飼ってるから、鳥肉は食べないっていうくらい、動物思いっだていうじゃない」

「でもォ、マルセル様って電波系だしー、牛肉や豚肉は食べるんでしょ? それにお菓子が大好きだから、鳥の卵はたらふく食べてるんじゃない。それってどこか偽善的ィ。あどけない顔をしてるから、あんまり目立たないんだけどね。オリヴィエ様は……、ねえ、私服だと正装より派手になると思う? それとも地味になると思う?」

「素肌にガウンとか、バスローブを羽織るだけじゃないかしら。『生まれたままの姿が、一番美しーのよー』って感じなの。ゼフェル様にはね、アマチュアレスリングのコスチュームを着てもらいたいな。あの服なら動きやすいから、機械いじりにもぴったりよ」

「メカを触る時に太股や二の腕をむき出しにするようなもの着てちゃ危ないでしょ? 本当にアナタって、考えなしなんだから。ゼフェル様には作業着がお似合いよ。少しクラシックなハッピと腹巻きとか、地下足袋とか。アマチュアレスリングはむしろヴィクトール様よ。鍛えた身体のラインが出るから、鏡に映る自分の姿を見てうっとりしたりしてね。体を鍛えてるタイプってナルシストが多いっていうしネ」

「えーーっ。ヴィクトール様はジャージの上下に決まってるわよ〜。えんじ色で、白線が二本ついてるデザインの、中学校で学校指定で買わなくちゃならないような、ダッサーイジャージ!!」

「演歌歌手みたいな派手な和服も似合うんじゃない? あと昔のヤクザみたいな着流しに、ドスとイレズミをつけてー。カラオケに行ったら演歌とか浪花節とかをうなってるんだヨ、きっと。セイラン様はあまり自分を飾るのは好きじゃないらしいけど、芸術家ってナルシストが多いから……」

「うーん、そうだ。チャイナ服!! ズルズルのチャイナ服にチャイナ帽子、それから妖しげな丸眼鏡をかけて、阿片を売りさばいていそうなアヤシイ中国人!!」

「アナタねぇ……。でも似合うわ。阿片商人もいいけど、きらびやかなチャイナドレスもいいわよ。フトモモ丸出しのスリット入りのドレスで、羽の扇を持って夜の街を歩いてほしいナ」

「オスカー様みたいな人に会ったりしたら、アブナーイ!! まさに貞操の危機よね!! ティムカ様は上半身裸かな。暑い惑星の出身だって話だし」

「テロンテロンのイージーパンツに、ランニングくらいしか、浮かばないなぁ……。ルヴァ様は……」

「あのね、あのね、ミイラみたいに包帯を全身に巻いてるの。だってロザリア様が『知識や知恵を持っているだけではダメだ。何事も実際の経験を通して、はじめて本物の知識となるんですよー』って、お話を聞いたことがあるっておっしゃってたの。だから遺跡だとかから失敬してきたミイラの気持ちを知るために、私邸に戻ったら全身に包帯を巻いてても不思議じゃないと思わない?」

「ねえ、アンジェ……。ちょっと確かめたいんだけどさ、ルヴァ様は本当にミイラを持ってるの?」

「知らなーい。でもルヴァ様だったら、持っていても不思議じゃないでしょ? いつもいつも頭にターバン巻いてるんだし……」

「ハゲ隠しのターバンとミイラの包帯じゃ、ワケが違うでしょー」

「え? ルヴァ様、若ハゲなの? だって、あれって故郷の風習だって……」

「思いっきり乾燥してる砂漠なら、ターバンで髪や地肌の乾燥を防ぐのはいいと思うヨ。でもね、こ〜んなに環境のイイ聖地じゃ、湿度過多になっちゃって蒸れちゃうじゃない。だからね、最初は故郷の慣習を守ってただけなんだけど、今じゃただの若ハゲ隠しに成り下がってたって不思議じゃないのよ」

「そっか〜。さすが、天才少女ね。ところでさ、レイチェルはエルンストさんの私服を知ってる?」

「知らないコトはないけど、襟のあるシャツとビシッと折り目のはいったスラックス姿しか知らないナァ。家に帰ったら意外とファンシーなトレーナーなんか着てるかもね。ああいう堅物に限ってブリブリしたものが好きだから」


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