4 男 宇宙('04.07.05Up) | ||
今回、少しばかりながら「長生きはしてみるもんだ」と思った。 何せ、あの杉良太郎の「君は人のために死ねるか」が遂にオリジナル版 でCDで聴けるようになるんだから。さらに他の収録曲の顔触れも馬場と 猪木と長島に大山倍達、勝新、高倉健、菅原文太に小林旭、由利徹に横 山やすしもいれば、野坂昭如も美輪明宏も松田優作だっているという凄 まじいばかりの濃さ! そんな中から、特に強烈にインパクト溢れると言うか「ツッコミどころ 満載」な作品を、個人的にピックアップして御紹介してみようかと思い ます。 1)息吹き:大山倍達 時間わずか9秒。しかも歌でも何でもなくオヤジの呼吸音が入っている だけ。何も知らない人間が聴けば「ピックウィック症(睡眠時無呼吸症 候群。主に肥満による気道圧迫等で睡眠中に呼吸が止まった状態が断続 的に繰り返される病気。特徴的な症状は「大きないびき」)のオヤジの いびき」と思っても不思議はないが、何たって大山総裁である。ゴッド ハンドなんである。 千葉・清澄山での山篭り(詳細は「空手バカ一代」その他、総裁関連の 著書各種を参照のこと!探せば幾らでも出てくるぞ)時の遺物(つうか ハッキリ言ってゴミ)である 小汚いガラス瓶に1500万(言っておくが日本円です)の高値が付いて しまう(注:フジTV系の深夜番組「格闘SRS」での出来事。ちなみに この時の鑑定士は「流体力学」店長の前野重雄でした) という日本格闘技界最大のアイコンである。 そんなゴッドハンドが遺した録音、それだけで感謝すべし。下手にケチ でも付けようものなら、極真空手マンの拳で脳味噌吹っ飛ばされるのが オチである。 5)ポー・ボーイ:野坂昭如 野坂先生と言えば、比較的近い所でクレイジーケンバンドのライブ盤 「青山246深夜族の夜」(必聴です)への客演で見事なブッ壊れ具合 (特に「黒の舟唄」での壊れ方は鬼気迫るほど)を聴かせてくれたり してるけど、こんな叙情的で味わい深い歌も残してたりもします。 黒人霊歌の和訳なんだが、小室等のアレンジによるヴィブラホンとフ ルートの美しい音色が、訳詞と相まって沁み入るような味わい深さ。 テレ朝の「TVタックル」で、「女の数なら俺の方が上なの!」とうそ ぶくハマコーに対して 「マスターベーションならこっちの方が上だ」 という凄まじい切り返しをしてみせる野坂先生のブッ壊れ具合が自分 は凄く好きだったりするけど、この曲で聴ける野坂昭如もイイネ! 7)昼メロ人生:美輪明宏 「男 宇宙」というタイトルに対し、美輪明宏を「男」に性別分類し 差し支えないかという疑問も多少は無くもないが(笑)、この人、精 神的には十二分にパンク。昔、石原慎太郎が女装して「銀巴里」で歌 ってた頃の美輪明宏を「亡国の徒」だと非難したのに対し、 「手前だって太陽族上がりの癖にでかい口を叩くな」 と切り返したという美輪さんのエピソードが自分は凄く好きだったり します。 アレンジ的には「恐らく日本人がイメージする平均的なシャンソン」 であり、また聴こえてくるシンセ音もいかにも80年代的なチープさで 「ん?」となる部分もあるんだけど、美輪さん本人の手による歌詞の 毒気はかなり凄まじい。全編に溢れた「マイホーム主義への憎悪」は 梶原一騎作品と通底するものを感じさせたりもします。(梶原先生の マイホーム主義への憎悪ぶりについては、斉藤貴男著「梶原一騎伝」 (新潮文庫刊。名著!)を参照のこと) 8)銀次慕情:松田優作 この曲、結構イケてるんですが、驚いたのは作曲者にクレジットされて いたのが山西道広だったこと。あの「探偵物語」の松本刑事です。「探 偵〜」では故・成田三樹夫(服部刑事)との絶妙な絡みで強烈な印象を 残している人だが、作曲も手掛けていたとは初めて知った。 そして、曲を聴いてて更に驚いたのは、この曲を吹き込みした時に優作 はまだ30前(曲の発売は76年7月。優作氏は49年9月生まれ)だったと いうこと。正直愕然としました。 ィ横山剣さんは、「男惚れする男」に「イイ匂いのしそうなオジサン」 を挙げていて、さらに「イイ匂い」の素を 「人生を2周半ぐらい回って、いろいろな事を経験した上ですっかり アブラが抜け落ちている、そんな人に共通する妙に懐かしい高級な匂 ひ」(出典:「クレイジーケンの夜のエアポケット」ぴあ刊) と定義してみせてる(なお、剣さんが「イイ匂いのしそうなオジサン」 の筆頭に挙げていたのは野坂先生でした)んだが、ここでの優作、26歳 にしてその領域に達しているのが凄い。今の日本の歌い手(下手すりゃ 世界でも)で、30前にして「余分なアブラの一切を抜き落とした高級な 大人の匂い」を感じさせる人間なんて多分お目にかかれないって。 