「サイバースペースからの攻撃(河上イチロー著、雷韻出版)」に掲載された対談です。一部、掲載記事と異なっている可能性があります(校正前原稿を元にしているので)。1999年3月8日の対談です。
スーパー・ネットワーカーズ対談
――「悪徳商法?マニアックス」の画像削除事件のそもそもの発端は、東京消費生活センターからプロバイダーへの電話連絡だった。BEYONDさん(以下「びよ」さん)の「悪徳商法?マニアックス」のページに、このセンターで作成した小冊子の表紙が掲載されているので、削除をしてほしい、と。
そこで、プロバイダー側は一時的にこの画像を外部からは見えないように設定し、びよさんに連絡をした。一九九九年二月十五日にメールが届く。
びよ 僕のページ全体が不可視になったわけじゃないんですね。問題の画像だけなんです。そのあとトップページが見えなくなったのは僕が自主的に変更したので。
河上 じゃあ、該当の小冊子の写真の部分が強制的に見えなくされた、ということですね。まあ、プロバイダー側は「見えなくしただけで削除してない」という理論なんですが、外から見えないのは一緒ですね(笑)。
びよ まあ全然変わらないと思うんですけどね。
――問題とされたのは、小冊子そのものの著作権ではない。その表紙にあった深田恭子さんの写真の肖像権問題だ。センター側は、「この写真を小冊子に掲載することについては契約したが、ページ掲載については契約しておらず、ホリプロから肖像権侵害のクレームが入るかもしれない」と主張したという。
河上 東京消費生活センターがページに載せるというのなら、契約上の問題はあるのかもしれない。でも、他人が、小冊子を紹介する意味で載せたわけでしょ。その場合、「表紙の引用」ということは、出版業界なんかでもごく普通に許容範囲として行なわれているんですよね。
そうすると、ホリプロから苦情がくるというのも変な話だし、また、そのことをセンターが言ってくるのも妙な話。肖像権そのものは深田さん個人に帰属するし、写真の著作権は写真家にある。
びよ 大体、僕、深田恭子知らなかったし(笑)。
河上 あとで聞いたらけっこう人気があった、と(笑)。
びよ そのへんのコンパニオンの姉ちゃん連れてきたのかと思ったんです。そしたら、どうも人気らしくて。
河上 たとえば、深田恭子の写真集の中身を無断で載せてました、というのなら問題だと思う。でも……
びよ 表紙にたまたま深田恭子が出ていただけ。誰が載っててもいいわけですよ。別に消費者センターの所長の顔写真でもよかったわけです。
河上 あと、プロバイダーに苦情を言う、というやり方に疑問がある。例えば、怪人二十一面相から脅迫状が来た。あるいは酒鬼薔薇事件の挑戦状が送られてきた。そのときに、郵便局は何か責任を問われますかっていうこと。あるいは、電話で麻薬取引の会話があったとき、電話局に責任があるのかといったら、責任はないわけですね。プロバイダーというのは、それと同じような立場なんじゃないかって考え方がある。
びよ クレームつけたのは、仕組みをわかってない人からなら仕方ないかもしれないけれど……。僕はいつでもビッグネットに、「クレームがあったら『本人に言ってください』って答えてください」って言ってるんですよ。でも、プロバイダーにとっては、苦情が来ること自体がいやなことらしいんです。
河上 (笑)転送するのも面倒といったら、そうなりますよね。でも、その代わりに全ページの検閲の責任を負おうとしているわけですね。
びよ 苦情が来たら、「うちには関係ありませんので、本人に言ってください」というぐらいの責任は、プロバイダーにあると思うんですよ。それを嫌がってるわけです。それでもっと大きな責任を背負おうとしているっていうのが、非常に謎なんですね。
どんなページ開いたって、苦情とか問い合わせというのはあり得ると思うんです。
河上 アンチ巨人ファンが巨人ファンページに苦情言ったり(笑)。
