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2008年12月30日(火) 07時38分

ヤミ金不法収益50億円超、カネの行方今もわからず読売新聞

 大阪府内で2003年6月、ヤミ金融の取り立てを苦に夫婦ら3人が心中した事件で、このヤミ金融グループを束ねていた男が指名手配から3年近くたった先月、東京都内で逮捕された。法外な金利で得た不法収益は50億円超に上るが、その行方は今も解明できていない。男の足取りをたどると、組織がなお活動を続けている疑いが浮かび上がった。

 東京タワーを正面に望む東京・港区の39階建て高級マンション。11月25日早朝、ジャケット姿の男が18階の一室に帰宅した。後を追うように警視庁の捜査員たちが部屋に踏み込んだ。男は、大阪府警が追い続けたヤミ金融組織のトップ、亀井浩次容疑者(41)だった。

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 府警によると、亀井容疑者はかつて、福岡県内を拠点にした自動車窃盗団の一員だった。00年に窃盗容疑で指名手配された後、都内でヤミ金融を始め、数年で7グループ総勢70人もの組織を束ねる存在になり、延べ約6万人から五十数億円もの不法収益を上げたとされる。

 このうち強引な取り立てで知られていたのが、鹿児島県出身者らで組織されたグループ。大阪・八尾市の主婦(当時69歳)は03年4〜5月、このグループから3万2000円を借りた。深夜に及ぶ取り立てが毎日のように続いた。グループに30万円以上を払ったが「完済」とはならず、同年6月、夫(同61歳)と長兄(同81歳)とともにJR関西線の線路にしゃがみ込んで自殺した。

 今月16日、府警に出資法違反容疑などで再逮捕された亀井容疑者は、ヤミ金融への関与について「記憶にない」と否認を続けている。

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 亀井容疑者の本名や連絡先を知っていたのは組織のごく一部だった。06年2月に府警が那覇市の拠点を摘発した際もいち早く逃亡。これまでに組織のメンバーは50人以上逮捕されたが、亀井容疑者の潜伏先を供述する者はいなかった。

 その潜伏先が判明したのは、交際相手からだった。

 亀井容疑者は07年9月、同居していた辺土名(へんとな)麻衣(あい)容疑者(25)(犯人隠避容疑で逮捕)と新宿区内のペットショップで犬を購入。その後、「犬が死んだ」と店に言いがかりを付け、43万円を脅し取る恐喝事件を起こした。2人とも偽名を使っていたが、警視庁が防犯カメラの映像などをもとに辺土名容疑者を特定し、2人が住む港区のマンションを割り出した。

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 亀井容疑者は、マンションを「ハシジマタカシ」という偽名で契約。別の偽名で運転免許証も取得していた。捜査関係者は「この免許証を使って職務質問をすり抜けたこともあった」と明かす。パスポートも、また別の偽名で取得していた。

 マンションからは、何台ものパソコンや携帯電話とともに、現金1億3000万円が見つかった。那覇の潜伏先からも5000万円の現金が出てきた。しかし、50億円超の不法収益の大半は行方がわかっていない。

 マンションの家賃は約35万円。辺土名容疑者には毎月数十万円の“小遣い”を渡し、今年になって仲間とパリに旅行するなど、派手な生活だったというが、ある捜査員は「未発見のアジトに大量の現金が隠されているはず」とみる。

 ペットショップには亀井容疑者の「手下」を名乗る男からも脅迫電話があった。“移動拠点”として使用されたとみられるキャンピングカーも複数見つかっており、組織が今も存続している可能性が高い。

 3人が命を絶った線路の脇には、今も線香が手向けられている。主婦の次兄(84)は「事件を忘れる日はない」と話し、亀井容疑者を相手取った損害賠償請求訴訟を検討しているという。(関俊一)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081229-00000056-yom-soci