11)アントニオ猪木の理念:アントニオ猪木 歌ではなく演説。そしてツッコミどころは探せばかなり多い(笑)。 後に「スポーツ平和党」を結成し国政に打って出る猪木だが、そうした 政界への色気が濃厚に嗅ぎとれる点でも興味深いんだが、 「厳しい練習に耐え抜き、自らを鍛え抜いた者は、心身共に素晴らしい 人間になれる。それが私の目指すところなんです」 という言葉に 「モハメド・アリ戦とアントン・ハイセルで2度会社(勿論新日本プロ レスの事です)を潰しかけ、UWF騒動で(前田)日明兄ィ他を路頭に迷 わせ、タイガーマスクの権利使用料を出し渋れば梶原一騎に「監禁」さ れ、去年大晦日もPRIDEとモメて(多分これも銭ゲバなんだろうなぁ) 日テレで「猪木ボンバイエ」の興行を打った挙句に大コケさせてるよう な人を、心身共に素晴らしい人間と呼んで良いのでしょうか」 とツッコミたくなるのは私だけ(笑)?あ、決して非難して言ってる訳 ではないですよ。何だかんだ言っても自分は猪木ファンですよ。だって 品行方正で人格的に破綻してない猪木なんか、想像してどこが面白い? 14)俺と反省〜四条の橋:勝新太郎 勝新です。ディープで「ドープ」なオヤジが出ました(笑)。 亡くなる1年半ほど前(95年10月)の発売、という事は当然ハワイで の「パンツ事件(90年。東スポの「股間にコカイン」は名言!)」の 後の録音で、中身もハワイの事件を受けたものになってます。 語りなんだが、「勝新太郎は反省してない。あの顔は反省してる顔じゃ ない(と周りは言ってる)....」という語りで始まり、それに対して 「だけど、反省した顔をするなんてのはもぅ、簡単なんだよ。反省した って芝居すりゃいいんだから....」 と見事に切り返し、最後に 「反省してる自分の顔ってのを鏡で見てみると、何だか嫌な顔だね....」 とダメ押しをしてみせる傾き(かぶき)ぶりは最高の一言。イイネ! さらに、その後に続く三味線の弾き語りにも注目して欲しい。役者稼業 のみならず、長唄の世界においても、19歳で「二代目杵屋勝丸」を襲名 し名取りとなり、三味線の名手としても知られた勝新の一面を知る事が できます。 15)君は人のために死ねるか:杉良太郎 で、いよいよこのアルバム最大の目玉です。(笑) 何せYAHOOで「君は人のために死ねるか」で検索したら1605件(04. 06.20現在)がヒットする事で分かるとおり、至る所で語り尽くされ た感じもするこの曲だけど、自分からすればホントに「やっと会えた ねぇ」(By辻仁成。By洞口信也でも可)という思いで一杯(笑)。 初めて聴いたのが確かビートたけしの「スーパージョッキー」(懐) の「困ってしまうレコード」コーナーで、その時に強烈なインパクト を受けてから、管理人、およそ20年の間求め続けていました。 ただしこの歌、珍盤/奇盤の最高峰に位置する曲ながら、杉良自身の 手による歌詞は実は意外と「まとも」。 歌詞全文はこちらに挙げるとおりであり、最後の 「あいつ(そいつ・俺)の名はポリスマン」 という必殺のフレーズこそ「どこまで姓でどこから名だ!お前一体ど この国の人間だ」とツッコミを入れたくもなるが、「文字数がかなり 多い」事と「歌詞に若干右翼的傾向が見られる(ただし石原慎太郎の ような嫌味や不快感はありません)」事を除けば、歌詞の中身は結構 きちんとしているのだ。(なお、この歌詞は杉良初の刑事ドラマだっ た「大捜査線」のため書かれたことを補足しておきます。) ただし、杉良はこの歌詞を、歌謡曲の大家である一方で「珍盤・奇盤 の帝王」という顔も持つ遠藤実の所に持ちこんで作曲を依頼するので あり、そこから雲行きが途端に怪しくなって来るのである。 この時、杉良は遠藤に 「アリスの「チャンピオン」のような曲にして欲しい」 と頼んだという物凄い逸話が伝えられているのだが、文字数の多さに かなり悩んだのか、それとも頭のネジがどこか緩んでいたのか、遠藤 先生の作った曲は 「バックで鳴るチェンバロの音色」と「所々で聴こえるサンタナ風の ギターのチョーキング」以外は「チャンピオン」と似ても似つかない 「4拍子と3拍子、更には6拍子が目まぐるしく交錯する、プログレ ・ロックに比肩しうる複雑怪奇な構成」を持つ曲 (基本的なリズムの構成をこちらに示しておきましたので、この曲を 「カラオケの持ちネタ」にしたい方は参考にしてみて下さい) だったのである。 そんな奇怪な楽曲に、クドい事この上ない杉良のあの歌声と、右翼の の街宣車を連想させるこれまたクドい語りが被さると、一見まともに 見える歌詞も猛烈に暑苦しいものに感じてくるから不思議なのだ。 