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2008年12月28日(日) 16時58分

【衝撃事件『未解決』の核心】事件の筋は“性犯罪”か 豊田女子高生殺害の無念いまだ産経新聞

 今年5月、部活動からの帰宅途中に愛知県豊田市の愛知教育大附属高校1年、清水愛美さん=当時(15)=が自宅近くの農道で殺害された事件は、下着やジャージーが奪われていたことから、豊田変質者による犯行との見方が強まっている。約15キロ離れた場所では愛美さんのバッグが発見されており、豊田捜査本部では「2つの地点を結ぶところに必ず犯人はいる」と、寄せられた情報の捜査と不審者の洗い出しに全力を挙げている。


 犯罪多発地区の寂しい農道で事件は起きた


 愛知県豊田市。言わずと知れた自動車の世界的メーカー「トヨタ自動車」の企業城下町だ。

 だが、犯罪の統計が示す豊田は自動車の街だけではない。豊田市を管轄する豊田署は刑法犯認知件数が愛知県の警察署でトップ。全国でも屈指の犯罪多発地区といえる。

 「外国人労働者が多いうえ、高速道路が縦横に走りインターチェンジ(IC)も多い。1時間あれば東は浜松まで行き、西は名古屋を越える。交通の利便性は犯罪の利便性でもある」

 県警幹部は管内事情をこう説明した。愛美さんはこうした特異な土地柄の被害者でもあったのだろうか。事件現場は県警幹部の言葉を裏付けるような場所であった。

 愛美さんが殺害されたのは、伊勢湾岸自動車道豊田南IC入口の側道から50メートルほど入った田んぼの一本道だった。情報提供を呼びかける立て看板と、路上に置かれた花束だけが「現場」であることを知らせていた。

 車1台分しか幅がない農道が住宅街のある南西方向へ1キロ延び、日中は通行人もなく寂しい現場だ。現場から最も近い民家でも約300メートル離れている。大声を出しても高速道路の車の通行音でかき消されてしまう場所で、愛美さんは人生の最期を迎えてしまった。

 「この辺は夜になると真っ暗になってしまいます。街灯をつけようにも、電柱もない。事件後には、怖くて自転車で学校に行けなくなったという子供もいました」

 近所の女性(63)はそう言って声を震わせるが、事件から半年以上経過した現在も街灯は設置されていないままだ。愛美さんの命の代償は生かされているのだろうか。

 

 奪われたジャージーと下着


 殺害方法からは卑劣な犯行が浮き彫りになっている。

 事件はゴールデンウィーク4連休初日の今年5月3日に発覚した。

 前日の2日に部活動を終え、午後7時半ごろになっても愛美さんが帰宅しないため、家族が捜索願を出した。捜索に当たっていた知人が変わり果てた愛美さんを見つけた。

 愛美さんの顔面には、目や鼻を中心に殴られた跡があり、顔色は変色していた。口から首にかけては「電気絶縁テープ」と呼ばれ配管補修工事などで使用される黒いテープ(幅3・8センチ)が7重にも巻き付けられていた。

 さらに、口の中からは、声が出ないように押し込まれたとみられる白いタオルが見つかった。

 「25年以上刑事をやってさまざまな現場を見てきましたが、被害者の無念が伝わってくるという点では指折りの事件です」

 現場に駆けつけた県警捜査員はこう振り返る。

 執拗に暴力を振るって愛美さんを死に追いやった犯人の狙いはなんだったのか。犯行の状況からは性犯罪の可能性が強いが…。

 「遺体で見つかった愛美さんには乱暴された形跡はなかった。犯人の体液も検出されていない。だが、愛美さんの下着が奪われていた」(県警幹部)

 現場から約15キロ離れた岡崎市稲熊町の小呂川土手からは、現場から持ち去られた愛美さんのバッグが発見され、弁当箱などがみつかるが、紺色のジャージーは持ち去られていた。犯人は下着やジャージーを奪うことが目的だった疑いがあるのだ。

 さらに注目すべきは、愛美さんが運営していた携帯サイトで自己紹介する「プロフ」である。事件前日には次のような書き込みがあったという。

 《なんかこわいんだけどお母さんおそいよお》(19時)

 《違うんだよね…?気のせいだよね》(22時7分)

