//EXH* NOTES 脳内映像//

survival force

from WOXL. r.st. 不安定に波打つ足場、三角カードを散らばせたような鋭角的な大地、所々が欠け深淵の闇が見えて、中空には凶々しい大き過ぎるコロナ太陽―しかもご丁寧に、白い光の輝線が大凡綺麗に2つ、反対方向から突き出している!―が厳然と存在する。大地も大気も暗闇、辛うじて大地の方が明るい。其処で、視点は大地のほうへ下って行く。相当なスピード。

 下のほうには髪を振り乱して、発狂寸前で泣き叫び、それでも目の前のドアを叩き続ける女性が現れる。場所は崩れかかった廃屋の廊下、でもオーバーラップしていて、さっきまでの場所も見える。扉は沢山あるが、どれ一つとして開かない。実は、これらは全て幻覚であり偽の情報なのだ。残酷にも、扉を開けて中に入って行く幻覚まで用意されているので、発狂婦人はますます焦燥することになる。その隣では、中年男性二人がやはり同じ罠にかかって、これは更にたちが悪い事にドアをめぐって死闘を繰り広げている。それは映画や小説に出てくるような迫力ある奇麗なものでは全然無く、丁度泥の中で何とか相手にしがみついて立っていて、思い出したようにスローモーに相手に噛み付く、というようなものでしかなかった。何よりも、そこには疲れが滲んでいた。肯定出来ない生を生きなければならない苦悩。

r.sp. 深い、暗闇に包まれた洞の中で、此処のルールについて憂鬱に考えた。視点を上げ世界を見下ろしたときに、妙な次空で出来たここにはその種の哀れさしか感じ取れない人々で一杯な事が判っていた。初めから悲劇を仕組まれた世界。それは地獄の名で呼ばれるべき場所だった。本物の其処には墓場や骸骨などは存在しないが、呻き声で満ちあふれている点だけは伝承は正しかった。不条理な戦いである事を知ってしまったが止めることの許されない人々の自己嫌悪の声、未来の無い状態で立たなければならない人々の厭世の声、そして殺されかかっている人々の絶叫は確かに存在した。

r.sh. では答の鍵はどこに存在するのか?視点は飛翔し、その元凶であるコロナ太陽の方角へと向けられる。この論理が全てをねじ曲げている。直感を疑わずに真っすぐそちらの方角へ一気に上昇する。悲劇の構造は変わって行く必要がある。余りの上昇速に視点が不規則に揺れ視界の中心にあるコロナ太陽の黒がやや赤くなってくる。物凄い抵抗の力を何とか切り返しながら、遂に視界一杯にコロナ太陽が見えるようになる。直感は霊感だった。月が太陽と重なるのを止め、光の爆発が始まる。世界の論理が入れ替わり目の前の暗黒はぐじゃぐじゃに混ぜ合わせられ消え、全き光が呑み込む!



d.c. 意識が戻る。コンクリートブロックが視界一杯に広がってくる。瞬時にサイドブレーキを引き車体を強引に右斜めに向き直らせると、ブレーキを目一杯叩き込んでからアクセルをぶち込む。車はブレーキで更に姿勢を乱し壁に対して殆んど直角に向き、続けて操作された通りリアホイールが黄色い声を限りに回り始める。間一髪だった。車体の左側3センチも開いていない状況で、クルマは横滑りしながら猛然と右に旋回し始める。

r.st. 左側に叩きつけて命を奪おうとする重力に逆らい、代わりに意識を吸われて視界が変になった俺は頭を振る。冷や汗をふき取る。今の操作のせいで、激突は免れたが大幅なタイムロスになっただろう。早く、早くゴールにたどり着かなければ俺は消滅するしかない。望まないが強制された競走。俺はいつまでこんなおぞましい周回ルートに捕らわれなければならないのか?しかし競走自体から抜けられず、しかも抜けたら消滅するなら俺は勝つしかない。

 下り坂を強引すぎるスピードで降りたために車体が飛ぶ。『Yaw−Hoo!!』自棄糞で絶叫しながら着地の衝撃に耐えると、後方視界の隅に青い車が見える……来やがった。奴か、俺しか此処には存在できない。『後方6時に敵機接近!』隣が喚き立てるが俺は最早反応しようとはしない。(大袈裟なんだよ)青い車体が隣を擦り抜けようとした一刹那、俺は壁と自分の隙間に奴を捕らえると……思い切り挟み込んでやる。轟音。道路脇に電信柱が飛び出ているのを確認すると、奴は顔色を変えてブレーキし始める。何か悪口を並べて吠えているのが分かるが、俺は相手にせずその場から全開で立ち去る。これは殺しあいなのだ。

 今は取り敢えず勝った。しかしこんなことがずっと続くのには耐えられない。

r.sh. 気分を解放した次の瞬間、思わず勝利の美酒とかで食ったものを壮大に撒き散らしていた。やたら値の張ったエルクの肉が、ナガスクジラの眼球が、殆ど消化されずにダッシュボード上に吐瀉される。みんな無駄になる。不快な酸っぱい匂いにむせるが、窓を開けると空気抵抗が生じて最高速や加速が鈍るのでそれも叶わない。俺は生きなければならないのだ。さっきの訳の解らない白昼夢も俺には邪魔だった。そんな、構造の本質的な解放など永劫ありはしないのだ。俺にとっての解放とはコンクリと俺と金属と破片との真っ赤な混成物を大地へ吸わせた時だけだ、でもそれじゃ此処にいられなくなってしまう、それは嫌だ、だからここは地獄なんだ。胃酸で焼け爛れつつある服の匂いに嫌悪しつつ、それから俺は次のコーナーへと飛び込んで行った……



(r.st=rhythm start)
(r.sp=rhythm stop)
(r.sh=rhythm shift)
(d.c=repeat all)
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