この曲を聴き終わった時、多分あなたも口ずさみたくなるはずです。 「♪あいつの名はぁ〜 ぽりぃ〜すまぁ〜ん」と。 あと、最後に付け加えておくと、上記フレーズを「あいつの名はポリス "メン"」と紹介しているHPも多いのだが、基本的には「ポリス"マン"」 が正解。実際にカラオケ等で歌う場合は「"マ"が7割に"メ"が3割」位 の割合でミックスして発音すると結構感じが近付くと思う。 16)男が死んで行く時に:安藤昇 杉良の「刑事ドラマの主題歌」の次に、あろう事か「本職のアウトロー による歌」を持って来てしまうのが、このアルバムの選曲の冴え。 実は、最初にこの曲を聴いて感じたのは 「これって、もしかして(哀川)翔兄ィの歌?」 という事。その位この人の声って翔兄ィに良く似ているのだが、この人 の経歴となると、翔兄ィも足下に及ばない程の凄まじさである。 詳細については是非「自伝 安藤昇」(ぶんか社刊)を読んで頂きたい のだが、終戦直前に海軍特攻隊を志願し、特攻崩れとして復員後は渋谷 界隈を中心に愚連隊を率いて暴れ回り、「株式会社東興業=暴力団安藤 組」を立上げてからも力道山暗殺(!)を画策したり、横井英樹(後に 「ホテル・ニュー・ジャパン」大火災を引き起こし実刑判決を受ける。 当時は強引な企業乗っ取りで悪名をはせていた)を襲撃して瀕死の重傷 を負わせたりと、まさに戦後アウトローの典型像を地で行くような物騒 極まりない経歴の持ち主なのだ。 (ちなみに「ステゴロ(素手での喧嘩)最強」を謳われ、アウトローの 世界で伝説的存在と化している「花形敬」は安藤昇の舎弟です。恥ずか しながら、自分はつい最近この事を知りました。) そんな本職のヤクザ者(曲の吹込み時こそ流石に引退していましたが) がこう叫んでみせるのだ。 「もう泣くなよ、お袋。涙の種が消えて行くんだ。 あんたの涙の種が....消えて行くんだよ!」 そんな叫びが問答無用の説得力と凄みを帯びて、聴き手にグサリと突き 刺さる。とにかく強力な一曲。聴くべし。 22)おやじの海:村木賢吉 「君は人のために死ねるか」や「猪木の理念」(笑)が収録されている ことから、「単なる珍盤・奇盤・怪盤のコンピレーション」と思われや すいと思われるこのアルバムだが、実は終盤は正統派と言うか「素直に 歌で聴かせてくれる」曲が並んでいる。(紹介を省かせてもらいました が、小林旭の「さすらい」(M19)も素晴らしいし、ショーケンの「前 略おふくろ」(M21)で聴ける、井上尭之バンドのレイドバック加減は 最高。個人的には「太陽にほえろ」よりこっちの演奏がイイネ!) で、この曲、一般的には 「海は〜よぉ〜 海は〜よぉ〜 でっかい〜 海は〜よぉ〜」 という出だし朗々たる歌いっぷりと、そのバックで聴ける 「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ」 というインパクト満点のオヤジの掛け声(ちなみにこの掛け声、CKBが 「大人のおもちゃ」(3rdアルバム「ショック療法」に収録)で見事に 蘇らせてました)で非常に有名だったりするんだが、アルバムに収録さ れているのはそのオリジナルではなく「自主製作バージョン」である。 ボーカルの村木賢吉に、作曲者の佐藤達雄という人のギターだけという 非常にシンプルな演奏なんだが、これが味わい深くて良いのです。 特に佐藤氏のギターが素晴らしい。ギター一本で巧みで安定した伴奏を 聴かせる腕前もさることながら、不思議なことに聴こえる音が演歌らし くないというか、バタ臭ささえ感じさせる音です。どうしてそうなるか 説明できんというか良く分からないのがもどかしいのですが。 23)夢よ叫べ:遠藤賢司 結局、このアルバムで個人的に最も素晴らしかったのは、杉良でも勝新 でも安藤昇でもなくて(そして断じて猪木ではありません。念のため) この曲でした。 エンケンの名前は知ってたし、「カレーライス」位は聴いたこともある けれどきちんと意識して聴くのはこれが初めてだった。で、聴いて正直 胸が熱くなった。そして泣けてしまった。 ぶっきらぼうに見栄張って どんなに強がっていても 本当はね 誰でも哀しくて 泣きたい夜だってあるよ それでも見なよほら 可愛いじゃないか 涙も知らぬげに そうさそんな夜に 負けるな友よ 夢よ叫べ この歌詞を聴いたとき、友達の一人の顔が浮かんだ。 訳ありの身で、身を削るような思いをしながらそれでも笑顔を絶やさず 健気に生きている友達です。途端に目頭が熱くなってしまった。 それだけで自分にはもう充分。アルバムの締めにふさわしい文句無しの 傑作です。 ....しかし、今回は疲れたな。自分でも書いていてここまでのボリューム になるとは思ってなかったっす。 |