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2008年12月28日(日) 23時55分

ガザ空爆 イスラエルの狙いは何だ産経新聞

 イスラエル軍はパレスチナのハマスが実効支配するガザ地区に対し、空前の大規模空爆に踏み切った。ガザからのロケット弾攻撃阻止だけでなく、2月のイスラエル総選挙前にハマスを可能な限り弱体化させておく狙いがあるとみられる。しかし、犠牲者が増えるほど、パレスチナ社会やアラブ世界でのハマスへの同情と支持は高まる。イスラエルの「戦略目標」は、いまひとつはっきりしない。

 ハマスはエジプトが仲介し6月に成立したイスラエルとの一時停戦の延長を拒否し、今月19日に停戦が失効した直後から再びロケット弾攻撃を本格化させた。

 ロケット弾は命中精度が低い上に威力も限定的で、イスラエルに深刻な軍事的脅威を与えているとはいえない。それでもハマスは年々、発射能力を拡大させ、時にはイスラエル側にも死者が出るようになった。

 ハマスは、このロケット弾を「闘争」のシンボルとして有効に利用しており、今回の停戦崩壊後も数百発を撃ち込み、イスラエル軍を見事に“挑発”した。最大の狙いは、イスラエルが続ける「ガザ封鎖」と、その結果生じているガザ住民の困窮状態に国際社会の注目を集めることであり、できれば次の停戦交渉でアラブ世論を糾合し、ガザと国境を接するエジプトに国境開放を迫りたいところだろう。いまのハマスには、イスラエル軍の攻撃を招いても失うものはないのだ。

 ただ、ハマスの誤算は、イスラエルの反応が予想以上に激しかったことだろう。パレスチナ人の犠牲者数が多いことは「イスラエルの残虐性」を強調する材料にはなるものの、報復を求める「身内」からの圧力も強まり、報復の連鎖に巻き込まれかねない。ハマス指導部がそこまで計画していたとみる向きは少ない。

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 イスラエルにとっても大規模攻撃は“両刃の剣”だ。与党の中道右派カディマと連立与党の中道左派・労働党は総選挙を約6週間後に控え、ガザ地区からロケット弾が撃ち込まれる状況を放置できなかった。

 ただ、地上部隊を投入してもハマスのロケット発射能力を根絶できなかったことは過去の経験が示しており、今回の大規模空爆による奇襲攻撃では、一時的にハマスのロケット弾発射能力をそぐぐらいしか期待はできない。しかも、その効果がいつまで持続するのか不透明だ。ハマスが投票の直前にイスラエル領内で自爆テロなどに成功してしまえば、イスラエル世論の支持はカディマや労働党に見切りをつけ、強行右派のリクードに流れるだろう。

 一方、07年春のハマスによるガザ武力制圧で亀裂が決定的となった穏健派のパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハにとっても、「イスラエルのやりすぎ」は都合が悪い。28日もファタハの治安部隊が西岸南部ヘブロンで、「ガザでの虐殺」に抗議するパレスチナ住民のデモを抑える衝突が起きており、一般住民にはファタハが「イスラエルの手先」に映る。ファタハが支配するヨルダン川西岸でパレスチナ武装組織が再び対イスラエル武装闘争を活性化させれば、ファタハの治安能力の足下を揺るがしかねない。(カイロ 村上大介)

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