――二月二十六日、ビッグネット側は「深田恭子の写真の著作権で引っかかった事実」と述べ、肖像権問題をいつのまにか著作権違反問題と混同してしまった。
さらに、三月一日には「著作権に関して、抗議が来る来ないに関わらず自主的にその権利を尊重し、著作物を取り扱う場合は“必ず”著者の承諾を得て掲載してください」という規約を持ち出す。
そこでびよさんが「著作権法に触れてはいない」と主張すると、「法令違反だという事ではなく弊社の独自に定めた規約に対する違反だという事です」と、「違法ではないが規約違反」と主張してきた。
河上 口実が、最初は肖像権についての苦情があったこと、次は著作権違反、それから規約違反。このへん、場当たり的な対応だと思うんですけど。
ビッグネットは、酒鬼薔薇のときも真っ先に契約解除したところでしたね。まさに、クレームをつけられたくないっていう姿勢のような……。
びよ そうですね、まったくそのとおりです。ナビコネクションから内容証明来たときにも、「とにかくうちに苦情が来ないようにしてくれ」ということで、苦情が来ること自体がいやなんだっていう感じの対応でした。
河上 そのあたり、ベッコアメの尾崎社長とは対極的な対応だという気がしますね
びよ 権力ってのは責任がつきまとうわけだから、責任をたくさん持てば権力持てるわけです。だから、権力持ちたいんじゃないかと思うんですけどね。コンテンツプロバイダーとしてやっていこうと思ってるとか。
河上 「ビッグネットに置いてあるホームページが評判になったら、それはビッグネットの功績だ」みたいな。
びよ そうそう。それはうがちすぎかもしれないけど、ビッグネットの評判を落とすようなページはダメ。
河上 本来、場所を貸してるだけであって、出版社や放送局と全然違うんですね。パブリッシャーやブロードキャスターじゃない。出版社は編集作業に関わってるし、どういう本を出す出さないってのも自分で決めてるわけですね。それとは違う。
びよ たぶん「公開してやってんだ」っていう意識なんじゃないかなと思う。出版社と同じ感覚になりたいと思ってるのかもしれない。だけど、僕のほうが金を払っているお客様なんだから。
そういう考え方のプロバイダーが増えてくると、個人としては困りますよね。せっかくのインターネットで、自分でサーバー持つ以外に自分の意見を発表する手段がないっていうことになれば、今の自費出版と費用的にもあまり変わらなくなっちゃいますから。
びよ 問題になったのは、「第三者に著作権があるものはどんなものであっても許可をもらえ」という、非常に厳しい規定なわけですね。ただ、こういうルールがあるにしても、それをきっちり守らせようとすること自体が、僕は間違ってると思ってるんで。大体この規約守ろうとしたら、ほとんど全部のページがつぶれちゃいますよ。
河上 そうなんですね。町中の写真でも、何が写ってるかわからないから載せられない。しかも、著作権と肖像権がごっちゃになってるし。
実は、著作権を完全にがちがちにしてしまうと自由な表現活動ができなくなってしまうから、法自体にきちんと引用規定なんかの除外規定を設けている。それをわざわざ制限してるんですよね。
それと、もう一つ問題なのは、プロバイダーに検閲の「責任」があるのかということ。私は「権利」じゃなくて「責任」「義務」っていうんですが、そこまでやらないといけないんだろうか。というのは、最終的には全部確認しないといけなくなる。許可をとったと書いてあっても嘘かもしれない。膨大なデータが日々更新されて、それを全部チェックできるんだろうか。
びよ フランスに、AlternBという無料ページ提供の巨大なサービスがあったんですよ。そこに、あるアイドルのヌード写真を載っけてるページがあったんですね。そのアイドルが管理プロバイダーを訴えたらしいんですよ。そうしたら「プロバイダーはそれを事前にチェックする必要があった」ていう判決がくだったんです。
河上 いやな前例ができましたね。
