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2008年12月28日(日) 10時23分

千年紀の源氏物語トップ10産経新聞

 源氏物語が文献に初めて登場した寛弘5(1008)年から、今年はちょうど1000年。各地で祝賀行事が催され、関連書籍の刊行も相次いだ。

 気軽な読み物から専門的な学術書まで新刊、復刊さまざまだったが、ベスト10を眺めると、多くの人が「源氏物語」そのものに接したことが分かる。初めて現代語訳した与謝野晶子から、円地文子、田辺聖子、最近の瀬戸内寂聴まで代表的な訳者の名がずらり並んだ。

 源氏物語の魅力は、主人公の光源氏がこの世で考えられる限りの栄華を極め、愛情と権力、財力をほしいままにする華やかな物語だけでなく、栄華が崩壊し、主人公が喪失に耐えて生きる苦しみ、さらには源氏の死後、残された子孫が悲しみを抱いて生きるさままで描写した点にあるといわれる。

 幸福だったころでさえ、藤壺との恋愛の罪など、幸せと表裏の悲しみも描いている。

 深くかかわった訳者や研究者が「何度読んでも初めて読みたらん心地」(本居宣長)、「一つの人生を生き終えた気持ち」(25年かけて全巻を解説した秋山虔東大名誉教授)、「源氏なしには生きられなかった」(ロシア語訳したタチアナさん)と口をそろえるように、源氏物語は時空を越えて多くの人を魅了している。

 世界最古のこの長編は、同じストーリーでも訳者によって表現が異なり、同じ訳者でも訳出期によって異なったりする。例えば、与謝野訳は、30代の恋愛中と、教鞭(きょうべん)をとった後年の訳とでは違っている。恋愛の描かれ方に訳者の気持ちが投影されている。どちらが好みかは、読者の選択による。今回は巻数による重複を除いたが、こんどは全54帖で、人気のストーリーのベスト10を抽出しても面白いかもしれない。

 1000年間受け継がれてきた物語には、豊潤な味わいと楽しみ方がある。(牛田久美)


◇千年紀の源氏物語トップ10

(1)『源氏物語』瀬戸内寂聴訳(講談社文庫)

(2)『あさきゆめみし』大和和紀(講談社漫画文庫)

(3)『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり』山本淳子(朝日選書)

(4)『源氏物語ビギナーズ・クラシックス』角川書店編(角川ソフィア文庫)

(5)『源氏物語の京都案内』文藝春秋編(文春文庫)

(6)『試験によくでる「あさきゆめみし」』大和和紀、伊藤義司(講談社)

(7)『まろ、ん? 大掴源氏物語』小泉吉宏(幻冬舎)

(8)『全訳源氏物語』与謝野晶子訳(角川文庫)

(9)『源氏物語』円地文子訳(新潮文庫)

(10)『新源氏物語』田辺聖子訳(新潮文庫)

(1月1日〜12月18日、紀伊國屋書店調べ)

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