 事件の約7時間前にはこう書かれていた。

 《気持ち悪い 部活どうしよ》(12時12分)

 プロフの内容から考えると愛美さんは帰宅途中に連日、不審者や変質者に出くわし、怯えていた可能性もあるのだ。

 

 不安を募らせる地域の住民

 

 帰宅途中の女子高生が殺害された事件が未解決ということで、付近の住民の恐怖感は高まっている。

 豊田市教委が警察や学校と連携して不審者情報を提供する緊急配信メールの登録者数は事件前が3078件だったのに対し、事件後の11月末時点では1万1300件に跳ね上がった。

 「事件が未解決ということが子供を持つ父母の心配を増大させている」(市教委)

 愛美さんが通っていた愛知教育大付属校も警戒を継続したままだ。

 事件後に大学内に10台、高校に2台の防犯カメラを新たに設置。不審者情報を共有する連絡網も作成した。愛美さんが部活動帰りに事件に巻き込まれたこともあり、部活動の終了時間は現在も短縮したままだ。

 愛美さんの教室には1番後ろの列中央に、今も花やぬいぐるみが飾られている。同級生が殺害されたことへの生徒の心の傷も大きく、事件後1カ月は専門のカウンセラーが心のケアに当たったという。

 「不審者が多く、完全に安全を確保するのは難しいが、危険を予測して回避する力を生徒に養っていきたい。犯人の逮捕は安心できるひとつの要因になるのだが…」

 山本建一副校長は早期の事件解決を望んでいる。

 

 焦点は「2つの現場を結ぶ不審者」

 

 豊田署捜査本部では犯行の様子から、性犯罪に巻き込まれた可能性が強いとみて、性犯罪者の洗い出しを中心に捜査を進めている。

 事件以降、豊田署管内で公然わいせつ2件と強制わいせつ1件の事件が解決した。捜査本部では、それぞれの容疑者と愛美さんの事件との関連を調べたが、結論は「シロ」だった。

 「変質者による犯行に偏って捜査していると、事件を見誤ることもあり得る。あらゆる事件の容疑者との関連を調べている」

 豊田署幹部がこう指摘するように、路上での性犯罪だけにとどまらず、下着泥棒はもちろん、窃盗犯や強盗犯なども捜査の対象に事件との関連を調べているという。

 現在、捜査本部では、(1)被害現場とバッグが見つかった岡崎市とを結ぶ道路の定時通行者からの聞き込み(2)同様の手口による犯行の捜査(3)寄せられた情報の潰しの作業−の3点を中心に事件の解明を進めている。

 捜査本部が特に注目するのはバッグが捨てられた岡崎市の現場だ。捜査幹部が指摘する。

 「捜査側にとって有利なのは現場が2つ(豊田市と岡崎市)あること。いずれかに土地勘がある者を丹念に洗い出すことで、犯人に結びつくはずだ」

 犯人は犯行後にバッグを持ったまま岡崎方面に逃走したことになる。岡崎と豊田という離れた現場を結ぶ情報が1本につながれば、捜査は急展開を迎える可能性もある。

 一方で、捜査は事件の風化との戦いでもある。

 10月末までに捜査本部には640件の情報が寄せられた。だが、事件のあった5月に357件、6月に164件と多かったが、9月には18件、10月には11件と減少している。

 こうした中、12月10日、愛美さんの事件は警察庁の公的懸賞金制度の適用を受け有力な情報に300万円が交付されることになった。捜査本部は公的懸賞金の指定により、情報が多く寄せられると期待するが、「事件発生から原則6カ月以上経過していること」が条件の懸賞金制度は、捜査が長期化し難航していることの裏付けでもある。

 事件発生当初は最大で80人いた専従捜査員も31人に縮小された。

 だが、数は問題でないと、ベテラン捜査員は言い切る。

 「若い女の子が被害にあった悲惨な事件だ。石にかじりついてでも犯人を挙げたいという思いに変わりはない。ひとりひとりの捜査員の士気は高い」

 事件現場には、同級生が書いたと思われる紙片が置かれていた。

 《体育祭楽しかったよ 一緒に出たかったな…》

 一瞬にして未来を奪われた愛美さんの無念を捜査が晴らすことができるのか。

 情報提供はフリーダイアル0120・400・538まで。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081228-00000535-san-soci