びよ それで、無料ページ運営側は、「四万サイトもあるのに事前にチェックなんて不可能だ」っていうことで、アメリカかどっかにサイトを移す、と。
河上 (笑)いい考えだ。
びよ さらに、この判決に対しては、四万サイトのオーナーが文句言ってるし、欧州議会もフランスに対して抗議しているんですね。
河上 先ほどの規約でいえば、例えば批判的な文章を載せたいときに相手が許可をくれるとは限らないですよね。そうすると、自由な言論ていうのはそこで完全に消えてしまう。プロバイダーもそこまで考えてないですね。
びよ 表現ていうのは結局、他人の表現物を利用してやんないと表現できないから。だから、こういう制限を強めていけば、衰退していくんじゃないか。
河上 インターネットっていうか、HTMLが面白いっていうのは、引用の文化なんですね。「>」印をつけて引用したりとか、あるいはリンクってのも、「ここを参照しろ」という引用でしょ。そういう意味でいうと、引用を許さないっていうのは、インターネットの自殺じゃないかという気がするんですね。例えば掲示板で、相手の言葉引用するときにいちいち許可とるのか。
びよ この理論だととらなきゃいけないわけですよ。
河上 これまでの著作権は、ネットにはもう存在できないんじゃないかって思いますね。「わたしが作りました」っていうのはあるんだろうけれども、公開した瞬間に共有のものになってしまう。その空間で、「著作権がこの人のものです」って限ることができない。
びよ その中で面白いと思うのは、オープンソースの流れが出てきたことなんですね。今まではどちらかというと、囲い込み運動。ところが、リナックスがそれに穴をあけようとしているわけですね。
河上 ネットスケープもソース公開。みんなで作ることで、いいものを作ろうっていう感じになってきた。
びよ だから、インターネットでは、ソフトウェアだけじゃなくて、表現の分野でも、みんなでいいものを作ろうって流れになってたほうがいいと思うんです。
他人の掲示板を集めて編集して、誰かがページ作っちゃってもいいと思うわけですよ。著作権を持っている人が一人で発言して加工して、ではなくて、その人はもう発言だけ。加工は誰か別の人がやればいい。
河上 ネットなら分担ができるからすごくいいですね。
びよ それは著作権を厳しく守ってたらできない。OSのソースコードでも、何千行とかになってくると一人じゃ管理できないから、管理する人がどんどん分割していくといい。
河上 個人の限界っていうのもあるだろうし、逆に、すごいものを最初に作った人には追随する人もなかなか出てこないのが実態だから、最初の人の栄誉っていうのは、すごく守られていると思うんです。例えば暗号ソフトPGPの原作者、ジンマーマンさんの権威ってすごくて、今出てるPGPが最初のとずいぶん違うものになっていても、やっぱりジンマーマンさんのPGP。
びよ 個人が儲けるとかいうよりもやっぱりみんなで共有していいものを作りたいし、あなたもよければ僕もよくなる、という考えがフリーソフトの考え方なんです。
河上 フリーソフトはすごくネット的だなと思いますよね。作った人の名誉は保たれて。でも、自由に使ったり改造してもいい。すごくいい改造をしたら、また一つ積み上げて。それで、原作者が「こんないい改造してくれてありがとう」というような社会は面白いなと思う。自分だけだ!というんじゃなくて。
びよ そういう社会になろうとすると、「みんながみんな才能持ってるわけじゃないから、勝手に改造して粗製濫造になる」という説もあるけど、僕はそれで残れないようなものはいいものじゃないと思う。
河上 淘汰も厳しいでしょうね。悪いものは残れない。
びよ 残らなかったのは、残らなかった理由があるからで、そんなのわざわざ著作権で保護して残す必要はない。
河上 これからの著作権っていうのは、金の面では守れないと思うんですね。それで儲けようという著者は残れない。ただ、名誉は守れると思う。
びよ インターネットの特性ですね。ネットではほとんどビジネスできないから。
