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2008年12月28日(日) 21時54分

【政治部デスクの斜め書き】女性の描き方が、ちょっと厳し過ぎるのではないかという話産経新聞

 選挙取材には、隠れた魅力がある。

 いわゆる選挙のプロが見る選挙情勢は、選挙の行方を判断する上で貴重な情報であり、これが面白いのは当然なのだが、これとは別に、「素人」が選挙をどうみているか、という話を聞くのも捨てがたい。場合によっては、「プロ」以上に示唆に富んでいて、考えさせられることが多いからだ。

 失礼にも「素人」呼ばわりした相手は作家の三輪太郎氏。なにせ、ご本人が何度も「自分は素人」と言うので、あえて「素人」と呼ぶ。

 三輪氏いわく。「私はずっと文学の世界に生きてきたので、政治は素人で、この本も、何かとんでもない間違いを書いているのではないかと気になっていて…」。控えめである。

 三輪氏は今秋、1冊の本を出版した。『マリアの選挙』(徳間書店)。タイトルが気になって手にとってみた。

 ある地方都市。元首相で与党のボスが半世紀かけて張り巡らした盤石な後援会組織。ここで行われる参院補欠選挙。そして挑むのは36歳、バツイチ。職歴なしの女性…。

 選挙の成り行きと、小説の柱となる、ある「脇役」のことは伏せるが、実は、興味を引いたのは、この主人公の女性、マリアの「性格付け」だった。

 早速、三輪氏に会って聞いてみた。

 「女性候補に対する位置づけ、ハードルが高いというか、低いというか」

 すると、三輪氏は優しい目をしてから、キュッと表情を引き締めた。

  □  ■  □

 出版社で文芸書などを担当した後、作家となった三輪氏。文芸や思想が専門だが、政治を正面から扱ったことがなかった。

 この三輪氏に「政治を書きたい」と思わせたのは、一つの演説だった。

 平成17年9月10日。土曜日の夜、都内のホールに三輪氏は娘さんらを伴って出かけた。

 そこで演説していたのは郵政解散を断行し、世論の審判を翌日に控えた小泉純一郎首相(当時)。

 三輪氏の耳に残ったのは、あるフレーズだ。

 「私の考えに賛同してくれるなら、票を下さい」

 そして小泉氏は衆院選で歴史的な圧勝をする。

 「政治とは言葉の質なのだと痛感した瞬間でした」。三輪氏は3年前のあの瞬間を振り返る。

 自分の外側にいる人たちに対して、これほど響く言葉を持っている人に初めて出会った。「遠い目の持ち主だったと思うんです。小泉氏は」

 遠いところから、自分を見ることのできる人。自民党の内部も内部、その中心にいながら、自民党を外から、はるかな高みから見ていた人ではなかったか。

 それが『マリアの選挙』の出発点だったという。

 だが、気になるのは、この主人公マリアが結構、かわいそうなキャラクターとして描かれているからなんです…。

  □  ■  □

 36歳の女性で、先ほども書いたがバツイチで、ハーフで、なんとなくこれまでやってきたことが中途半端で。家庭内暴力の被害者で、その裏返しなのか、やや攻撃的な性格で。

 一方で、三輪氏はこんな性格もマリアにつけた。

 「ネットビジネスを成功させるだけの力、組織を作り上げる力を持っている。官僚組織と正面から議論する頭脳がありながら、笑ってかわす柔らかさもある」

 これは大変な実力も持ち主ですよ。そんな人、男女を問わず、そうはいないんじゃないですかね。

 すると三輪氏は2つのことを言った。

 「ほら、あったでしょう。社会党のマドンナブーム。あれで、ただ女性というだけではだめだ、ということが、素人にははっきりしたんです」

 なるほど。素人ね。土井たか子さんのマドンナブームね。

 「もう一つは、男性と同等の能力を持ちながら、女性のよさをキープ(保持)している女性が、最近は次々と出てきていることでしょうか。以前の女性候補、女性政治家とは違いますよ。素人から見るとね」

 そういって、三輪氏は、複数の現職の女性国会議員や女性経済評論家の名前を挙げた。

 なるほど。

 三輪氏は「私は素人」と何度も繰り返しながら、ズバリと切り込んできた。

 「小泉政治の良しあしは議論があると思うし、私も小泉氏の政策がすべていいとは思っていないのですが、でも、あの演説がね。あんな演説できる人が何人いますか」

 遠くから、高みから自分を、そして自分の組織を眺めることのできる存在。そして、言葉を組織の外の人に伝えることのできる人。そんな思いでマリアを描いただのだという。

 ないものねだりか、それとも期待か。

 三輪氏はこうもいった。

 小泉政治、小泉的な政治手法、そして小泉の演説。「これをしっかりと総括できていないんじゃないでしょうか。私たちは」

 また、課題を突きつけられてしまった。(金子聡)

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