「やってて良かったカモ式」

〜第69回有機農業セミナー報告〜

 今回のセミナーは玉造合鴨水稲会会長の、小長谷裕宝さんをお招きして貴重なお話しを聞かせていただきました。小長谷さんは、JICAの技術部門であるJICE(日本サービスセンター)の職員であると共に、合鴨水稲農業の農夫でもあります。JICEの方面では、ODA関係で途上国から学びに来る方々に、日本農業(農薬をつかった農業)を紹介しているようで、ご本人いはく「こっちはちっとも面白くない」とのこと。
 セミナーの様子は、彼の希望で従来の『講義の後に質問を受ける』ものではなく、講義中に質問や意見などが発言できる形式で行われました。少々発言者が片寄っていましたが活発な議論が交されました。今回の報告でその様子はお伝えできませんが、読者の皆様が『この話を聞くと、誰もが田んぼをやりたくなる』(セミナーの冒頭で小長谷さんがおっしゃった言葉)という様にお伝えできれば幸いです。

はじめに〜合鴨農業はぶったくり農法だ!〜

 いったん鴨を水田に放してしまえば、あとはなんにもいらない。おてんと様の恵と鴨君に任せるだけ。草、虫、病気のことはもちろん、稲の生育についても心配することなし。基肥(もとごえ)、追肥(ついひ)一切不要で、葉っぱは青青、稲は重重、こんな手間のかからない”ぶったくり農法”をこれからご説明いたします。

(1)慣行農業との対応
 合鴨は田んぼのスーパーマンである。これから合鴨の果たす役割を、学者のように(と言っては大げさですが)慣行農業と対応させて見ましょう。



慣行農法 合鴨農法
除草 除草剤を撒く。 鴨が食べてくれる。
更に足で掻き回す
虫、病気 農薬(殺虫剤、殺菌剤等)を撒く。 鴨が食べてくれる。
ジャンボタニシ 困っている。 鴨が食べてくれる。
肥料 化学肥料。 鴨の糞がそのまま肥料となる。
慣行農法にはない効果 菌類が葉についた露を媒介して増殖するのを、
鴨が常に葉を触ることで抑える。
(その他多数)



鴨が田んぼにいるとおじいさんや子供がやってきたりするようになり、みんなのお散歩コースになります。その他もろもろの利点があると思います。みなさん、今日の話は前談のつもりですからぜひ気軽に(駅前留学のように)体験してみてください。やってみなければわかりません。

(2)HOW TO 合鴨農法 〜備えあれば憂いなし〜
 これだけお話ししてきましたが、楽ちんといえどもやはり動物を飼うのですから準備は必要です。そこまで難しいことではありません。
 わたしなどは、稲のことよりも、鴨のことを心配するので、もはや「稲作」ではなく「動物飼い」の様な感じを受けます。ですから、動物の世話が出来る人なら誰でもできるというわけです。その意味で女性は鴨の泣き声に敏感に反応するので、男性よりは女性のほうが向いているのかもしれません。

鴨の購入;1羽平均500円。1反歩あたり20羽が適当。(10羽でもよいが数が減る恐れがあるのでこのくらい)

鴨が届いたら、宅急便で送られてきて疲れているので砂糖水を飲ませる。餌は玄米をあたえる。小屋は、池のある屋外でネットを張るなどして囲う。寒さに弱いのでこた つを用意するが、これを斜めにセットしておくこと。(換気を良くするため)夜もつけっぱなしにしておいて構わない。

届いた日から水浴びをさせる。はじめのうちは帰り道がわからなくなって溺れることもあるので、ある程度水浴びさせたら小屋に戻してやる。

田んぼの水深は3cmくらい。慣らしの期間(毛繕いを覚えて泳げるようになる期間)は5日程。おてんと様と相談して、いよいよたんぼへ。

田の準備;
 1、獣避けに電気柵をはる。120cmの高さで網を張っていき、何本か針金を通す。
   車でいらなくなったバッテリーなどをパルスを作る機械に接続し、通した針金に電流を流す。
 2、からす避けにテグスを張る。4mおきに長さの違う棒(120〜150cm)をたて、テグスを田を横切るように交互に張っていく。1ヵ月ぐらいして鴨がある程度大きくなったらはずしてよい。

種もみについて;風選後、(塩水選はやってすぐ)ドラム缶に60度の湯を沸かし、5分間つけておけば消毒完了(パスツール法による)1回に15kg以上はやらない。

植え方;3本株くらいで植えるとちょうど良い。(種もみ80gを1箱に撒く)
 なるだけ間隔を広くとって植える。

餌は雛のときと同じく玄米を15羽あたり1升を毎朝やる。

稲刈の前に鴨を回収する。鴨の好物はお米ですから。

これでおしまいですが、どうせならば鴨をいただきましょう。田から上がったばかりの鴨はやせているので、太らせてから食べるとよいでしょう。
以上、簡単ではありますが紹介しました。特に生後1ヵ月は気を使います。失敗する人で多い例は、雛のときに寒がって雛同士で固まり、その結果圧死してしまうケースです。

(3)合鴨農法、世界へ
 合鴨農法は世界にはばたきつつあります。ベトナムと全国合鴨水稲会はつながりがあり、農業を通じて交流を深めています。また、JBC(NGO団体)とも協力をしています。現地では、網の変わりに竹柵を編んだりしています。しかし、そんなものをもろともしない2本足の動物が鴨をとっていきます。人間です。ベトナムでは鴨を食べる習慣があるため、しばしばこのようなことが起こってしまうのです。そのため、夜は鴨を小屋に戻します。
 その他、韓国で行われたり、合鴨のビデオが英語で制作されるなど国境を超えた技術になりつつあるといえるでしょう。

(4)そもそも合鴨とは
 おまけになりますが、合鴨とは「かも」と「あひる」の合いの子であります。鴨は野性でありまして、人になつくことはなく動きもはやい。あひるは家畜でありまして卵やお肉のために飼われます。つまり、人になつきやすく動きが遅い。この2種のいいところをとったのが合鴨というわけです。

(5)最後に
 田に鴨を放すという技術は400年前の秀吉の時代に実践されていました。それがつい最近、誰にでもできる有機無農薬技術として確立されました。その草分けになったのが、福岡で有機農業を実践しておられる古野さんご夫婦です。ルーツを知りたい方は「山根瑞世著、ルポ合鴨列島、ダイヤモンド社」をどうぞ。
 合鴨農法は消費者と一体になった地球環境を守る運動に発展しました。したがって、消費者の方々の協力があってこその活動だと考えています。これからは実践の時代です。自分の手で作ってみたり、自分の舌で味を判断してみてください。そして、本物と偽物の『有機』を見抜いてください。そうした努力で、地球の将来を育む農業が、土壌が養われていくのです。


報告者感想

 楽しかったの一言です。それはなぜかというと、語られている小長谷さんがあまりにも愉快だったからだと思います。それは、おてんと様と鴨さんと稲さんと人の調和のようにも感じました。
 お話しのなかに、お子さんが鴨を食べるのを躊躇したというものがあり、子供の心に『自分達はたくさんの命に支えられている』という実感がするどくつきささることは、つらいけれども彼等の成長にとって大切なこととなっていくだろうなと感じました。いや、なにより私自身が、そういうことを考え直す機会になったのです。
 私は高校時代に合鴨農法をやりましたが、田んぼに放した翌日、狐に全滅させられました。それは悲しい出来事であり、自分の不勉強を思いました。自然に即した農法であるがゆえの危険もあるのだと感じた次第です。また、鴨と戯れてみたい気持ちになりました。ありがとうございました。
(高橋 恵)
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