河上 そうなんです。ネットスケープでもそうなんだけれども、まずただで配っておいて、それで人気が上がったら広告料で儲ける。
びよ 最近、僕のページに似たようなページができたんですよ。レイアウトも、やってることも。そうすると、誰かが「パクリだ」とかいってメールを送った人がいるみたい。わかってねえなあって感じだった。パクリでもいいじゃんか。
河上 そうそう。ネット自体がパクリの文化だし。
びよ 僕のページだって、僕自身のものなんてほとんどないわけ。勧誘やってるの僕じゃないんだから。勧誘のアイデア考えたの僕じゃないんですよ(笑)。
河上 自分の体験ぐらいでしょ、自分のものっていえるのは。あとは、それをまとめた努力ぐらいでね。
びよ それなのに、「誰かの著作権をわたしが守ってやろう」というようなことを考える人が多い……。
河上 類似ページはできたほうが面白い。わたしも紀宮殿下ページ作ったら、皇族のページがもっとできると思ってたのね。それなのに全然できない。
びよ それは全体的に自主規制の雰囲気が充満してるのかなあと思うんです。だから、著作権違反スレスレぐらいのページが氾濫したら取り締まれなくなっちゃうわけで、それくらいになれば面白いと思うんですけどね。
河上 そう。ただ怖いのは、そういうスレスレのところを取り締まるために、もっと安全なとこまでやられて、線を引かれてしまうといやだなと思う。
河上 悪徳商法のページができたって聞いてすぐに見に行ったんですよ。九七年九月ですね。こういうページを作ろうと思ったきっかけは?
びよ 特にきっかけはないんですけど(笑)。ページを開きたくって、自分は何が詳しいかなあと思ったときに、悪徳商法に詳しかったから、データを並べた。
トンデモ本を並べて楽しむとかいうのとちょうど同じぐらいのころだし、あと僕がインターネット始めて半年ぐらいのとこで、やりたくなってたっていうのもあって。そのころ、アングラ系とかいろいろ見て回ってて、データベースっぽい、だらだら、怪しげなのを並べてるのは面白いなあっていうのも興味があったし。
河上 とにかくデータを並べてしまおうっていう発想は、わたしも近いものがあって、怪しいデータベースって、いいですよね。
びよ 僕も最初は、ほかのところを見て回ってて、ただリンク集作ってただけなんです。そうしたら、どうも俺の求めるものはない。そのうち情報が集まりだして。
ある一社だけを特別悪者扱いしたくはないっていうのがあったから、とにかくたくさん載せようっていうコンセプトがあったんです。
河上 で、いつのまにか悪徳商法の第一人者みたいに。
びよ うん、そうですね。すでに東京消費者センターのページとか弁護士のページとかでマルチ商法の説明はあったんだけど、どうも何か僕の求めてるものではなかった。「こんなんで悪徳商法はならないだろう。みんなわかってねえよ。面白くねえよ」って。
河上 情報をコレクションしてあるっていう、それだけで面白いっていうところもある。アングラ系ってそういう発想でできてる気もするんですよ。
びよ アングラ系って基本的にそんな感じですよね。正義を気取るわけじゃなくて。
河上 クレームはどのくらいきましたか。
びよ ビッグネットにいって僕のとこに来てないのが、ナビコネクション、サミットと、インターネットジャパンが来たとか来ないとか。あとアムウェイぐらい。消費生活センターも。僕のところに直接来たのは、ニューウェイズが多いんですよ。今はやりだから。「在宅でできる仕事、Aコース、Bコース、ニューウェーズ」って。これが十通くらい。あとJVDとかいうところが来たぐらいで、そのくらいかな。
名誉毀損とか著作権侵害だとかで「法的に対処したいと思います」って来るわけですね。ところが、「訴訟の準備が整ったら、連絡くれればこちらの弁護士からご連絡いたします」ってメール送ったら、大体そのあとプッツンなんですよ(笑)。法的に対処するつもりもないのに「法的」って出したら脅迫罪にあたるんですけどね。
河上 たぶん、ちゃんとした会社だったら本当に訴えてくるんだろうけれども、そういうことではないんですね。
びよ あとクレームっていうほどじゃないけど、あなたなんでこんなことやってるんですか、みたいな質問メールはしょっちゅう来ます。「ニュースキンはいい会社なんです。なんであなたはこんなふうにいうんですか」。
それはたまたま掲示板でその話題が出ただけだったんで、クレームのうちに入れてないけど。
河上 でも、掲示板に載ったら、その管理人に責任があるってのも変な話ですよね。管理人が「それはおかしいですね」とか書いてるんだったら話は別だけど。
びよ 「悪徳商法と銘打ってる掲示板でうちの名前が出るのはまずい」というような言い方でしたけどね。でも、悪徳かどうかわかんないから、まずは議論して情報集めるために、僕の掲示板に来るわけです。
河上 そうでしょうね。掲示板に会社が反論をしに来たっていうのはありますか。
びよ けっこうある。マルチ商法だと、ディストリビューター多いから、たいてい何か反論してますよ。
河上 そういう形だと、両方の意見が聞けるから、すごくいい場所ではないかと逆に思うんですよね。疑問があるっていうのは確かだし、そこで会社側の説明がすごく納得できたら、逆に会社にとって有利な、疑惑を払拭できる場所になると思うんですよ。
びよ ええ、まったくもってそのとおりです。別の人がやってるアムウェイの掲示板があるわけですけども、議論の中で、「僕たちの疑念を晴らすようないい情報をください」という感じで、ディストリビューターの反論が歓迎されているんです。その書き込みを見れば、自分の考えも補強できるし、それが言論、議論ってやつですよ。反論がないと先へ進みませんから。
もし、悪く書かれた会社の人たちが、「お前のところで何か悪いこと言ってるから、俺にも発言の機会与えろ」というので来るのは、むしろ歓迎なわけです。以前、「あなたの掲示板でうちの社が悪く言われてるから、消してほしい」という連絡があったんですね。「いや、ここは消すんじゃなく、どうせならあなたが誤解点を指摘してください。それをページに載せますから、そうしたほうがあなたの社にとってもいいですよ」って説明したんですよ。そうしたら、「そうします」っていったきり、途切れちゃったんです。
河上 雑誌や新聞に載ってしまうと、反論権ってないでしょ。ネットだと同じ立場で反論できる。
びよ 掲示板でやらなくても、自分のページを立ち上げて、「どこそこのページに反論します」というような公開質問状も自分でやれるわけですよね。大体、名誉毀損の名誉回復手段は広告じゃないですか。日経新聞に全面広告載せてくださいとか。それを書くことで名誉回復するんだから、そのネット上の名誉回復っていうのは、要するに反論すればいいだけのこと。
河上 私はもともと思想があったわけじゃなくて、でもいろいろ本とか見ていくと、どうやら古典的な自由主義者らしい。いわゆる弱肉強食の自由主義者で。そうすると、議論に勝った者が勝ちというネットはすごく面白いなと思ってるんです。そういう意味では、すごく公平なんですね。議論の能力のもとにおける平等。
びよ それはそれで強者の理論だと思うんだけど。
河上 まあ、議論がへたでも、すごく説得力のある証拠を一つポンと載せれば、それは支援してくれる人がどんどん出てきたりする。だから、丸裸にされるメディアだっていう気はするんですね。
びよ 人気が取れれば周りが勝手にやってくれますから。
河上 逆に、自分のアンチのページができるとすごく面白いなと思うんです。そこでお互いなんか闘ったりなんかして。異論を認めるっていうのが表現の自由の最たるものだと私は思ってるんで、
びよ 反「悪徳商法?マニアックス」みたいなのができてくれることを祈ってるんだけど、なかなかできない。「協力するから作ってくれ」って僕も言ってるんです。
ホームページ作るんでも、まだまだ敷居は高いわけですよ。だから、そのくらいぐらいは援助してあげようって気はあるんですね。
河上 いやあ、そういうのって面白い。自ら議論の場を提供するっていうのは。
びよ 反論来たほうが面白いんですよ。賛成意見だけが来ても、みんな同じだから面白くない。
河上 ただ怖いのは、その議論すること自体に遠慮がある。論じること自体がまずいというような感覚の人が多いということ。「反論されるのが怖いんですか」って言いたくなるね。「あなたは説得力ないんですか」って。へたすると、悪徳商法について論じること自体がヤバイということにもなりかねない。
びよ そうですね。たまに「これは悪徳商法を推薦してるページなのか」っていう質問が来るんです。当然、僕のページで悪徳商法について議論していけば、悪徳商法できちゃうわけです、情報が仕入れられるから。
だから、何でもプラス面とマイナス面があるわけだから、いくらマイナス面の情報だってプラス面はあるわけですよ。昔、『完全自殺マニュアル』読んで、すごく気持ち悪くなって、自殺は絶対したくないなと思ったわけですよ。たいてい普通の常識の人はそう思うわけですよ。だから、危険な話題だからってつぶすのは、逆だと思うんですね。
河上 情報が与えられたら、与えられたままに受け取るんじゃないかっていうような、思いこみがあるみたい。
びよ そういう人たちは行間を読む力がない。
河上 与えられた情報を判断するっていう段階がない。
びよ いろんな受け取り方ができて、このページは実際にどういうアウトプットができるかということが、わかんない人が多いわけですよ。
その人たちを、温室に入れるのか、それともわかってない人はわからせるようにするのかの方法、どっちかしかないわけですね。それを規制しようっていうのは、温室に入れて危険なところには連れていかない。でも、その保護がなくなったら、無秩序、混乱になるわけですね。判断力が身についてないんだから。
河上 そう。例えばフィルタリングソフトで、中学生とか小学生に悪いもの見せないと。一見よさそうなんだけれども、それよりも、「インターネットにはこういう悪い情報もあるんです」と、まあ世の中に実際あるわけだから、で、「そういう情報がなぜいけないのか」というようなことを教えてないんですね。ただ、見せない。排除しろ、浄化しろ、というようなことを、青少年を守るという名目で一生懸命言ってる。本当に青少年を守りたいんだったら、どういう情報がいけないという、その区別ができるようにするのが必要。それから、なぜそれがいけないのかっていうのを納得させないといけない。
びよ それは、今の教育に対する自信のなさの表れだと思うんですけどね。悪いの見せちゃったら、それを鵜呑みにして悪いほうに行くような教育しかしてないんだから、悪いのは見せちゃいけない、という発想になる。
河上 最近は、メールマガジン発行システムのMも検閲が厳しくなってますね。悪い言葉が入っているとダメ。
びよ 今メールマガジンていうとMぐらいしかないから、ちょっと厳しいですよね。一応、現在の法律ではマルチ商法って認められてるんですよ。その認められた範囲でやるっていうところも、ダメになった。
河上 ヤバそうなものはとにかくダメっていうような傾向がありますよね。
びよ まあ、小企業の無料サービスにそこまで求めるのはちょっと酷かもしんないって気はするけど。ただ、Mはもう寡占状態にあるんだから、もうちょっと表現の自由に寛容であってほしいですね。
無料ページみたいに、ジオシティーズとかXOOMとかTRIPODとかがいっぱいあって、その中でユーザーの選択の自由があるならいいけど、Mの場合そうじゃないですから。
河上 確かに「ほかのところでやってくれ」っていうのが言える場合は、「うちではやらないでくれ」と言えるんでしょうけどね。
河上 ネットだから悪いやつが出てくるっていう言い方があるけれど、単に一般社会の投影だと思うんですね。ネットが便利だったから、そこにも波及してきただけ。
びよ ただ、スレッショールド(敷居)の問題っていうのはあると思うんですね。ネットだと敷居が低い。
でも、それをわかった上で発展していくしかないと思う。ムラ社会だとみんな顔見知りだから犯罪できない。都会は、隣の人も顔も知らないから怖い、と言ってるのと同じで、もう都会はすでに存在するんだから、それはもう認めちゃった上でどうするかっていうのを考えないと、どうしようもない。
河上 例えば、電話を使った悪徳商法で「当たりました」とかってやってくる。それと、メールの悪徳商法とどこが違うんだろうか。根本的な発想はあんまり変わらないような気がする。方法論は一緒で、同じものがメディアを超えて平行移動している。
びよ 明治時代ぐらいまでの悪徳商法は、せいぜい取り込み詐欺とかネズミ講ぐらいしかなかったけれど、今はもっと巧妙なマルチまがいとかになっている。それはメディアがどんどん進歩したから。しょうがないんですよね。はがきの悪徳商法だったのが、電話で進化が速くなって、今度ネットにのったらさらに進化が速くなったっていうことはあるかもしれない。
河上 メディアを乗り換えているけど、発想は同じ。
びよ だから逆に、そのスピードを生かせば、被害を防ぐことも可能なわけですよ。悪徳商法が広まるのと同じスピードで防げるわけだから。
だからそれは、メディアをどう使うかっていう問題。インターネット国際ねずみ講のペンタゴノだって、被害が広がる前に同じスピードで網を張っていけばいい。
河上 アンチの情報も同時に流れるっていうのはすごく面白いなと思ってる。実際、ペンタゴノが上陸したという話が来たのと、そのペンタゴノからのメールが来たのが大体同じころだったので、「ああ、うちにも来てた」って感じだった。
河上 あと、マニュアルが四種類あって、それを順番に買っていくっていうやつがありますよね。
びよ ああ、マルチレベルマーケティング。私はエリクソン・メールって呼んでる。最初に「わたしの名はクリストファー・エリクソン」っていうイカした出だしなんですよ。
河上 あの翻訳はすごく手慣れてる名訳で。
びよ そうです。あれ、洗練されてるんですよ。
河上 それだけにまた怪しさが倍増してる(笑)。ああいうスパム、全部保存してるんですけどね。
びよ 僕も基本的にはスパム全部保存してるんですけど。あれは、悪いことだと思ってやってる人はけっこう多いと思いますよ。「俺んとこに情報入ってきたのは早いから、みんなだましてやれ。どうせ顔もわかんないし」と思って、自分がだまされる。
河上 なるほど。早い段階でいけば儲かるだろうって。
びよ そうそう。マルチでだまされる人は、もうほんとに信じてる人と、人をだましてやろうと思ってだまされてる人がいるから。マルチに引っかかってても、「今の段階なら儲かるし、俺はのし上がってやるんだ」っていうことを掲示板に書き込む人っているわけですよ。それ見ると「あ、こいつだまされてるよ、ああ、かわいそうに」(笑)。まあ、現実世界だったらそれは仕方ないわけです。身近な人から来るから、信じてしまう。でも、ネットでだまされる人っていうのは、要するにただのバカ。調べりゃわかる。そこがインターネットのいいところなのに、調べないわけだから。
河上 そう。この会社ってどうなんだろうって検索かければ、マルチだっていう情報が引っかかったりする。
びよ そういう意味では、実名などを導入して、ネット内に信憑性が増すと、かえって弊害も起こることもありえると思う。ニフティサーブって匿名性がないから、かえってうかつに信用して、取り込み詐欺とか起こるわけじゃないですか。
河上 信用性があるからこそ詐欺が起こる。
びよ それが拡大してしまうこともありえるわけです。
河上 アダルトのビデオ売りますというようなビラが入っていても、ほんとに金払って送ってくるのかわからないものには慎重に対応する。だから、へたに信用度を高めるとかえってまずいかもしれない。ネットの信用度をこれ以上に無理に高める必要はないですね。
びよ バランスと言うか、匿名と実名の住みわけが行われると良いですね。